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第四章 女王
82.素晴らしい提案
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わたくしは翌日、腰が痛過ぎて起き上がる事が出来ませんでした。
「うぅ、これも全てマッティア様が優しくないからです」
「だから、言ったではありませんか……。きっと泣かされるのはベアトリーチェ様だと……」
ベルタが呆れたようにそう言い、アニェッラがベッドで枕に顔をうずめているわたくしの腰をさすって下さいました。
「まあまあ、仲がよろしい証拠じゃないですか」
「仲が良いのでしょうか?」
「充分なくらい宜しいですよ」
アニェッラの言葉にわたくしは少し照れました。
確かに仲は良いと思います……。普段はとても優しいですし……。でも、ここ何年かで夜の意地悪度が増したような……。
勿論、優しく甘々な交わりの時もあるのですけれど……、意地悪な時の方が多い気もします……。
意地悪な交わりも悪くはないのです……、恥ずかしいけれど……、どこかで望んでいる己もいるのです。で、でも、優しく抱かれたい時だってあるのです。それなのに、マッティア様ったら最近意地悪ばっかり……。
ま、まあ、昨夜はわたくしが悪いのですけれど……。
「そういえば、アニェッラはいつ結婚するの?」
わたくしがそんな事を考えていたら、ベルタがアニェッラと気になるお話を始めたので、わたくしもお話に混ざることに致しました。
「わたくしも、その事がずっと気になっていたのです!」
「ですが、結婚するという事は……、女官を辞めなければならないという事です。私、まだベアトリーチェ様の下を辞めたくないのですわ」
アニェッラの言葉に、わたくしはとても感動致しました。わたくしだとて、アニェッラと離れるのは寂しいのです。
この王宮に来て心細い時にアニェッラとベルタが優しくしてくれたのが、どれほど嬉しく心強かったか……。
「わたくしも寂しいです。でも、アニェッラの幸せの邪魔はしたくないのです」
「私、思うのですけれど……、アニェッラは次は乳母として帰って来れば良いのですよ」
「「乳母?」」
ベルタの言葉にわたくしとアニェッラは顔を見合わせました。
「だって、ベアトリーチェ様と陛下の調子だと、まだまだ御子が出来るでしょう? というか絶対出来ますよ。アニェッラも時期的に合いさえすれば、乳母になる事は可能だと思います」
「それが叶えば、とても素晴らしいわ」
ベルタの言葉にアニェッラが喜んでいます。わたくしも、とても素晴らしい提案だと思うのですけれど……、何故でしょう? すっきりしません。わたくしたちの調子って何ですか?
「時期を上手く合わせる事が出来れば良いのですけれど……、こればかりは天のみぞ知るですから……」
わたくしがそう言うと、ベルタがにやりと笑ったので、わたくしとアニェッラは、何か良い策があるのかと思い、ベルタをじっと見つめました。
「ベアトリーチェ様が陛下と臥所を共にされた時は報告するので、同じように旦那様と枕を交わせば良いのです」
「それは……あの……ベルタ?」
流石にそんなに毎回報告されると恥ずかしいのですけれど……。
わたくしの気持ちをそっちのけで、アニェッラが良いかもしれないわと言っています。全然良くないのですけれど……。
「わざわざ報告してくれなくても、余程陛下がお忙しくない限り、毎晩されているでしょう? こちらもそれに合わせて、毎晩は無理でもなるべく……子作り出来るように頑張るわ」
「ちょ、ちょっと、待ってください! わたくし達だとて、いくら何でも毎晩はしていません! 普通に抱き合って眠るだけの日だってあるのです」
わたくしは顔を真っ赤にして、否定致しました。その言葉に2人は、嘘だという顔をしています。
「本当です! 流石に毎日では体がもちません」
「そうなのですか? まあ、交わりの後始末は陛下がされておられるでしょう? ですから、てっきり毎晩していると思っていました……」
わたくしの言葉にベルタがそう言いました。アニェッラも、うんうんと頷いています。
「え? 後始末とは何ですか?」
「え? まさか気付かれてなかったのですか?」
2人によると、マッティア様が交わりの後を感じさせないように、わたくしの体もシーツも全て綺麗にしているそうです。
し、知りませんでした……。
だって、最近では気を失ったまま眠る事も多いですし……。そうでなくとも、あの後にマッティア様に抱き締められたまま眠るのが、とても心地良くて……、すぐに眠ってしまうんですよね……。
「わたくしが眠った後に、そんな事をしていたのですね……」
「寧ろ、何年も気付かず眠れるベアトリーチェ様の方が凄いです」
私がエヘヘと笑うと、アニェッラが私、絶対戻ってこられるように頑張りますねと言って下さいました。
わたくしも、とても嬉しいです。もしそうなったら、とても素晴らしい事です。
「ベアトリーチェ、大丈夫ですか!?」
「っ!? マッティア様?」
眠っている間に政務に行ってしまわれた筈のマッティア様が、突然部屋に入って来られました。また転移の魔術で……。
「扉を開けずに入って来てはいけないと、お義母様も仰っていましたけれど……」
わたくしが呆れたように、そう言ってもマッティア様は気にしていないようです。
わたくし、実はイザベラ様のことをお義母様とお呼びしているのです。最初の頃、お義母様は望まぬ婚姻を強いられたのだから、そのように呼ばなくても良いと仰いましたが、わたくしがマッティア様を愛し、御子たちにも産まれたので、ずっとそうお呼びしたいと思い、4年前くらいからお呼びしているのです。
「大丈夫ですか? そんなにも痛いのですか?」
「え? あ、大丈夫です」
別のことを考えていて、マッティア様の言葉が聞こえていなかったわたくしに、マッティア様はとても心配そうになさっています。
「今朝、私が起きた時には貴方はまだ眠っていましたし、まさか腰が痛くて起き上がれない程とは思いませんでした。……もっと早く来たかったのですが、手が離せなくて」
「誰のせいだと思っているのですか? それに放っておいて下さいませ」
わたくしに手をのばしたマッティア様を無視し、わたくしは頭まで寝具を被り隠れました。
「私との御子が欲しいという話をしながら、私を遠ざけるのですか?」
「え? あ、あれは……アニェッラがそうなればステキですねというお話です。そういうわけでは……」
マッティア様の切なそうな声に、わたくしは寝具から目だけを出して、つい返事をしてしまいました。
その瞬間、マッティア様が人払いをなさったので、ベルタたちが出て行ってしまいました。わたくしが待ってと言っても、2人とも頑張って下さいとしか言って下さいません。
「マッティア様……?」
「腰を治したいので、隠れてないで出てきてくれませんか?」
「……大丈夫です。放っておいて下さいませ。今朝よりはだいぶマシですし……」
「ですが……」
マッティア様が困っています。本当に心配しているのだということが分かり、わたくしはニコニコ致しました。
「本当に悪いと思っているのなら、次から気をつけて下さいませ」
「……頑張ります」
「…………わたくしだって、意地悪ばかりではなく、たまには優しく甘やかされながら、貴方に抱かれたいのです。そりゃあ、昨夜はわたくしも悪かったのですけれど……」
そう言って、また寝具の中に隠れるとマッティア様はわたくしから剥ぎ取ってしまいました。わたくしが非難の声をあげた瞬間、口付けが降ってきました。
「っ……ん、んぅ……」
「そのように可愛くオネダリされると、理性が飛びそうです」
「っ……ん……お仕事中ですよ……、それに腰が治るまで無理です」
その瞬間、マッティア様はわたくしを引き寄せ、腰に手を当てたと思うと、治癒魔術で治してしまいました。
腰の痛みを理由に、暫く夜のお誘いを断れると思っていたのに……マッティア様ったら。
わたくしが、そう思っていると、マッティア様が覆い被さってきたので、わたくしは慌てて押し返そうと致しました。
「ま、待って下さい! お仕事中は駄目だと前回約束したでしょう!」
「大丈夫です。貴方がそう言うと思って、今日の分は終わらせてきました」
「え? で、でも、わたくしも治ったのですから、一緒に政務に戻りますよ」
「死ぬ気で政務を終わらせてきた国王に褒美はないのですか?」
そう言って、マッティア様はまたわたくしに口付けました。そして、わたくしは甘く優しく、蕩けるようなマッティア様の愛に堕ちていくのです。
「うぅ、これも全てマッティア様が優しくないからです」
「だから、言ったではありませんか……。きっと泣かされるのはベアトリーチェ様だと……」
ベルタが呆れたようにそう言い、アニェッラがベッドで枕に顔をうずめているわたくしの腰をさすって下さいました。
「まあまあ、仲がよろしい証拠じゃないですか」
「仲が良いのでしょうか?」
「充分なくらい宜しいですよ」
アニェッラの言葉にわたくしは少し照れました。
確かに仲は良いと思います……。普段はとても優しいですし……。でも、ここ何年かで夜の意地悪度が増したような……。
勿論、優しく甘々な交わりの時もあるのですけれど……、意地悪な時の方が多い気もします……。
意地悪な交わりも悪くはないのです……、恥ずかしいけれど……、どこかで望んでいる己もいるのです。で、でも、優しく抱かれたい時だってあるのです。それなのに、マッティア様ったら最近意地悪ばっかり……。
ま、まあ、昨夜はわたくしが悪いのですけれど……。
「そういえば、アニェッラはいつ結婚するの?」
わたくしがそんな事を考えていたら、ベルタがアニェッラと気になるお話を始めたので、わたくしもお話に混ざることに致しました。
「わたくしも、その事がずっと気になっていたのです!」
「ですが、結婚するという事は……、女官を辞めなければならないという事です。私、まだベアトリーチェ様の下を辞めたくないのですわ」
アニェッラの言葉に、わたくしはとても感動致しました。わたくしだとて、アニェッラと離れるのは寂しいのです。
この王宮に来て心細い時にアニェッラとベルタが優しくしてくれたのが、どれほど嬉しく心強かったか……。
「わたくしも寂しいです。でも、アニェッラの幸せの邪魔はしたくないのです」
「私、思うのですけれど……、アニェッラは次は乳母として帰って来れば良いのですよ」
「「乳母?」」
ベルタの言葉にわたくしとアニェッラは顔を見合わせました。
「だって、ベアトリーチェ様と陛下の調子だと、まだまだ御子が出来るでしょう? というか絶対出来ますよ。アニェッラも時期的に合いさえすれば、乳母になる事は可能だと思います」
「それが叶えば、とても素晴らしいわ」
ベルタの言葉にアニェッラが喜んでいます。わたくしも、とても素晴らしい提案だと思うのですけれど……、何故でしょう? すっきりしません。わたくしたちの調子って何ですか?
「時期を上手く合わせる事が出来れば良いのですけれど……、こればかりは天のみぞ知るですから……」
わたくしがそう言うと、ベルタがにやりと笑ったので、わたくしとアニェッラは、何か良い策があるのかと思い、ベルタをじっと見つめました。
「ベアトリーチェ様が陛下と臥所を共にされた時は報告するので、同じように旦那様と枕を交わせば良いのです」
「それは……あの……ベルタ?」
流石にそんなに毎回報告されると恥ずかしいのですけれど……。
わたくしの気持ちをそっちのけで、アニェッラが良いかもしれないわと言っています。全然良くないのですけれど……。
「わざわざ報告してくれなくても、余程陛下がお忙しくない限り、毎晩されているでしょう? こちらもそれに合わせて、毎晩は無理でもなるべく……子作り出来るように頑張るわ」
「ちょ、ちょっと、待ってください! わたくし達だとて、いくら何でも毎晩はしていません! 普通に抱き合って眠るだけの日だってあるのです」
わたくしは顔を真っ赤にして、否定致しました。その言葉に2人は、嘘だという顔をしています。
「本当です! 流石に毎日では体がもちません」
「そうなのですか? まあ、交わりの後始末は陛下がされておられるでしょう? ですから、てっきり毎晩していると思っていました……」
わたくしの言葉にベルタがそう言いました。アニェッラも、うんうんと頷いています。
「え? 後始末とは何ですか?」
「え? まさか気付かれてなかったのですか?」
2人によると、マッティア様が交わりの後を感じさせないように、わたくしの体もシーツも全て綺麗にしているそうです。
し、知りませんでした……。
だって、最近では気を失ったまま眠る事も多いですし……。そうでなくとも、あの後にマッティア様に抱き締められたまま眠るのが、とても心地良くて……、すぐに眠ってしまうんですよね……。
「わたくしが眠った後に、そんな事をしていたのですね……」
「寧ろ、何年も気付かず眠れるベアトリーチェ様の方が凄いです」
私がエヘヘと笑うと、アニェッラが私、絶対戻ってこられるように頑張りますねと言って下さいました。
わたくしも、とても嬉しいです。もしそうなったら、とても素晴らしい事です。
「ベアトリーチェ、大丈夫ですか!?」
「っ!? マッティア様?」
眠っている間に政務に行ってしまわれた筈のマッティア様が、突然部屋に入って来られました。また転移の魔術で……。
「扉を開けずに入って来てはいけないと、お義母様も仰っていましたけれど……」
わたくしが呆れたように、そう言ってもマッティア様は気にしていないようです。
わたくし、実はイザベラ様のことをお義母様とお呼びしているのです。最初の頃、お義母様は望まぬ婚姻を強いられたのだから、そのように呼ばなくても良いと仰いましたが、わたくしがマッティア様を愛し、御子たちにも産まれたので、ずっとそうお呼びしたいと思い、4年前くらいからお呼びしているのです。
「大丈夫ですか? そんなにも痛いのですか?」
「え? あ、大丈夫です」
別のことを考えていて、マッティア様の言葉が聞こえていなかったわたくしに、マッティア様はとても心配そうになさっています。
「今朝、私が起きた時には貴方はまだ眠っていましたし、まさか腰が痛くて起き上がれない程とは思いませんでした。……もっと早く来たかったのですが、手が離せなくて」
「誰のせいだと思っているのですか? それに放っておいて下さいませ」
わたくしに手をのばしたマッティア様を無視し、わたくしは頭まで寝具を被り隠れました。
「私との御子が欲しいという話をしながら、私を遠ざけるのですか?」
「え? あ、あれは……アニェッラがそうなればステキですねというお話です。そういうわけでは……」
マッティア様の切なそうな声に、わたくしは寝具から目だけを出して、つい返事をしてしまいました。
その瞬間、マッティア様が人払いをなさったので、ベルタたちが出て行ってしまいました。わたくしが待ってと言っても、2人とも頑張って下さいとしか言って下さいません。
「マッティア様……?」
「腰を治したいので、隠れてないで出てきてくれませんか?」
「……大丈夫です。放っておいて下さいませ。今朝よりはだいぶマシですし……」
「ですが……」
マッティア様が困っています。本当に心配しているのだということが分かり、わたくしはニコニコ致しました。
「本当に悪いと思っているのなら、次から気をつけて下さいませ」
「……頑張ります」
「…………わたくしだって、意地悪ばかりではなく、たまには優しく甘やかされながら、貴方に抱かれたいのです。そりゃあ、昨夜はわたくしも悪かったのですけれど……」
そう言って、また寝具の中に隠れるとマッティア様はわたくしから剥ぎ取ってしまいました。わたくしが非難の声をあげた瞬間、口付けが降ってきました。
「っ……ん、んぅ……」
「そのように可愛くオネダリされると、理性が飛びそうです」
「っ……ん……お仕事中ですよ……、それに腰が治るまで無理です」
その瞬間、マッティア様はわたくしを引き寄せ、腰に手を当てたと思うと、治癒魔術で治してしまいました。
腰の痛みを理由に、暫く夜のお誘いを断れると思っていたのに……マッティア様ったら。
わたくしが、そう思っていると、マッティア様が覆い被さってきたので、わたくしは慌てて押し返そうと致しました。
「ま、待って下さい! お仕事中は駄目だと前回約束したでしょう!」
「大丈夫です。貴方がそう言うと思って、今日の分は終わらせてきました」
「え? で、でも、わたくしも治ったのですから、一緒に政務に戻りますよ」
「死ぬ気で政務を終わらせてきた国王に褒美はないのですか?」
そう言って、マッティア様はまたわたくしに口付けました。そして、わたくしは甘く優しく、蕩けるようなマッティア様の愛に堕ちていくのです。
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