異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万

文字の大きさ
28 / 56
2章 赤ちゃんと孤児とオークキング

第28話 vsミノタウルス

しおりを挟む
 俺は3人に出た新スキルについて説明した。
「今日は遅いから、新スキルは明日練習しよう」と俺は言った。

「もう少しでオークキングが来るんだぜ。そんな事を言ってていいのかよ」とクロスが言う。
 俺は少し考える。
 たしかにクロスが言う事にも一理はある。オークキングが来るまで時間が無いのだ。
 3人も新しいスキルを使ってみたくてウズウズしている。
「少しだけ新スキルを練習するか」と俺は言った。
 この判断が間違っていた。俺も早く強くならなくちゃ、と焦っていたのだ。子ども達を早く強くしなくちゃ、と焦っていたのだ。

 新スキルの練習をして、魔力を使い果たしたクロスとアイリに団子を渡した。それで回復団子は全て無くなった。
 マミのアイテムボックスのスキルは魔力を消費しないようだった。だから彼女だけは新スキルの練習をしても元気だった。

 夕暮れ。太陽が沈み始めていた。
 早く帰らなければ夜がやって来る。
「帰ろう」と俺は言った。
 その時、とてつもない気配がした。
 地面を踏み締める足音。酸素を吸う呼吸音。バリバリバリバリ、と骨を砕く音が聞こえた。

 その魔物を俺が目視する前に、クロスが飛び出した。
 本来なら強さのわからない魔物と遭遇した場合は観察する。
 クロスは無鉄砲である。敵がいるとすぐに飛び出してしまう。それに新スキルを魔物に使ってみたかったんだろう。
 その無鉄砲さを止めるのが俺の役目だった。指導していくのが俺の役目だった。このままではクロスは自身の無鉄砲さに死ぬのだろう。
 
 クロスが魔物に向かって足を踏み込んだ時、その先にいる魔物を俺は見た。
 顔は牛。
 二本足。
 遠目でもわかるほど筋肉質の体。
 人から奪った防具を着ている。
 だけど防具は魔物の体型に合っていない。あまりにも防具が小さすぎるため、関節を守りきれていなかった。
 そして大剣を片手で握っていた。

 ミノタウルス。

 俺の知識でも知っている有名な魔物。
 昔、カードゲームで使っていた魔物である。そのカードゲームではノーマルカードだったけど強かった記憶がある。
 そしてミノタウルスは確実にオークよりも強い。
 なぜなら片手に大剣を握り、片手にオークの屍を掴み、オークの腕を噛みちぎり、バリバリと音を立てながら食べているのだ。

 オークを餌として来た魔物。
 強さは不明。
 わかっているのはオーク以上の強い魔物であること。

「クロス、止まれ」と俺は叫んだ。
 クロスは俺をチラッと見て、ニヤっと笑った。
「先生、俺走ったら止まらねぇ」
 とクロスのバカがマグロみたいな性質を呟いた。
「バカ」と俺は悪態をつく。
 
「アイリ、あの魔物を捕まえてくれ」
 と俺はアイリに指示を出す。
「わかった」とアイリが頷く。

「プラントクローズ」

 地中の根が地上に飛び出して、ミノタウルスを捉えた。

 ブチブチブチ。
 ミノタウルスは自力で根っこを引きちぎった。

 ヤバい。強い。
 オークならプラントクローズで完全に捉える事ができた。

「戻って来い、クロス」
 と俺は再び、怒鳴る。

 クロスは振り返りもしなかった。
 クソ。本当にマグロじゃねーか。
 家に帰ったら死ぬほど怒ろう。いつか本当に、この性格のせいで彼は死ぬかもしれない。

「隠蔽を使え。クロス」
 と俺は叫んだ。

「隠蔽」とクロス。
 クロスが消えた。

 俺のスキルの許容範囲から外れている。クロスのバカを助けるために、俺もミノタウルスに向かって走り始めた。

「スラッシュコンボ」
 とクロスの声が聞こえた。

 せっかく隠蔽を使って見えなくなっているのに、ミノタウルスの正面から攻撃しやがった。本当にバカだ。
 一撃目は不意打ちをついたからミノタウルスにダメージを与えることができた。
 
 攻撃したことで隠蔽の効果がきれてしまった。そしてクロスが現れる。
 しかも一撃目も致命傷になっていない。
 スラッシュコンボは、3連続の攻撃である。
 二撃目の斬撃でミノタウルスの大剣に弾かれた。
 そのまま姿勢を崩したクロス。
 ミノタウルスは大剣を振った。

 クロスの赤い血が溢れ出す。

 全てがスローモーションに見えた。
 ミノタウルスが片手に持っていたオークを手放した。
 ドサッと音。
 そしてミノタウルスが大剣を両手で握った。
 
 クロスが真っ二つになるのを想像した。
 俺のせいだ。
 俺がちゃんと指導しとけば……。
 こんな時間までスキルの練習をしてなければ、そもそもミノタウルスに遭遇しなかった。

 ミノタウルスが足を踏み込んで、クロスに近づく。

 ようやく俺のスキルの許容範囲に入った。

「サンダーボルト」

 ミノタウルスは大剣を振り上げていた。
 そこに雷。
 魔物は痺れて、大剣を落とした。

 ミノタウルスが動き出すまでの数秒間。
 俺はミノタウルスに近づく。
 魔物が動く。ミノタウルスは頭を振った。大剣を探している。
 
 俺が大剣を拾う方が早かった。
 こんな大剣を振られたら真っ二つである。
 重っ。
 20キロぐらいはある。
 よく、こんな大剣を振り回せるよ。
 大剣は拾って、遠くに投げるつもりだった。魔物の攻撃手段を無くすつもりだった。
 
 俺が宙に浮く。ミノタウルスに首を持ち上げられた。苦しい。

「先生、こっちに剣を投げて」
 とマミが言った。

 彼女達もクロスを助けるために、ミノタウルスに近づいて来ていた。

 俺はマミに向かって大剣を投げた。

「アイテムボックス、収納」と彼女は言った。
 マミに向かって投げられた大剣はアイテムボックスの中に収納された。

「ファイアボール」と俺は声にならない声でスキル名を言った。

 炎の玉が俺の手から出る。

 ミノタウルスは慌てて、俺を手放した。
 そして燃えている毛を消すように、自らの顔を叩いた。

「植物召喚、デボラフラワー」
 とアイリが言った。

 俺の目の前に大きな花が召喚された。
 それは赤くて美しい花だった。
 その花はえんとつのような幹で、花びらが見下ろすようにミノタウルスに近づいていく。
 そして花弁でミノタウルスを捉え、逃げようが暴れようが魔物を離すことなく、花の中心にある鋭い歯でミノタウルスをザクザクと食べてしまった。

 あまりにも光景に俺は呆気に取られた。トラウマになりそう。もう2度と花を美しいとは思えないだろう。

 そしてデボラフラワーは仕事を終えて、消えた。
 残ったのはデボラフラワーが最後に吐き出したミノタウルスの防具だけだった。

「クロス」
 俺はクロスの事を思い出して、慌てて彼に近づいて行く。

 息はある。
 お腹を斜めに切られている。
 血がドボドボと溢れ出していた。

「大丈夫か?」
 と全然大丈夫じゃないのは見てわかるのに、俺はバカな質問をする。
 その質問の答えは返って来ない。

「マミ、アイテムボックスにクロスを入れることができるか?」
 アイテムボックスなら永久的に保存ができる。もしかしたら今の現状のまま、クロスを運べるかもしれないのだ。

「アイテムボックス、収納」
 とマミが言った。

 だけどクロスはアイテムボックスには入らなかった。

「生きているモノは無理みたい」とマミが悲しい声を出す。

 スキルの詳細には書かれていない規制があるらしい。

「すぐに美子さんのところまで連れて行ってあげるからな。死ぬなよ」
 と俺は言って、クロスをお姫様抱っこした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活

アイアイ式パイルドライバー
ファンタジー
 名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。  妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。  貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。  しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。  小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...