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史上最悪の修羅場

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 膝が震えて、二の句が告げない。

 助けを求めるように聡に目を向けたが、彼はフイと、気まずげに視線を逸らした。

 否定をしない聡の行動は、暗に肯定を示している。

 意地悪そうに歪む口元からもたらされた、萌香の言は真実なのか?

「本当なの、稲田さん?」

 戦慄く唇から、ようやくそれだけが絞り出された。

 萌香の言葉が真実なら、聡は本命の恋人を浮気相手の家に連れ込んだクソ野郎だ。

 事実を認めてしまったら、つい先程まで、逢瀬を楽しみにしていた、気持ちと期待が木っ端微塵に砕かれる。

(嘘よ……)

 逃れようのない状況なのに、それでも否定したい気持ちが強かった。

 初めて、好きになった人だったのに。

「私、嘘は嫌いなの。私がこの部屋にいるのが何よりの証拠」

 嘲るような笑みを消して、萌香は睨みを利かせて白音に迫った。

「わ、たしは、稲田さんに聞いてるの。今の話、本当なの? 浮気って。それに、見知らぬ人を勝手に部屋に入れるなんて酷いわ」

 自分にできる最大限で、追求を試みると、ぼろっと大粒の涙がこぼれた。

 そうだ、浮気だろうとなかろうと、他人を勝手に家に入れるなんて非常識だ。

「ねえ、稲田さん! 答えてよ」

「はあ? 何泣いてんの? 被害者面しないでよ。横から手ェ出したのはアンタなのよ。ねぇ、聡も何とか言いなさいよ。この子、物分かり悪そうだし、聡から言わなきゃわかんないよ」

 聡は迷ったようにガリガリと頭を掻くと、ふーっと嘆息した。

 顔を上げると、観念したように呟く。

「合鍵くれた時、……俺の好きに使っていいって言っただろ? それを今更とやかく言うのは違うんじゃないの」

 聡は詫びるでもなく、口を尖らせて抗議を始めた。

 は??

 白音は愕然とした。

 ”これは違うんだ” とか ”誤解だ” とか、弁明されても受け入れられないだろう。

 でもこの、白音を非難するような発言は何だ?

 確かに、「いつでも来ていいよ」と、聡に伝えた記憶はある。だが、それは常識の範囲内での話だ。

 別の女を連れ込んで良いなんて、どんな女が許可するのか。

「萌香の言う通りだよ。俺は元々、萌香と付き合ってた。けど、白音とのやりとりがバレて、どうしても白音に会うって利かないから連れてきた」

「あ、会うって言うなら、私のいる時で良かったでしょ? どうして留守の家に勝手に上げたり」

 ようやく反駁の言葉が出かかったのに、被せるようにして萌香が嘲笑った。

「私が頼んだからよ。人の男をどんなところに引き摺り込んでくれたのか、見てみたかったの。でも、いざ来てみたらホッとした! こんな色気のない部屋初めて見たんだもの」
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