「半導体装置は、量産の何世代も前から顧客と開発を始めないと採用されない世界です。不況だからと開発を止めれば、回復期に出す製品がなくなる。TELの研究開発費の推移は、その構造を経営判断として織り込んでいることを示しています」(半導体アナリスト・岩井裕介氏)
短期業績で投資を上下させないためには、顧客と数年先の課題を共有する仕組みが要る。問われるのは投資額の大小より、長期投資を社内外に説明できる根拠を持っているかどうかだ。
足元で利益率の伸びを抑えている要因の一つは、人件費を含む固定費の増加だ。同社は7〜9月期の利益率が4〜6月期より下がる見通しを示し、その理由に製品構成と固定費の増加を挙げた。利益率35%を目指す企業が、あえて固定費を積み増しているわけだ。
採用は2024年度から5年で約1万人を計画し、国内では2024年度に1,031人、2025年度に855人を採った。グループの従業員は約2万800人で、その大半をエンジニアが占める。
報酬は競合企業の水準をベンチマークに置き、業績が好調なときはそれを大きく上回るように設計しているという。評価は相対評価ではなく絶対評価で、目標とコンピテンシーの2軸で見る。同僚同士で評価の枠を取り合う構図にはなりにくい。
河合利樹社長は「やる気重視経営」を掲げ、2015年度から全グループ会社でエンゲージメント調査を続けてきた。2024年度のスコアは2015年度比で19ポイント上昇した。各社は地域・業界の上位25%を目標水準に置いている。
装置ビジネスでは、顧客の工場で装置を立ち上げ、トラブルに対応するフィールドエンジニアの力が次の採用を左右する。TELは国内にその専門子会社を置き、グローバルにフィールドエンジニアのトレーニング拠点も設けている。現場にどこまで判断を任せているか、制度としての公開情報は多くない。ただ、評価・報酬・研修を一体で回そうとする姿勢は、開示された数字からも読み取れる。
「固定費を増やせば、短期の利益率は下がります。それでも採用を続けるのは、装置の立ち上げや保守を担う人材が、次の受注の前提になる業界だからでしょう。人への投資が回収されるまでの時間を、株主や社員にどう説明するかが問われます」(同)
人件費を削るべきコストと見るか、受注の前提として投じるか。後者を選ぶなら、評価の透明性と還元の仕組みをセットで示す必要がある。
TELの開発・生産の中心は東北と九州にある。この1年半ほどで、大型拠点が相次いで完成した。
拠点:所在地、用途、建設費、時期
東京エレクトロン宮城 生産新棟:宮城県大和町、プラズマエッチング装置などの製造、約1,040億円、2027年夏竣工予定
TELテクノロジーソリューションズ 東北生産・物流センター:岩手県奥州市、成膜装置の製造・物流、約240億円、2025年11月竣工
東京エレクトロン九州 新開発棟:熊本県合志市、コータ/デベロッパ・洗浄装置の開発、約470億円、2025年10月竣工
東京エレクトロン宮城 新開発棟:宮城県大和町、プラズマエッチング装置などの開発、約520億円、2025年4月竣工
宮城の生産新棟(宮城生産革新センター)では、労働生産性4倍、生産リードタイム3分の1といった目標を掲げる。稼働後はエッチング装置の生産能力を現状の約3倍にする計画だ。
ただし、装置1台は多数の部品やユニットでできている。自社工場を広げるだけでは生産は増えない。同社の国内製造会社は年2回「生産動向説明会」を開き、需要の見通しを取引先と共有している。年1回の「TELパートナーズデイ」では優秀な取引先を表彰し、2024年度からはコア技術に絞った「TELサプライヤーサミット」も始めた。