恋ってウソだろ?!

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恋ってウソだろ?! 14

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「こんにちは、お邪魔します」
 息せき切ってオフィスにやってきた良太は佐々木を見つけて、「佐々木さん、夕べはどうも」と声をかける。
「お世話様です。こちらから伺わなくてはならなかったのに」
「いえ、ちょうど東洋商事からの帰りなんですよ」
 良太はトレンチコートを椅子に引っ掛け、佐々木の隣に座った。
「ほい、いいところへきたね、佐々木さんのお土産だよ」
 藤堂が良太に器に盛った菓子をすすめる。
「わ、きんつばだ。いただきます」
「一番町の有名な菓子処らしいよ」
「ほんと、美味しいです。佐々木さん、よかったらこのお店、教えてください。今度大和屋さんに伺う時、持って行きたいんで」
 早速きんつばに噛り付くと、素直そうな眼で真っ直ぐ佐々木を見た。
「ええよ。うちの母がお茶を教えてるよって、和菓子はちょっと詳しいんや」
 すると、「あ、そう、それ!」と良太が急に佐々木に向き直る。
「さっき綾小路さんと話してて、打ち合わせの時は気づかなかったけど、ひょっとして佐々木さんは茶道の佐々木先生の息子さんじゃないかって。小夜子さんもお義母さんも陽世院流の先生に指導受けてて、一度お茶会で若先生もお見かけしたことがあるとか」
「ああ、前に、そんなんあったかも。実はたまたまお隣なんですよ、うち、綾小路さんとこと。けど何せお隣は敷地がでかくて遠いお隣やし、滅多に顔を合わすことなんてないから」
「え、すると佐々木さんもお茶のお師匠さん?」
 藤堂が身を乗り出して尋ねた。
「子供の頃から叩き込まれましたからね、母親に」
「それ、いいんじゃないか? 浩輔ちゃん。昨今、着物の良さを知る者が少なくなってきてる、それ以上に着物男子なんて、歌舞伎役者か落語家か演歌歌手くらいしか思いつかない」
「はあ」
 浩輔は藤堂の切り出しに戸惑いの顔を向けた。
「展示会のパフォーマンスのひとつとして、佐々木若先生にお茶を点ててもらうのさ」
「え、それは、ちょっと……あくまでも俺はクリエイターですし」
 いきなりな展開に、佐々木は慌てた。
「クリエイターこそ、そういう肩書きとかの枠を取っ払わないと。そういえば佐々木さん、先週出た女性誌に、インタビュー受けてたでしょ?」
「あれは、独立する言うたら、知り合いの女性誌記者に頼み込まれて……」
 第一、雑誌のインタビューにしても佐々木は一度は断ったのに、春日に話がいったようで、独立するのなら大いに宣伝になるし、受けといてやったぞ、と勝手にお膳立てされていたのだ。
 その時佐々木はふと、あの男もその雑誌を見たのかも知れない、と思い当たる。
 とすると、俺が忘れたものって、一体……いや、今はそれどころじゃなくて!
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