「家族」というチームのつくり方

子どもに好かれる父親が、家庭の雑談で話していること

Getty Images

雑談力とは

雑談力については様々な本がありますが、『雑談の一流、二流、三流』(著・桐生稔/明日香出版社)は、雑談に苦手意識がある方にも読みやすくまとめられています。雑談の5つのステップ「①始め方、②広げ方、③聞き方、④盛り上げ方、⑤終わり方」について、苦手な人がやりがちな「三流」のやり方、普通の人の「二流」のやり方、そして理想としての「一流」のやり方が示されているため、悪い点も良い点も理解しやすいのです。
この本で書かれている技術がビジネスの現場で使えることは言うまでもないのですが、さらにすごいのは、子どもとの雑談でも活かすことができるということです。とくに、子どもに使えると思うのは、

1)始め方
2)広げ方
3)盛り上げ方

の3つのステップです。この3つのステップを子ども版にアレンジして持っておくだけで、子どもとの雑談は激変することでしょう。
ひとまず今回は、最初のステップである雑談の始め方について、見ていきたいと思います。

始め方① しつこく質問する

雑談の始め方については、ビジネスと子どもとでは大きく異なります。ビジネスの場では、どのように雑談を始めるかに難しさがありますが。相手が子どもの場合、雑談を始めること自体にハードルそのものはないと思います。

ところが、振った雑談に乗ってくれるかどうかの難しさは、大人以上です。普通に「今日どうだった?」などと聞いても、ちゃんと話してくれません。
そこで大事なのは、ある種の「しつこさ」です。しつこく、子どもが深く考え、ちゃんと言葉にできるようになるまで、質問をぶつけ続けるのです。

「学校は今日どうだった?」「習い事はどうだった?」と質問したあとに、掘り下げの質問をする必要があります。「楽しかった」なら、「何が楽しかったの?」「具体的にはどんなことが楽しかったの?」と質問するのです。
しかし、ここで終わってしまうと、「忘れた」とか「わかんない」と意外と中身をちゃんと話してくれないことが多いので、もう少し踏み込みます。「忘れるわけないよね? 具体的に教えて」と、具体的なエピソードまで話をさせることが、入り口としてとても重要です。
そうやって具体的なエピソードを話すことが習慣になると、放っておいても雑談を始めることができるようになっていきます。

私の妻はこの質問力が非常に高く、具体的なエピソードを話すまで、話題を変えません。今日、学校で何があって、どんな発見があり、そこで何を感じたのか、エピソードを話すまで質問し続けます。「別に何もない」とか「忘れた」という言葉で逃げることを許しません。
すると、子どもも、日々の小さな変化を言葉にできるようになります。
友達とぶつかったささいなすれ違いとか、なんとなく仲間外れになってしまった場面とか、友達にしてもらった嬉しいこととか、そのときにどんな声をかけたのかとか、そういうことも話してくれるようになってくるのです。

妻がこのように関わるので、息子は母親にはなんでも話をするのに、父親には、あまり話をしてくれない時期がありました。「パパは遊び担当だから、お話担当はママね」という状態だったのですが、私もママをベンチマークして質問の仕方を変えたところ、徐々に話してくれることが増えていきました。
日々の出来事を言語化させる力とか、日々の成長を自覚することは、とても大事だと感じています。

始め方② 失敗談・ピンチ話を話す

子どもは、大人の失敗談がとにかく大好きです。
うちの息子が大好きな、私の失敗談があります。息子の出産のときに、幸運なことに立ち会うことができたのですが、陣痛を待っているとき、父親としてはすることがなく、売店でおにぎりを買って食べて、そのおにぎりを写真で撮っていました。その写真をあとから見た妻は、「人が出産で大変なときに、のんきにおにぎり食べてたんだ」とツッコむのですが、息子はこの話が大好きで、「ママが出産のときにパパはのんきにおにぎり食べてたんだよね」と嬉しそうに話します。
また、私が小学生の頃、おなかが痛くなって大便をもらしてしまったことがあるのですが、そういう話も大好きです。「その後どうしたの?」「どうやって片づけたの?」「パンツは捨てたの?」「洗ったの?」と聞いてきます。
そのほかにも、「遅刻したことある?」とか「お客さんに怒られることってあるの?」など、失敗やピンチに関しては、興味津々に質問してくるのです。

ちなみに、息子の担任の先生は、この失敗談・ピンチ話をするのが本当に上手で、かっちゃんエピソードとして1日1つの失敗談をされるそうです。それを生徒のみんなが楽しみにしているのだとか。
話す内容は、新婚旅行でアメリカ旅行に行ったときに、乗っていた車が他の車にぶつかってしまったとか、大切にしていた想い出のコップを割ってしまったとか、レストランで注文を間違えたとか、そういうささいなことなのですが、そういった小さいピンチをどう思ったのか、どうやって切り抜けたのかを話すのです。失敗やピンチをどう乗り越えたのかをハラハラしながら子どもたちは聞いているわけです。

私たち親も、日々暮らしていれば、小さな失敗やピンチがあるわけで、それを話のネタにすれば、子どもたちを引きつけられるでしょう。
大人も子どもと同じように失敗して、情けないところがあるんだと思ってもらえると、子どもは前のめりになって聞いてくれます。たとえば以下のように話すと、普段は父親の話なんか聞こうとしない子どもも興味を持ってくれるかもしれません。

「きみはさ、宿題が間に合わなかったり、約束に遅れたりしたことある? パパさ、昨日さ、お客さんの約束している時間に、間に合わなそうになったんだよね。間に合わないかもってなって、でも遅れたら、お客さん、怒っちゃうでしょ? パパ、めっちゃピンチだったんだ」

こんなふうに話して、「このあとどうなったと思う? ここからが大変で……」とさらに興味を引くように話せば、さらに前のめりになって聞いてくれるでしょう。
そして、解決策やピンチ・失敗への向き合い方を語れば、その雑談は、親子にとって非常に充実したものになっていくでしょう。

始め方③ 子どもの好きなことを学ぶ

子どもが関心を持っていることがあると思います。
私の息子の場合、電車、恐竜、ポケモン、マイクラ、名探偵コナンなどが関心事です。女の子であれば、プリキュア、ちいかわ、おままごと、ディズニーアニメ(特にプリンセス系)などでしょうか。
その子どもが好きなことについて興味を持ち、子どもに教えてもらうスタンスを持つと、子どもは生き生きと語り始めるでしょう。

休みの日には、子どもの関心事を扱ったテーマパークやイベントに参加するのも非常に有効です。名探偵コナンなどは、一緒に映画を観に行ったのをきっかけに親がハマってしまい、人を引きつける物語の普遍性を見つけたりしています。電車も恐竜もポケモンもマイクラもだいぶ詳しくなりました。

子どものそっけない態度にもめげずに質問を続け、自分が失敗したエピソードを語り、子どもが好きなことに興味を示して話題にあげる。
こうしたことを日々実践していけば、子どもは父親と話すのが大好きになってくれるはずです。

ご感想はこちら

プロフィール

高野俊一
高野俊一

組織開発コンサルタント。
1978年生まれ。日本最大規模のコンサルティング会社にて組織開発に13年関わり、300名を超えるコンサルタントの中で最優秀者に贈られる「コンサルタント・オブ・ザ・イヤー」を獲得。これまでに年200回、トータル2000社を超える企業の組織開発研修の企画・講師を経験。
指導してきたビジネスリーダーは累計2万人を超える。
2012年、組織開発専門のコンサルティング会社「株式会社チームD」を設立、現代表。
2020年よりYouTubeチャンネル『タカ社長のチームD大学』を開設。2023年6月現在、チャンネル登録者約3万5000人、総再生回数380万回。
2021年より、アルファポリスサイト上にてビジネス連載「上司1年目は“仕組み”を使え!」をスタート。改題・改稿を経て、このたび出版化。
著書に『その仕事、部下に任せなさい。』(アルファポリス)がある。

著書

チームづくりの教科書

高野俊一 /
成績が振るわない。メンバーが互いに無関心で、いっさい協力し合わない。仕事を...

その仕事、部下に任せなさい。

高野俊一 /
通算100万PVオーバーを記録した、アルファポリス・ビジネスのビジネスWeb連載の...
出版をご希望の方へ