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第57話 女王ナイアーラへの謁見

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 ラクダに乗って、アテムの街を進んでいく。方々から賑やかな喧騒が聞こえてくる。この国は、エネルギーに溢れている。

 その空気感から、他国への侵攻の機運が高まっているな、とアーフリードは読み取った。

 白亜の壁のアテム宮殿へと辿り着くと、高官達が一斉に外へ出てきて、出迎えてきた。皆、一癖も二癖もありそうな顔をしている。戦闘力もそれなりにありそうな雰囲気だ。

「やあ、どーも。こんにちは、どーも」

 気さくに挨拶しながら、自分達を睨みつけてくる高官達の間を、アーフリードは堂々と進んでゆく。大した胆力、である。

 中に入って、しばらく歩いてから、大きな扉の前でディマは立ち止まり、振り返ってきた。

「この先が王の間です。心の準備はいいですか?」
「国を出る時から、すでに気持ちは整えてきてるよ」
「では、入りましょう」

 ギギギ、と重々しい音を立てて、扉は開く。

 王の間は、諸官が数百人立ち並んだとしても入るほど広く、ところどころに神々をかたどった像が置かれており、荘厳な雰囲気だ。

 その奥、階段状の段差の上に、玉座があり、そこで足を組んだ少女が偉そうに座っている。年齢はまだ十代、一国を治める身にしては異様に若い。両側には護衛の少女達を侍らせている。

 彼女こそが、サゼフト王国の女王。

「ようこそ来たのう。わらわがナイアーラじゃ」
「初めまして。私はアーフリード。ガルズバル帝国の騎士団長を務めている」

 フン、とナイアーラは鼻を鳴らした。さっそく、喧嘩腰な態度である。

「本当に騎士団長が来るとはのう」
「女王様にお会いするのに、下の者では失礼かと思い」
「たわけ。わらわが言っておるのは、たかだか騎士団長ごときが女王であるわらわに謁見するとは、我が国を侮っているのか、ということじゃ」

 ギロリ、と睨みつけてきた。

「いやいや、侮ってなどいないさ。むしろ正当に評価しているからこそ、こうして私が訪ねてきた、というわけだ」
「正当な評価、じゃと?」
「我がガルズバル帝国が、他国よりも遥かに大きいことは間違いない。我が国の一都市で、他の王国ひとつに匹敵するほどの規模はある。その帝国の騎士団長ともなれば、これは複数の国の軍隊をまとめ上げるのに等しい重要な任務。一国の王よりもずっと難しいことをこなしている。ゆえに……このサゼフト王国を訪ねたことは、決して侮ってのことではない。むしろ、この国が他国とは比べ物にならない規模を持つからこそ、私が来た、というわけだ」

 フォローをしているようで、全然フォローになっていない。結局のところ、お前の国は、うちの国よりも規模的に劣っている、と言っているのと大して変わりはないのである。

 当然、ナイアーラは険しい表情になった。

 ディマも顔を強張らせ、次に何かを言ってきたら物申す、と言わんばかりの姿勢を見せる。

「まあ、まあ、そんなに怖い顔をしないで。今日はちょっとした土産を持ってきたんだ」
「土産?」
「ユナ」

 指示を受けたユナは、持ってきた大きな地図を床に置くと、バッと広げた。

「ナバル砂漠の地図だ。この砂漠は不毛の地ながら、いくつもの大国と接しており、また大きなオアシスも点在しているため、常に各国の領地争いに巻き込まれてきた」
「わらわを相手に歴史の講義か」
「いいや、まずは現状の確認だよ」

 トン、トン、と地図の上の国名を次々と指差しながら、アーフリードは解説を加えていく。

「主には南側は我々ガルズバル帝国と、サゼフト王国が砂漠に面しており、西の山脈を挟んでヴェストリア帝国、東の山脈を挟んでファンロン帝国、北に行けばノルツフ、こういった形になっている」
「それで? 何が言いたいのじゃ?」
「この砂漠は交通の要所でもある。ここを押さえることは、戦略上、大きな意味を持つ。それは、女王陛下もおわかりのことかと」
「当たり前じゃ」
「そこで、耳寄りな情報を持ってきた」

 アーフリードは、よく聞こえるようにと、スッと、前へ進み出た。

 女王付きの護衛兵の少女達は、警戒して、武器を構える。

「砂漠のカジノのことは、ご存知で?」
「知っておる。おぬしらの国が運営しておる金儲けの場所じゃろ? だいぶ稼いでいるそうじゃな」
「そのカジノが、先日、ある女に制圧された」
「ふうん」

 ナイアーラは興味なさそうな声を出す。しかし、その目はまっすぐアーフリードへと向けられており、なんだかんだで話の続きを聞きたがっている風だ。

「その女は、絶世の美少女との評判だ。カジノでバニーガールをやっていたが、反旗を翻し、逆に自分が乗っ取ってしまった……ということだ」
「ふむ、絶世の美少女」

 食いついてきた。

 ディマがすかさず手を上げて、止めに入ってきた。

「女王様、いけません。これは明らかに挑発。我らに失地を奪わせた後、その失地を取り返そうという魂胆なのでしょう」

 さすが大国の宰相、完璧にアーフリードの目論見を見抜いている。

 だが、アーフリードには勝算があった。伝え聞く、ナイアーラの性格からして、この話に乗ってくるであろう、という考えだ。

「いまは、ガルズバル帝国の領地ではない、ということじゃな」
「反乱軍の本拠地、といったところだろうね」

 それに対しても、ディマは異を唱える。

「何を言うのです。あなた達ガルズバル帝国が、そう簡単に領地を失ったと認めるわけがない。カジノの地を、不穏分子が占拠している、というたてつけでしょう。だから、いまだ帝国の領地。そこへ私達が攻めかかれば、攻撃を受けた、とみなして、反撃を加える。そういうつもりでいるのでしょう」

 見事だ。ディマはかなり優秀である。

 しかし、アーフリードの読みは、ディマの知恵を凌駕した。

「そのカジノを落としたというバニーガールについて、もっと詳しく聞かせてくれないか? 気になるぞ」

 案の定、ニハルの情報に、ナイアーラは食いついてきた。

 計画通り。アーフリードはフッと微笑むと、ニハルのことについて、知る限りの情報を話すのであった。
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