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本編

23.王位継承の真実

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 ジュリオと同じ淡い青紫色の髪を綺麗に結い上げた、とても美しい方が、先程まで私が座っていた椅子に座り、ご自分で紅茶を淹れてニコニコと飲んでいた。

 王妃様だ……。

 フィリップやジュリオのような大きな子供がいるとは思えないくらい美しい。顔立ちはロベルト様に似ている気がする……。

 ロベルト様も笑うと、王妃様のような優しげな笑顔になるのかしら? あの方に笑顔は無縁そうだけれど……。


 髪よりもやや濃い青紫色の瞳が、スッと細められたので、私は息を呑んだ。


「母上、どういうおつもりですか?」
「ジュリオがチェチーリア姫に無礼を働いたと聞いたので、確認しに来たの」


 王妃様は、お茶をひと口飲んだあと、ふーっと息を吐いた。

「わたくしは、ジュリオと貴方が逢い引きをしているのをフィリップに見つかって、苦し紛れにそう嘘をついたのだと思ったのだけれど、どうやら違うようね」


 え? ジュリオと私が逢い引き?

「母上、言葉が過ぎます!」
「あら、そうかしら? あの卒業パーティーでの醜聞を聞けば、そう考える者が殆どだと思うけれど? だって、先日の出来事なのよ。大臣たちもそう考えている者が多数よ」

 そんな……。

 でも……卒業パーティーは一昨日なのだから……誰もが私はまだジュリオの事を好きだと考えるのが普通だと思う。


「けれど、今のあなた方を見させて貰った限りでは、逢い引きではなかったようね。勘違いをしてしまって申し訳なかったわ……」


 私があんな事をしたせいで、今もフィリップに苦労をかけてしまっているんだ……。

 本当に私の行動は……フィリップの信用にも繋がるのだという事が痛いほどに分かった。
 私はこれから失った信用を取り戻していく為にも頑張らないと……。


「……チェチーリア姫。わたくし達も間違えていた事は分かっているのよ。何も決まる前から……同じ時期に生まれたジュリオと貴方をめあわせたいと考えてしまった浅はかな時期があったのよ。それが、今の事態に繋がっている事は重々分かっているのよ」


 王妃様は、ジュリオに魔力が芽生えないなど考えてもいなかったと仰った。

 それは私も思っていた。王族なら誰しも魔力があるのが当然だと、幼い時は信じて疑わなかった。きっとジュリオだって、そうだったと思う。


「……わたくしは17歳でフィリップを生んだの」
「え?」
「驚くでしょう? ……在学中に懐妊してしまったのよ。同じ父母から生まれても、婚姻前に生まれた子は婚外子となり、王位継承順が低くなるの……」


 王位継承順が低くなる?

 私がフィリップを見ると、フィリップは困ったように笑った。


「あの時は陛下も若さ故の無鉄砲さでお馬鹿さんだったから、我慢が出来なかったのよ。わたくしも、殿方の望む事には逆らってはならないと愚かにも思っていた頃だったから……」
「では、何故……殿下が王太子になれたのですか?」
「……そういう訳もあって、わたくし達はジュリオが生まれた時は当然のように、ジュリオが跡を継ぐと思っていたのよ。だから、貴方と会わせたの……」



 けれど、結局ジュリオには魔力が芽生えなかった。
 間違えた選択だと思った時には、私がジュリオを好きになってしまっていて……もう遅かったんだ……。


「けれど、結局はフィリップが兄弟の中で一番の魔力を示したので、婚外子だからとか……誰も文句を言えなくなったのよ……」


 王妃様は、「わたくしの迂闊な行動が結果的に貴方を苦しめる事になって、本当に悪かったと思っているのよ」と仰って、私に頭を下げてくださった。


 だから、国王陛下も王妃様も私のパーティーでの一件を咎めなかったんだ。それ故に起きた事だからこそ、陛下が出て来ないで、事態の収束をフィリップに任せる事にしたんだわ。

 私に対して罪悪感があったからこそ、私はいま許されているのね……。


「だから、婚儀までは避妊は必ずしなさいね。身重で婚儀というのも辛いし、本来婚外子などあってはならないのよ。させなくても良い苦労や辛い思いをさせるだけだわ」
「母上……それくらい言われなくとも分かっています」
「……そうね。貴方は身を以て、その苦労を知っているのだものね……」


 王妃様は私に、今回のジュリオの件の事も、逢い引きだと勘違いをしていた事も謝って下さった。
 そして、フィリップを選んでくれてありがとう、と仰って下さってから退室して行った。


「…………フィリップの王太子という立場は、生まれた順で得たものじゃなかったのですね」


 フィリップ自身が苦労をして、今の地位を手に入れたんだ……それなのに私……何ひとつ分かっていなかった。


「君を初めて見た時、恋をしたんだ。だから、死ぬ気で魔力量を増やしたよ……。でもまあ、ロベルトが王位に興味がないと早々に示してくれたからこそ王位争いなどが起きずに、私が王太子となれたんだよ。だから、ロベルトには感謝だね」


 実はロベルト様には好きな女性がいて、その人を得る為に王位よりも臣下として生きる道を選んだのだとフィリップが教えてくれた。
 大臣の方たちを認めさせる為に、交易、流通、外交での一定以上の成果を得る事を条件に、死に物狂いで頑張り結果を出したのだとも教えてくれた……。


 あのロベルト様に、そこまでさせる程の姫とは一体誰なのかしら?

 …………そこまで頑張っておられるのなら、事態を変える努力をせずに嘆いていた私はさぞかし不快だったと思う。


 ロベルト様もフィリップも、本当にとても頑張って望む現状を手に入れている。
 何もして来なかったのは、私とジュリオだけだ……。


◆後書き◇

 その苦労を分かっているからこそ、ロベルトは避妊を徹底しているんですよ、実は(*´ー`*)
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