121 / 129
第七章
121:格好良く送り出してやれって頭の中じゃ思ってるだけど、駄目だ、怪我するぞとか、流れ者に人は冷たいぞとか、小言しか言えない
しおりを挟む
ルルは深呼吸した。
ロンドが「いよいよですね」と言いながら先に大道路に入っていく。
ルルが動き出さないのを見て、アスランが「ロンド!先に行っていてくれ」と叫んだ。
そして、ルルの側に馬を近づけてくる。
「話があるんだろ。僕に」
「……」
「もう泣きそうな顔している」
たぶん、アスランはルルが何を言い出すのか分かっているのだ。
「剣士は泣きません」
「そうだったな。ルルは剣士だった。剣闘大会に出て名を上げる夢を持った剣士だ。だったら、今、ここで、ちゃんと僕に言えよ」
「主、俺の気持ち、気づいてたんですか?」
「ゴート城を出発する前からね。いったい、どれだけ、君と時間を過ごしてきたと思ってるんだ?」
「俺……」
何度も心で反芻した言葉は、涙で詰まって上手く出てこなかった。
だから、大きく息を吸い込む。
「王都にご一緒でき……ません」
馬の背に、涙が落ちた。
ふうとため息を付いてアスランが馬から降りた。そして、自分の荷物を一つ外してルルの馬に取り付ける。
「主。……これ?」
「餞別だ。路銀が少々。あと、軟膏やら包帯やら、いろいろ入っている。裸一貫で格好良く旅立ちたいだろうが、とっておけ。絶対に後から必要になるから」
「主と一緒にいたくない訳じゃないんです」」
ルルは馬から飛び降りた。
「ずっと、一緒にいたいんです。未来のために。だから、」
「一時は側を離れる?」
「……はい。主と対等だって、自信を持って思えるように」
「ルルの求める対等って?」
「壮大な夢過ぎて、言えません。ただ、今言えることはいつか主の隣を歩きたいということです。側にいたい、愛されたいも重要なんですけど、一番は主の隣にいたい。それには、今のままじゃ駄目なんです」
すると、今度はもっと大きくアスランがため息をついた。
すべてを理解し、ルルの旅立ちを阻止することを完全に諦めたような態度だった。
「これから、どこに?」
「エルバート王国各地に剣修行にでようと思ってます。名のある方とお会いして、片っ端から稽古をつけてもらおうかと」
「名のある方は、剣の腕は確かでも、心の方は分かったもんじゃない。手足、切り落とされるなよ。首もな」
「はい」
アスランが少し顔をしかめた。
「格好良く送り出してやれって頭の中じゃ思ってるだけど、駄目だ、怪我するぞとか、流れ者に人は冷たいぞとか、小言しか言えない」
「心配されてるの充分に伝わってきます。主……」
ルルは鼻をすすった。
「ありがとうございました」
「自分から別れを言い出しておいて、泣くなよ」
「泣いてません」
ルルは頰を流れる涙を何度も拭いながら言い返した。
アスランは困り顔で小瓶を取り出し鎖骨の辺りに塗った。
「ほら」
と両手を広げてルルを呼ぶ。
彼の胸元からはオレンジの香りがした。
久しぶりに嗅いだ。
酔っ払った猫みたいにルルはそこに鼻をこすりつける。
アスランが頭を撫でてきた。
昔みたいなふれあいが、別れの直前に戻ってきたとルルは感じた。
アスランだってそうだろう。
ロンドが「いよいよですね」と言いながら先に大道路に入っていく。
ルルが動き出さないのを見て、アスランが「ロンド!先に行っていてくれ」と叫んだ。
そして、ルルの側に馬を近づけてくる。
「話があるんだろ。僕に」
「……」
「もう泣きそうな顔している」
たぶん、アスランはルルが何を言い出すのか分かっているのだ。
「剣士は泣きません」
「そうだったな。ルルは剣士だった。剣闘大会に出て名を上げる夢を持った剣士だ。だったら、今、ここで、ちゃんと僕に言えよ」
「主、俺の気持ち、気づいてたんですか?」
「ゴート城を出発する前からね。いったい、どれだけ、君と時間を過ごしてきたと思ってるんだ?」
「俺……」
何度も心で反芻した言葉は、涙で詰まって上手く出てこなかった。
だから、大きく息を吸い込む。
「王都にご一緒でき……ません」
馬の背に、涙が落ちた。
ふうとため息を付いてアスランが馬から降りた。そして、自分の荷物を一つ外してルルの馬に取り付ける。
「主。……これ?」
「餞別だ。路銀が少々。あと、軟膏やら包帯やら、いろいろ入っている。裸一貫で格好良く旅立ちたいだろうが、とっておけ。絶対に後から必要になるから」
「主と一緒にいたくない訳じゃないんです」」
ルルは馬から飛び降りた。
「ずっと、一緒にいたいんです。未来のために。だから、」
「一時は側を離れる?」
「……はい。主と対等だって、自信を持って思えるように」
「ルルの求める対等って?」
「壮大な夢過ぎて、言えません。ただ、今言えることはいつか主の隣を歩きたいということです。側にいたい、愛されたいも重要なんですけど、一番は主の隣にいたい。それには、今のままじゃ駄目なんです」
すると、今度はもっと大きくアスランがため息をついた。
すべてを理解し、ルルの旅立ちを阻止することを完全に諦めたような態度だった。
「これから、どこに?」
「エルバート王国各地に剣修行にでようと思ってます。名のある方とお会いして、片っ端から稽古をつけてもらおうかと」
「名のある方は、剣の腕は確かでも、心の方は分かったもんじゃない。手足、切り落とされるなよ。首もな」
「はい」
アスランが少し顔をしかめた。
「格好良く送り出してやれって頭の中じゃ思ってるだけど、駄目だ、怪我するぞとか、流れ者に人は冷たいぞとか、小言しか言えない」
「心配されてるの充分に伝わってきます。主……」
ルルは鼻をすすった。
「ありがとうございました」
「自分から別れを言い出しておいて、泣くなよ」
「泣いてません」
ルルは頰を流れる涙を何度も拭いながら言い返した。
アスランは困り顔で小瓶を取り出し鎖骨の辺りに塗った。
「ほら」
と両手を広げてルルを呼ぶ。
彼の胸元からはオレンジの香りがした。
久しぶりに嗅いだ。
酔っ払った猫みたいにルルはそこに鼻をこすりつける。
アスランが頭を撫でてきた。
昔みたいなふれあいが、別れの直前に戻ってきたとルルは感じた。
アスランだってそうだろう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
83
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる