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恋ってウソだろ?! 73
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バックミラーにこちらを睨みつけている沢村の顔がしっかり映っている。
眉を顰めて佐々木は顔をそむけた。
これ以上俺の日常を狂わすのはやめてくれ。
いや………狂うとるのは俺か………。
さっき沢村の目に魅入られるように、沢村を抱きしめそうになっていたのは自分の方ではなかったか。
ええ年して、俺は何を血迷うとるんや。
「自慢やないけど、小中高とストーカーには悩まされたんですよ。その都度、うまい具合に大抵何人かの親衛隊がいてくれて、被害にはあわへんかったけど。大人になればさすがにもうないと思うたのに後を絶たへんし」
藤堂の意識を沢村から別の話題に摩り替えようと、佐々木はらしくもないハイテンションで続けた。
「ったく、俺はオッサンで、髭も生えるし胸はないっての! 中には俺が男やいうてんのに、まとわりつくやつ、モデルとかにもいてて、そういうのは一番怖い」
佐々木はわざと自虐ネタを並べたが、それも話していて疲れてくる。
「といっても佐々木さん、髭ったって体毛も薄いし、肌も白いから、女性に間違われるのもしょうがないかもな。美貌の主には凡人には思いもよらない苦労があるんだねぇ」
藤堂は相変わらずのほほんとした言い方で微笑んだ。
「すみません、そこで下ろしてください」
いくら何でもこれ以上藤堂に迷惑をかけられないと、地下鉄の入り口を見つけて、佐々木は言った。
「車、駐車場に置かせてもろてもええですか? また取りに伺います」
「それは構わないが……」
藤堂はとっくに何か気づいているだろうが、佐々木には何も話すことはできなかった。
「それから明後日のリハーサルなんですが…」
間の悪いことに、年明けの着物ショーの衣装合わせとリハーサルをスタジオで行うことになっていた。
「ちょっと手の離せない仕事が入ってしもて、浩輔に任せたいんです」
仕事であっても、今、沢村と顔を合わせるのは避けた方がいいと、佐々木は逃げを打つことにした。
少なくとも三が日を過ぎる頃になれば、まだ落ち着いていられるのではないかと。
「この手のイベントには浩輔もジャスト・エージェンシー時代、クリエイターとして携わってましたし、浩輔主導でやった方がいいでしょう」
「なるほど浩輔ちゃんのためにもなると」
藤堂が額面通りに受け取っているとは思えなかったが。
「また俺からも浩輔に連絡入れますし」
今日のことにせよ、自分と顔を合わせたら沢村は何をやらかすか、何を言い出すかわからない。
どう考えたって日本の野球界を代表するスラッガーの相手がこんなオッサンてのはないだろう。
あいつ、彼女とうまくいってんのと違うのんか!
また今度はバラの花束とか用意して、君が好きだろうと思ってとか言ったりして。
オムライスとかハンバーグとか作ってやれば、子供見たいに喜んだりして。
だが、あのぬくもりを別の誰かに渡してしまうのだと思うと、杭でも打ち込まれたかのように胸が痛んだ。
ほんとはもう少し、もう少しだけ、トモの腕が欲しかったな………
眉を顰めて佐々木は顔をそむけた。
これ以上俺の日常を狂わすのはやめてくれ。
いや………狂うとるのは俺か………。
さっき沢村の目に魅入られるように、沢村を抱きしめそうになっていたのは自分の方ではなかったか。
ええ年して、俺は何を血迷うとるんや。
「自慢やないけど、小中高とストーカーには悩まされたんですよ。その都度、うまい具合に大抵何人かの親衛隊がいてくれて、被害にはあわへんかったけど。大人になればさすがにもうないと思うたのに後を絶たへんし」
藤堂の意識を沢村から別の話題に摩り替えようと、佐々木はらしくもないハイテンションで続けた。
「ったく、俺はオッサンで、髭も生えるし胸はないっての! 中には俺が男やいうてんのに、まとわりつくやつ、モデルとかにもいてて、そういうのは一番怖い」
佐々木はわざと自虐ネタを並べたが、それも話していて疲れてくる。
「といっても佐々木さん、髭ったって体毛も薄いし、肌も白いから、女性に間違われるのもしょうがないかもな。美貌の主には凡人には思いもよらない苦労があるんだねぇ」
藤堂は相変わらずのほほんとした言い方で微笑んだ。
「すみません、そこで下ろしてください」
いくら何でもこれ以上藤堂に迷惑をかけられないと、地下鉄の入り口を見つけて、佐々木は言った。
「車、駐車場に置かせてもろてもええですか? また取りに伺います」
「それは構わないが……」
藤堂はとっくに何か気づいているだろうが、佐々木には何も話すことはできなかった。
「それから明後日のリハーサルなんですが…」
間の悪いことに、年明けの着物ショーの衣装合わせとリハーサルをスタジオで行うことになっていた。
「ちょっと手の離せない仕事が入ってしもて、浩輔に任せたいんです」
仕事であっても、今、沢村と顔を合わせるのは避けた方がいいと、佐々木は逃げを打つことにした。
少なくとも三が日を過ぎる頃になれば、まだ落ち着いていられるのではないかと。
「この手のイベントには浩輔もジャスト・エージェンシー時代、クリエイターとして携わってましたし、浩輔主導でやった方がいいでしょう」
「なるほど浩輔ちゃんのためにもなると」
藤堂が額面通りに受け取っているとは思えなかったが。
「また俺からも浩輔に連絡入れますし」
今日のことにせよ、自分と顔を合わせたら沢村は何をやらかすか、何を言い出すかわからない。
どう考えたって日本の野球界を代表するスラッガーの相手がこんなオッサンてのはないだろう。
あいつ、彼女とうまくいってんのと違うのんか!
また今度はバラの花束とか用意して、君が好きだろうと思ってとか言ったりして。
オムライスとかハンバーグとか作ってやれば、子供見たいに喜んだりして。
だが、あのぬくもりを別の誰かに渡してしまうのだと思うと、杭でも打ち込まれたかのように胸が痛んだ。
ほんとはもう少し、もう少しだけ、トモの腕が欲しかったな………
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