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番外編

和解と兄上の優しさ(ジュリオ視点)

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「今日はありがとう……。話せて良かったわ」
「俺もありがとう……」

 お茶会が終わった後、チェシリーが握手を求めてくれたので、俺はおずおずとその手を握って礼を言った。

 チェシリーとゆっくり話すなんて何年振りだっただろう。
 幼い頃振りな気がするな……。

 そう思うと、この場を設けてくれたチェシリーには感謝だ。ずっと仲直りが出来ればと思っていた。また一緒に笑い合える日がくればと……何処かで願っていた。

 あ……やば……泣きそうだ……。


「別れ際は、そのような湿っぽい顔をするものではないよ。笑わないと……」


 っ!!?
 こ、この声は……。


「あ、兄上……」
「ジュリオ……いや、ジュリアちゃんか」

 兄上はルカやロベルトと一緒に現れて、俺の頭の上に手を置いてクスクスと笑い出した。


 何で? 何で、此処に兄上がいるんだ?
 今日は内密に会う為に、俺がこんな格好をさせられている筈なのに……。


「ジュリアちゃん、良いね。とても良いよ」


 兄上は、まだ笑いながら俺の頭を撫でた。

「フィリップ、笑い過ぎですよ」
「だって、シシー。面白過ぎるよ……」


 兄上に頭を撫でられるのも何年振りだろう。
 いつしか変な言い訳をして、変な虚勢を張って、「一緒に頑張ろう」と差し伸べてくれた兄上の手を……幼い俺は振り払った。

 所詮、婚外子に何が出来るんだって……そうやって見下して……兄上の苦労を見ようともしなかった。
 段々と兄上との溝が深まっていっても、俺は気にする事もしなかった。


「兄上……ごめん……」
「え? ジュリオ?」

 俺が泣きだすと兄上が凄く驚いた顔をした。
 笑うのをやめて、「どうしたんだい?」と顔を覗き込んでくれたから、俺は更に止められなくなった。


「ごめん。本当に今までごめん。馬鹿な弟で、迷惑ばかりかけて……どうしようもなくてごめん。いつだって、兄上は俺がやり直せるように道を用意してくれていたのに……俺はことごとく、それを突っぱねて……。挙げ句の果てにはチェシリーにまで害を及ぼして……。ごめん。謝って済む事じゃないけど、ごめん。兄上……」


 すると、兄上は優しく笑って「よしよし」と言って俺を抱き締めて頭を撫でてくれた。
 その行動に俺は心臓が止まりそうなくらい驚いたけど、その手を振り払う事は出来なかった。


 兄上……?


「そこまで己で分かっているのなら、もう良いよ。ジュリオは大丈夫だと信じよう」


 兄上は優しい声音でそう言った後、俺の涙を拭ってくれた。

 兄上、許してくれるのか?
 まだ弟でいさせてくれるのか?


「ルカに任せたのは正解だったという事かな。ありがとう、ルカ。あの時、怒りに任せて弟を殺すという失敗を犯さずにすんだよ。生きていれば、こうして和解をする事も出来るんだもんね」
「フィリップ……なら……ジュリオを」
「そうだね、シシー。ジュリオの罪を許そう。王宮への出入りも今後は許可をする。君は自由だよ」
「兄上……」


 そう言って、兄上は俺の頭をまた撫でてくれた。
 涙が止まらない……。俺なんかを……俺なんかを許してくれるなんて……。


「ジュリオ、折角化粧をして頂いているのに台無しですよ」
「だって……ルカ……。止められねぇんだ」
「まったく仕方のない方ですね」


 ルカが手早く涙を拭い、涙で取れて少し黒くなったところも一緒に拭ってくれたので、俺はルカに抱きついて、また泣いた。

 ルカは「まだ直してる途中ですよ」と言いながらも、俺を抱き締めてくれた。


 俺、幸せだ。
 良かった……全部全部ルカのおかげだ。


 その後、チェシリーやシルヴィアちゃんからも賛辞の言葉を貰えたけど、ロベルトだけは「良かったね、姉上」と嘲るように言ってきた。
 まあ、ロベルトには優しさなんて求めてねぇから、別に良いけど……。


「ジュリアちゃん、フィリップからの許可も出た事ですし、また3人でお茶会しましょうね」
「素敵ですね。わたくしもまた皆様とお話がしたいです」
「……別に良いけど、次は女にはならねぇからな」


 こんな格好、これだけにして欲しいものだ。


「その事なんだけどね。ジュリオが望むのなら女性になってルカに嫁ぐ事も出来るよ」
「は?」
「まあ、これは君次第だ。今のまま、王子と侍従として側にいるのも良いだろうけど、正式な夫婦として側にいるのも悪くはないと思うから、良く考えて欲しい」


 兄上の言葉に俺が唖然とすると、兄上は「正式に王女としてルカに嫁がせてあげるよ」と言った。


 正式に……嫁ぐ?
 俺がルカに……?


「王女として? どうやって?」
「ジュリオは最初から女性だった。ジュリアだった事にするんだよ。時に必要なのは真実ではなく用意された事実なのだよ、ジュリアちゃん」


 兄上は事情があって女である事を伏せて育てていた事にすると言った。でも、俺と関係を持った女が数えきれないくらいいるのに、それは無茶というものではないだろうか?

 それとも、その無茶を貫き通せるくらいの権力を兄上は既に確立させたという事なのだろうか。


 まあ確かに……実は女でしたって、この格好で出てきたら「嘘だ」と思っても否定は出来ねぇかもな。どう見ても女だし……。


 正式な婚姻は……。お互いが元気な時よりも、どちらかが死に瀕した時、もしくは死別した時にこそ、その力を発揮するのだろう。
 俺が死んでしまったら、その亡骸は王族の墓に収められる。その死体にルカが触れる事も干渉する事も出来なくなる。
 また逆も然りだ。ルカがそうなった場合、俺自身もどうも出来ない。一緒の墓で眠りたいとか……共に土に還りたいとか……そんな事は願えない。


 だけど、正式な夫婦なら別だ。俺が女になって降嫁すれば……俺は堂々とルカの側にいる事が許される……。兄上は、そこまで考えて言ってくれているのだろう。


「決めるのは貴方ですよ、ジュリオ。私は男の貴方でも、女の貴方でも構いません。どちらの貴方も、私のものなので」
「ルカ……」
「まあ、今すぐ決める事じゃない。ゆっくり悩むと良いよ」


 俺はルカの手を握りながら、兄上の言葉にゆっくりと頷いた。
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