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第七章

122:ちゃんと前を見ろ、馬鹿。怪我するぞ

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「絶対に死ぬんじゃないぞ。無理そうだったらすぐに戻ってこい。怪我をした場合も、あとは、究極に腹を下した場合とかも」
「そうおめおめと帰らないですよ」
 ルルは突き飛ばすようにして、アスランから離れた。
 そうでもしないと、「やっぱり王都に連れて行ってください」と言い出してしまいそうだったからだ。
 アスランがルルをまっすぐに見つめてきた。
 久しぶりに視線が絡み合った。
 かつて、ルルを虜にした唇がゆっくりと動く。
「ルルのこと、好きだったよ」
 ああ、過去形。
 主は、腕から飛び立とうとするなら、待たないって意味で言ったのかな?
 そうか、そうだよな。
 ここで完全な別れか、とルルは覚悟した。
 だが、そうまでしても剣の道は諦めきれないのだ。
 ここで、別れを告げられたら、もっと成長した姿で会いに行ってやると、心に決めた。
 少し寂しげに笑ったアスランは、再び口を開いた。
「今は深く愛している」
 一旦は離れたのに、ものすごい力で引き寄せられ、きつく抱きしめられた。
 息が止まりそうだった。
「ここが大道路じゃなきゃ、裸にして押し倒したいぐらいだ」
と言いながらアスランがルルを腕から開放した。
「そら、泣き虫の気が変わらないうちに、馬に乗った乗った」
 ルルを慌ただしく馬に乗せると、アスランは馬の腹に契約書を浮かび上がらせた。
 そして、紙化してルルの懐に差し込んでくる。
「さあ、行け」
 きちんとした別れの言葉もないまま、アスランがルルの馬の尻を叩いた。
「主っっっ!!」
 肩越しに振り返って叫ぶと、アスランが自分の馬の傍らでひらりと手を振り返してきた。
「ちゃんと前を見ろ、馬鹿。怪我するぞ」
「主っ!!主っ!!ううっ」
 泣きながら前を見て、馬の手綱をしごく。
 通り過ぎる旅人は何事かと思ったことだろう。
 数時間馬を駆けどおして、ようやく街に入った。
 そこでまず最初にルルがしたのは、占い師に会うことだった。
 剣聖ルルが独り歩きしているので、一から出直すには改名が必要だったのだ。
 古代語を理解できる珍しい占い師で、かいつまんで事情を話したら「ほう、ほう、ほう」とどこかで聞いたことのあるような笑い方をしながら、ぴったりの名前を付けてくれた。
 その帰り道、ようやくアスランから貰った新しい契約書を開いた。
 それには、「5.アスラン・エルバートは、剣士ルルが修行の旅に出ることを認める(ただし、待つのは二年まで)」と書いてあった。
 それを見てルルは建物と建物の隙間に急いで入り込んだ。
 そして、契約書を顔に押し付け号泣した。
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