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第十三話 絆創膏
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海の家でのバイトは順調だ。雪花もナンパをあしらう術を見につけていく。
とにかく、話しかける間もないくらい忙しそうに高速で移動するのだ。それを聞いた詩帆や勇樹たちは笑っていたけれど、とにかく順調だった。
しかし、順調でも小さな事件ぐらいはいくつか起こる。
この日も、そんな日だった。
「きゃッ」「わッ」
雪花がホールで片づけをしていると、小さな悲鳴が二つする。すぐにガシャンと激しく床に物が落ちる音がした。
「あ! ごめんなさい!」
「ごめん! 俺のせいだ!」
葉瑠と勇樹の声がほぼ同時にする。どうやら厨房で二人がぶつかって、皿を割ってしまったようだ。
「二人とも大丈夫?」
「怪我してない?」
急いで雪花と詩帆も厨房に入って様子を見る。床には皿の残骸が落ちていた。葉瑠がしゃがみ込んで、大きな破片を拾う。
「ほら。ほうき」
「サンキュー、詩帆さん」
勇樹が詩帆の差し出したほうきを手にする。
「痛っ」
そのとき、葉瑠が手を押さえた。人差し指から血玉が浮き上がってきている。
「大丈夫? 葉瑠さん。これ使って」
そう言って勇樹はお尻のポケットからあるものを取りだす。薬局のペンギンのキャラクターが描かれた絆創膏だ。可愛いし用意がいいなと何も持っていない雪花は思う。
「あ、ありがとう」
「わたしが貼るよ」
雪花が絆創膏を受け取って、中身を取り出す。葉瑠の人差し指の指先に巻き付けた。
「ねぇ、勇樹。いつも絆創膏なんて持ち歩いているの?」
しゃがみ込んで、ほうきで小さな破片を集める勇樹の背中に詩帆が問いかける。
ふと、勇樹の手が止まった。
「……そういえば、なんで俺、絆創膏とか持っているんだ? なぜか、ずっとポケットに入っているんだよな」
心底、不思議そうにする勇樹。
そんなに不思議がることなのだろうか。おそらく特別な理由なんてないのだろう。もしかしたら、勇樹が怪我したときの為にと、勇樹の父が入れたのかもしれない。
雪花はそう思い、葉瑠の代わりに皿の破片を集めた。
やっと海へ遊びに行く時間が出来たのは、それから三日後だった。あまりにも忙しすぎるのを見かねて、正彦が臨時のバイトを追加してくれたのだ。
少しだけでも出来た自由時間に、当然雪花たちは海に繰り出すことにする。
「ねぇねぇ、雪花、葉瑠。どの水着にする?」
詩帆は自前の水着を持っていたが、雪花と葉瑠はスクール水着しか持って来ていなかった。海でスクール水着を着ている人なんていない。
だから、海の家のレンタル水着を借りることにしたのだ。
レンタル水着はたくさんの色とりどりの水着が並んでいる。どれにしようかと雪花は迷ったが、なるべく地味なものにしたい。
「雪花さんなら何でも似合いますよ。あ! これとか!」
水着のかかったハンガーラックから勇樹が手にしたのは、白地に大柄の赤いハイビスカスがプリントされた大人っぽいパレオだ。
「いいや! 雪花はこっちの方が似合う!」
負けじと詩帆が手にしたのは、フリルがたくさんついたカラフルなビキニだ。かなり元気なイメージだ。
「いや、それは雪花さんには子供っぽすぎると思う」
「何言ってんの、勇樹。雪花は高一なんだから、これぐらいがいいの。パレオとかもっと大人になってからでも着られるじゃない」
「雪花さん」「雪花」
にらみ合っていた勇樹と詩帆がこちらを向き、雪花はびくっと肩を震わせた。
「「どっちがいい!?」」
水着を持った勇樹と詩帆に詰め寄られて、雪花はどうしようかと焦る。
どちらも雪花が思っているものより派手だとは思うが、正直雪花としてはどちらでもいい。しかし、どっちを立てても、どちらかが必ずがっかりしてしまう。それを想像すると、雪花はどちらも選べなかった。
「わ、わたし、これにする!」
ハンガーラックに下がっている中から適当に黒い水着を手にして、雪花はレジに向かう。その素早さに勇樹と詩帆は何も言えなかった。
「これが良かったのに」
「パレオ……」
残された二人は、そっと水着を元の場所に戻した。
とにかく、話しかける間もないくらい忙しそうに高速で移動するのだ。それを聞いた詩帆や勇樹たちは笑っていたけれど、とにかく順調だった。
しかし、順調でも小さな事件ぐらいはいくつか起こる。
この日も、そんな日だった。
「きゃッ」「わッ」
雪花がホールで片づけをしていると、小さな悲鳴が二つする。すぐにガシャンと激しく床に物が落ちる音がした。
「あ! ごめんなさい!」
「ごめん! 俺のせいだ!」
葉瑠と勇樹の声がほぼ同時にする。どうやら厨房で二人がぶつかって、皿を割ってしまったようだ。
「二人とも大丈夫?」
「怪我してない?」
急いで雪花と詩帆も厨房に入って様子を見る。床には皿の残骸が落ちていた。葉瑠がしゃがみ込んで、大きな破片を拾う。
「ほら。ほうき」
「サンキュー、詩帆さん」
勇樹が詩帆の差し出したほうきを手にする。
「痛っ」
そのとき、葉瑠が手を押さえた。人差し指から血玉が浮き上がってきている。
「大丈夫? 葉瑠さん。これ使って」
そう言って勇樹はお尻のポケットからあるものを取りだす。薬局のペンギンのキャラクターが描かれた絆創膏だ。可愛いし用意がいいなと何も持っていない雪花は思う。
「あ、ありがとう」
「わたしが貼るよ」
雪花が絆創膏を受け取って、中身を取り出す。葉瑠の人差し指の指先に巻き付けた。
「ねぇ、勇樹。いつも絆創膏なんて持ち歩いているの?」
しゃがみ込んで、ほうきで小さな破片を集める勇樹の背中に詩帆が問いかける。
ふと、勇樹の手が止まった。
「……そういえば、なんで俺、絆創膏とか持っているんだ? なぜか、ずっとポケットに入っているんだよな」
心底、不思議そうにする勇樹。
そんなに不思議がることなのだろうか。おそらく特別な理由なんてないのだろう。もしかしたら、勇樹が怪我したときの為にと、勇樹の父が入れたのかもしれない。
雪花はそう思い、葉瑠の代わりに皿の破片を集めた。
やっと海へ遊びに行く時間が出来たのは、それから三日後だった。あまりにも忙しすぎるのを見かねて、正彦が臨時のバイトを追加してくれたのだ。
少しだけでも出来た自由時間に、当然雪花たちは海に繰り出すことにする。
「ねぇねぇ、雪花、葉瑠。どの水着にする?」
詩帆は自前の水着を持っていたが、雪花と葉瑠はスクール水着しか持って来ていなかった。海でスクール水着を着ている人なんていない。
だから、海の家のレンタル水着を借りることにしたのだ。
レンタル水着はたくさんの色とりどりの水着が並んでいる。どれにしようかと雪花は迷ったが、なるべく地味なものにしたい。
「雪花さんなら何でも似合いますよ。あ! これとか!」
水着のかかったハンガーラックから勇樹が手にしたのは、白地に大柄の赤いハイビスカスがプリントされた大人っぽいパレオだ。
「いいや! 雪花はこっちの方が似合う!」
負けじと詩帆が手にしたのは、フリルがたくさんついたカラフルなビキニだ。かなり元気なイメージだ。
「いや、それは雪花さんには子供っぽすぎると思う」
「何言ってんの、勇樹。雪花は高一なんだから、これぐらいがいいの。パレオとかもっと大人になってからでも着られるじゃない」
「雪花さん」「雪花」
にらみ合っていた勇樹と詩帆がこちらを向き、雪花はびくっと肩を震わせた。
「「どっちがいい!?」」
水着を持った勇樹と詩帆に詰め寄られて、雪花はどうしようかと焦る。
どちらも雪花が思っているものより派手だとは思うが、正直雪花としてはどちらでもいい。しかし、どっちを立てても、どちらかが必ずがっかりしてしまう。それを想像すると、雪花はどちらも選べなかった。
「わ、わたし、これにする!」
ハンガーラックに下がっている中から適当に黒い水着を手にして、雪花はレジに向かう。その素早さに勇樹と詩帆は何も言えなかった。
「これが良かったのに」
「パレオ……」
残された二人は、そっと水着を元の場所に戻した。
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