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第七章

121:格好良く送り出してやれって頭の中じゃ思ってるだけど、駄目だ、怪我するぞとか、流れ者に人は冷たいぞとか、小言しか言えない

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 ルルは深呼吸した。
 ロンドが「いよいよですね」と言いながら先に大道路に入っていく。
 ルルが動き出さないのを見て、アスランが「ロンド!先に行っていてくれ」と叫んだ。
 そして、ルルの側に馬を近づけてくる。
「話があるんだろ。僕に」
「……」
「もう泣きそうな顔している」
 たぶん、アスランはルルが何を言い出すのか分かっているのだ。
「剣士は泣きません」
「そうだったな。ルルは剣士だった。剣闘大会に出て名を上げる夢を持った剣士だ。だったら、今、ここで、ちゃんと僕に言えよ」
「主、俺の気持ち、気づいてたんですか?」
「ゴート城を出発する前からね。いったい、どれだけ、君と時間を過ごしてきたと思ってるんだ?」
「俺……」
 何度も心で反芻した言葉は、涙で詰まって上手く出てこなかった。
 だから、大きく息を吸い込む。
「王都にご一緒でき……ません」
 馬の背に、涙が落ちた。
 ふうとため息を付いてアスランが馬から降りた。そして、自分の荷物を一つ外してルルの馬に取り付ける。
「主。……これ?」
「餞別だ。路銀が少々。あと、軟膏やら包帯やら、いろいろ入っている。裸一貫で格好良く旅立ちたいだろうが、とっておけ。絶対に後から必要になるから」
「主と一緒にいたくない訳じゃないんです」」
 ルルは馬から飛び降りた。
「ずっと、一緒にいたいんです。未来のために。だから、」
「一時は側を離れる?」
「……はい。主と対等だって、自信を持って思えるように」
「ルルの求める対等って?」
「壮大な夢過ぎて、言えません。ただ、今言えることはいつか主の隣を歩きたいということです。側にいたい、愛されたいも重要なんですけど、一番は主の隣にいたい。それには、今のままじゃ駄目なんです」
 すると、今度はもっと大きくアスランがため息をついた。
 すべてを理解し、ルルの旅立ちを阻止することを完全に諦めたような態度だった。
「これから、どこに?」
「エルバート王国各地に剣修行にでようと思ってます。名のある方とお会いして、片っ端から稽古をつけてもらおうかと」
「名のある方は、剣の腕は確かでも、心の方は分かったもんじゃない。手足、切り落とされるなよ。首もな」
「はい」
 アスランが少し顔をしかめた。
「格好良く送り出してやれって頭の中じゃ思ってるだけど、駄目だ、怪我するぞとか、流れ者に人は冷たいぞとか、小言しか言えない」
「心配されてるの充分に伝わってきます。主……」
 ルルは鼻をすすった。
「ありがとうございました」
「自分から別れを言い出しておいて、泣くなよ」
「泣いてません」
 ルルは頰を流れる涙を何度も拭いながら言い返した。
 アスランは困り顔で小瓶を取り出し鎖骨の辺りに塗った。
「ほら」
と両手を広げてルルを呼ぶ。
 彼の胸元からはオレンジの香りがした。
 久しぶりに嗅いだ。
 酔っ払った猫みたいにルルはそこに鼻をこすりつける。
 アスランが頭を撫でてきた。
 昔みたいなふれあいが、別れの直前に戻ってきたとルルは感じた。
 アスランだってそうだろう。
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