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第十四話 ビリビリ
しおりを挟む広々とした白い砂浜に波が押し寄せては引いて行く。
平日とはいえ、学生は夏休み。多くの若い人たちが集まってきていた。少し空は曇ってはいるが、海水浴には持って来いの気候だ。
「勇樹ー! お待たせ!」
先に勇樹が着替えを済ませて、更衣室の外で女性陣を待っていた。
振り返ると詩帆と葉瑠が更衣室から出てきたところだ。詩帆は黄色いトップスにデニムのショートパンツを履いている。葉瑠は水色のフリルのついた上下の水着だ。
「どうだー!」
詩帆がピースサインをして、堂々と胸を張った。勇樹はそれに答えるようにニッカリ笑って親指を立てる。
「二人とも、よく似合っているな! あれ? 雪花さんは?」
キョロキョロと雪花を探す勇樹。詩帆と葉瑠は背後の更衣室を振り返る。
「雪花、恥ずかしがってないでおいでよ」
「雪花ちゃん、大丈夫だよ。わたしも恥ずかしいけど、みんな一緒だし」
詩帆と葉瑠の呼びかけに、おずおずと雪花の顔だけが更衣室の壁から現れた。いつものポニーテールの雪花だ。なぜ出てこないのかと勇樹は不思議そうに首を捻る。
「どうかしたんですか?」
「ほら、遊ぶ時間限られているんだからさ!」
「う、うん」
詩帆に引っ張られて、やっと雪花は太陽の下に出てきた。
「雪花ちゃんって、本当色が白いよね。すごく黒い水着が似合っているよ」
「そう、かな?」
葉瑠にそう言われて雪花は少し緊張を解いた。雪花は黒いビキニを着ていた。
よく見ずにレンタル水着店で、勢いでつかんでしまった水着。布の面積はちゃんとあるものの、詩帆や葉瑠に比べたら肌色の露出が多い気がする。
でも、海に来ている人はみんな同じ感じかと砂浜の開放的な人たちを見て思い直した。誰も雪花に注目なんてしていない。
「な、ななな」
「ん?」
勇樹が雪花を見て震えている。そうかと思ったら、更衣室の中に駆け込んでいった。すぐに戻ってきて、雪花に白い無地のTシャツを差し出す。
「これ着てください!」
「……やっぱり、おかしいかな」
伸びていた背筋が再び身体を隠すように丸まる雪花。
「おかしくないです! めちゃくちゃ綺麗です! でも、他の人に見られるわけにはいきません!」
早口で言い切った勇樹が早く着ろとTシャツを押し付けてくる。勇樹の言うことは的外れだが、やはり上に何か着ていたほうがいいかと思って手を伸ばす雪花。
しかし、その手を止めたのは詩帆だ。
「ちょっと待って。こんなのを着ていたら海での楽しみが半減するじゃん。全然、海っぽくないじゃん」
「いいんすか!? 詩帆さんは雪花さんが男たちのいやらしい目線にさらされても!」
「あんたがガードすればいいでしょ。これは没収!」
詩帆は勇樹のTシャツを掴む。
「いいえ、着てください!」
勇樹が離せとばかりに引っ張った。詩帆も負けないとばかりに力いっぱい引っ張る。
「離して!」
「ダメ!」
白いTシャツがピンと張り、限界まで引き伸ばされた。
「あ」
葉瑠が声を出したとほぼ同時だ。真っ白なTシャツは真ん中からビリビリと裂けて行く。
「「わあああ!」」
力いっぱい引っ張っていた勇樹と詩帆は、互いの力の均衡が崩れた瞬間、背後へ倒れて行く。どさりと砂の地面に転がった。
「俺のTシャツが!」
「ふん。わたしと雪花の夏を邪魔しようとした報いよ!」
一連の騒動を見ていて、雪花と葉瑠は苦笑いするしかなかった。
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