75 / 87
恋ってウソだろ?! 75
しおりを挟む
馴染みの居酒屋の暖簾をくぐると、カウンターもテーブルも、一年の労を労い合う会社員の赤い顔で満杯だった。
二階から聞こえてくる賑やかさは一段とテンションが高そうで、佐々木は一瞬上に上がるのを躊躇したほどだ。
ジャスト・エージェンシーの忘年会は毎年、この店の二階と決まっている。
直子を先に向かわせて、仕事を上げてしまおうと思っていたのだが、七時半を過ぎてもなかなか終わらないので、仕方なく切り上げてやってきたのだ。
「おおおおお! 天照大神様! 天岩戸が開いた~ はあああああ~」
襖を開けるなり、既にできあがっている連中がやんややんやと佐々木を出迎えた。
「誰が天照や!」
足元にひれ伏す若手のデザイナー藤井の頭に軽く拳をくれてやり、「やっときたか」と手招きする春日の横へ座る。
「ようし、綺麗どころが揃ったところで、もう一回、乾杯といくぞ!」
春日の音頭で、おおおおおと、雄たけびのようにみんなそれぞれ、グラスを合わせる。
「やっぱり、佐々木さんがいないとなーんかパッとしないんだよね~!」
我も我もと佐々木の前にビールやお銚子を持って入れ替わり立ち代わりやってくる。
「最近、どうや?」
酒を注ぎにやってきた美紀に尋ねてみた。
「ちょっと悩みまくり、あいつら人の言うこと聞かないし!」
ひとしきり愚痴ったあと、でも、と美紀が溜息混じりに笑う。
「佐々木さんの顔を浮かべながらやってるから、何とか……」
「そうか」
何ら変わりがないようで、その実、既にみんながそれぞれのポジションで走り出しているのだ。
美紀にせよ、稲葉にせよ、新しいフィールドができつつある。
もう俺の戻る場所はあれへん。
俺も、ぐたぐたしてはいられへんな。
友香も浩輔も、ちゃんと離してやれた。
友香は着実にステップアップしてるみたいやし、浩輔もしかり。
トモ、もう俺のことはええから、彼女とうまくやれや。
世間の荒波に一人で放り出されたもんやから、情緒不安定やったところへ、今回、うっかり深みにはまり過ぎたんや。
若いもんを温かく見守ってやるんが、大人いうもんやし。
「佐々木さん、飲みが足りない~!」
何やら悟りの境地でぼんやりしていた佐々木のところへ、営業の大沢が焼酎の瓶を持ってやってきた。
「いや、ほんま、ここんとこおかあちゃんの付き合いでちょっと疲れとるし、まだ年内仕事残ってるよって……」
「えええ? らしくないでぇ」
「ほな、半分でええ、半分」
座敷の熱気をよそに、関東地方は冬型の気圧配置がぐんと強まり、夜半から振り出した雨はまた雪になった。
二階から聞こえてくる賑やかさは一段とテンションが高そうで、佐々木は一瞬上に上がるのを躊躇したほどだ。
ジャスト・エージェンシーの忘年会は毎年、この店の二階と決まっている。
直子を先に向かわせて、仕事を上げてしまおうと思っていたのだが、七時半を過ぎてもなかなか終わらないので、仕方なく切り上げてやってきたのだ。
「おおおおお! 天照大神様! 天岩戸が開いた~ はあああああ~」
襖を開けるなり、既にできあがっている連中がやんややんやと佐々木を出迎えた。
「誰が天照や!」
足元にひれ伏す若手のデザイナー藤井の頭に軽く拳をくれてやり、「やっときたか」と手招きする春日の横へ座る。
「ようし、綺麗どころが揃ったところで、もう一回、乾杯といくぞ!」
春日の音頭で、おおおおおと、雄たけびのようにみんなそれぞれ、グラスを合わせる。
「やっぱり、佐々木さんがいないとなーんかパッとしないんだよね~!」
我も我もと佐々木の前にビールやお銚子を持って入れ替わり立ち代わりやってくる。
「最近、どうや?」
酒を注ぎにやってきた美紀に尋ねてみた。
「ちょっと悩みまくり、あいつら人の言うこと聞かないし!」
ひとしきり愚痴ったあと、でも、と美紀が溜息混じりに笑う。
「佐々木さんの顔を浮かべながらやってるから、何とか……」
「そうか」
何ら変わりがないようで、その実、既にみんながそれぞれのポジションで走り出しているのだ。
美紀にせよ、稲葉にせよ、新しいフィールドができつつある。
もう俺の戻る場所はあれへん。
俺も、ぐたぐたしてはいられへんな。
友香も浩輔も、ちゃんと離してやれた。
友香は着実にステップアップしてるみたいやし、浩輔もしかり。
トモ、もう俺のことはええから、彼女とうまくやれや。
世間の荒波に一人で放り出されたもんやから、情緒不安定やったところへ、今回、うっかり深みにはまり過ぎたんや。
若いもんを温かく見守ってやるんが、大人いうもんやし。
「佐々木さん、飲みが足りない~!」
何やら悟りの境地でぼんやりしていた佐々木のところへ、営業の大沢が焼酎の瓶を持ってやってきた。
「いや、ほんま、ここんとこおかあちゃんの付き合いでちょっと疲れとるし、まだ年内仕事残ってるよって……」
「えええ? らしくないでぇ」
「ほな、半分でええ、半分」
座敷の熱気をよそに、関東地方は冬型の気圧配置がぐんと強まり、夜半から振り出した雨はまた雪になった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
23
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる