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2章 赤ちゃんと孤児とオークキング

第28話 vsミノタウルス

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 俺は3人に出た新スキルについて説明した。
「今日は遅いから、新スキルは明日練習しよう」と俺は言った。

「もう少しでオークキングが来るんだぜ。そんな事を言ってていいのかよ」とクロスが言う。
 俺は少し考える。
 たしかにクロスが言う事にも一理はある。オークキングが来るまで時間が無いのだ。
 3人も新しいスキルを使ってみたくてウズウズしている。
「少しだけ新スキルを練習するか」と俺は言った。
 この判断が間違っていた。俺も早く強くならなくちゃ、と焦っていたのだ。子ども達を早く強くしなくちゃ、と焦っていたのだ。

 新スキルの練習をして、魔力を使い果たしたクロスとアイリに団子を渡した。それで回復団子は全て無くなった。
 マミのアイテムボックスのスキルは魔力を消費しないようだった。だから彼女だけは新スキルの練習をしても元気だった。

 夕暮れ。太陽が沈み始めていた。
 早く帰らなければ夜がやって来る。
「帰ろう」と俺は言った。
 その時、とてつもない気配がした。
 地面を踏み締める足音。酸素を吸う呼吸音。バリバリバリバリ、と骨を砕く音が聞こえた。

 その魔物を俺が目視する前に、クロスが飛び出した。
 本来なら強さのわからない魔物と遭遇した場合は観察する。
 クロスは無鉄砲である。敵がいるとすぐに飛び出してしまう。それに新スキルを魔物に使ってみたかったんだろう。
 その無鉄砲さを止めるのが俺の役目だった。指導していくのが俺の役目だった。このままではクロスは自身の無鉄砲さに死ぬのだろう。
 
 クロスが魔物に向かって足を踏み込んだ時、その先にいる魔物を俺は見た。
 顔は牛。
 二本足。
 遠目でもわかるほど筋肉質の体。
 人から奪った防具を着ている。
 だけど防具は魔物の体型に合っていない。あまりにも防具が小さすぎるため、関節を守りきれていなかった。
 そして大剣を片手で握っていた。

 ミノタウルス。

 俺の知識でも知っている有名な魔物。
 昔、カードゲームで使っていた魔物である。そのカードゲームではノーマルカードだったけど強かった記憶がある。
 そしてミノタウルスは確実にオークよりも強い。
 なぜなら片手に大剣を握り、片手にオークの屍を掴み、オークの腕を噛みちぎり、バリバリと音を立てながら食べているのだ。

 オークを餌として来た魔物。
 強さは不明。
 わかっているのはオーク以上の強い魔物であること。

「クロス、止まれ」と俺は叫んだ。
 クロスは俺をチラッと見て、ニヤっと笑った。
「先生、俺走ったら止まらねぇ」
 とクロスのバカがマグロみたいな性質を呟いた。
「バカ」と俺は悪態をつく。
 
「アイリ、あの魔物を捕まえてくれ」
 と俺はアイリに指示を出す。
「わかった」とアイリが頷く。

「プラントクローズ」

 地中の根が地上に飛び出して、ミノタウルスを捉えた。

 ブチブチブチ。
 ミノタウルスは自力で根っこを引きちぎった。

 ヤバい。強い。
 オークならプラントクローズで完全に捉える事ができた。

「戻って来い、クロス」
 と俺は再び、怒鳴る。

 クロスは振り返りもしなかった。
 クソ。本当にマグロじゃねーか。
 家に帰ったら死ぬほど怒ろう。いつか本当に、この性格のせいで彼は死ぬかもしれない。

「隠蔽を使え。クロス」
 と俺は叫んだ。

「隠蔽」とクロス。
 クロスが消えた。

 俺のスキルの許容範囲から外れている。クロスのバカを助けるために、俺もミノタウルスに向かって走り始めた。

「スラッシュコンボ」
 とクロスの声が聞こえた。

 せっかく隠蔽を使って見えなくなっているのに、ミノタウルスの正面から攻撃しやがった。本当にバカだ。
 一撃目は不意打ちをついたからミノタウルスにダメージを与えることができた。
 
 攻撃したことで隠蔽の効果がきれてしまった。そしてクロスが現れる。
 しかも一撃目も致命傷になっていない。
 スラッシュコンボは、3連続の攻撃である。
 二撃目の斬撃でミノタウルスの大剣に弾かれた。
 そのまま姿勢を崩したクロス。
 ミノタウルスは大剣を振った。

 クロスの赤い血が溢れ出す。

 全てがスローモーションに見えた。
 ミノタウルスが片手に持っていたオークを手放した。
 ドサッと音。
 そしてミノタウルスが大剣を両手で握った。
 
 クロスが真っ二つになるのを想像した。
 俺のせいだ。
 俺がちゃんと指導しとけば……。
 こんな時間までスキルの練習をしてなければ、そもそもミノタウルスに遭遇しなかった。

 ミノタウルスが足を踏み込んで、クロスに近づく。

 ようやく俺のスキルの許容範囲に入った。

「サンダーボルト」

 ミノタウルスは大剣を振り上げていた。
 そこに雷。
 魔物は痺れて、大剣を落とした。

 ミノタウルスが動き出すまでの数秒間。
 俺はミノタウルスに近づく。
 魔物が動く。ミノタウルスは頭を振った。大剣を探している。
 
 俺が大剣を拾う方が早かった。
 こんな大剣を振られたら真っ二つである。
 重っ。
 20キロぐらいはある。
 よく、こんな大剣を振り回せるよ。
 大剣は拾って、遠くに投げるつもりだった。魔物の攻撃手段を無くすつもりだった。
 
 俺が宙に浮く。ミノタウルスに首を持ち上げられた。苦しい。

「先生、こっちに剣を投げて」
 とマミが言った。

 彼女達もクロスを助けるために、ミノタウルスに近づいて来ていた。

 俺はマミに向かって大剣を投げた。

「アイテムボックス、収納」と彼女は言った。
 マミに向かって投げられた大剣はアイテムボックスの中に収納された。

「ファイアボール」と俺は声にならない声でスキル名を言った。

 炎の玉が俺の手から出る。

 ミノタウルスは慌てて、俺を手放した。
 そして燃えている毛を消すように、自らの顔を叩いた。

「植物召喚、デボラフラワー」
 とアイリが言った。

 俺の目の前に大きな花が召喚された。
 それは赤くて美しい花だった。
 その花はえんとつのような幹で、花びらが見下ろすようにミノタウルスに近づいていく。
 そして花弁でミノタウルスを捉え、逃げようが暴れようが魔物を離すことなく、花の中心にある鋭い歯でミノタウルスをザクザクと食べてしまった。

 あまりにも光景に俺は呆気に取られた。トラウマになりそう。もう2度と花を美しいとは思えないだろう。

 そしてデボラフラワーは仕事を終えて、消えた。
 残ったのはデボラフラワーが最後に吐き出したミノタウルスの防具だけだった。

「クロス」
 俺はクロスの事を思い出して、慌てて彼に近づいて行く。

 息はある。
 お腹を斜めに切られている。
 血がドボドボと溢れ出していた。

「大丈夫か?」
 と全然大丈夫じゃないのは見てわかるのに、俺はバカな質問をする。
 その質問の答えは返って来ない。

「マミ、アイテムボックスにクロスを入れることができるか?」
 アイテムボックスなら永久的に保存ができる。もしかしたら今の現状のまま、クロスを運べるかもしれないのだ。

「アイテムボックス、収納」
 とマミが言った。

 だけどクロスはアイテムボックスには入らなかった。

「生きているモノは無理みたい」とマミが悲しい声を出す。

 スキルの詳細には書かれていない規制があるらしい。

「すぐに美子さんのところまで連れて行ってあげるからな。死ぬなよ」
 と俺は言って、クロスをお姫様抱っこした。
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