25 / 120
第25話 百聞はボサノバにしかず 1
しおりを挟む
平田文哉は、派遣アルバイトとして来ていた物流倉庫の食堂でBランチの乗ったプラスチックのお盆を受け取っていた。
ちょっとした野菜つきのハンバーグにご飯と味噌汁。
所謂ハンバーグ定食で、日替わりという割には平日営業の週二回はローテーションの中に入っているので、定番商品扱いにして良いんじゃないかと文哉は思っていた。
一度食堂のおばちゃんにそう進言したものの、私が決めることじゃないからね、と苦笑いで返された。
そんなのわかってんだよ、と言いたかったがおばちゃんに客の意見を上に挙げる権限すらなさそうだったので、文哉は、ですよね、と頭を小さく下げた。
食堂を見渡して空いている席を探す。
背が高い文哉は広い食堂を隅まで見渡せるのでこういうとき便利だなと、よく他人に指摘されることを改めて思う。
昼休憩に入ったばかりなので食堂の席はかなり埋まっていて、空いている席も管理職だとか女性グループの暗黙の指定席ばかりだった。
知ってる人の横にでも座るか、と文哉はもう一度見渡すものの、どうもその条件で空いている席は近くに話すのが億劫なヤツがポツポツと座っていた。
人付き合いが苦手という理由で好き嫌いをはっきり態度に表していた結果、文哉自身も周りから嫌いの対象にされてしまっていた。
学生時代ならまだしも二十歳を過ぎた文哉より一回り二回りのオッサンどもからもそんな扱いを受けて、文哉は辟易としていた。
文哉は三度目の食堂の中の見渡しを行う。
背の高い文哉がカウンターのすぐ近くでいつまでも席を決めずつっ立っているのにも、イライラとするものがいるのか舌打ちを何度か聞いた。
うぜぇな、と口に出してしまいたかったが文哉はそれも面倒になると止めて、窓際の席に足を運んだ。
知り合いもいないし、両隣にうるさい社員が座っていたが仕方ないかと文哉は窓向きに設置されたテーブルにお盆を置いて座り、作業服の胸ポケットに入れてあった携帯電話を取り出し、作業ズボンの尻ポケットからイヤホンを取り出した。
文哉は携帯電話でお気に入りのガールズバンドの曲をかけると、携帯電話に差したイヤホンを耳に装着する。
ミュージックプレイヤーアプリをバックグラウンド設定にし、アプリを閉じて検索アプリを開いた。
検索アプリのトップページに掲載されるネットニュースを順番に読みながら、食事をゆっくりと始めた。
窓際の席だが窓から見える景色は特に良いものではなかった。
物流倉庫の入り口、トラックが出たり入ったりひっきり無しに動くのを四階の高さから見るぐらいの楽しみしか無い。
そのトラックの動きもここに派遣された当初は物珍しさから見ていられたが、一年働いた今となっては今日の仕事量としてしか見れなくなった。
入り口正面は、物流倉庫を管理してる会社の土地として広い空き地があって、時にはフォークリフトの免許取得用の講習場所となってるが大体は資材が野晒しに置かれている空き地となっている。
携帯電話に表示されるネットニュースは、芸能人の恋愛沙汰やら政治家の不正、スポーツの結果速報など雑多に並べられていて、文哉はどれにも興味を抱くことなく読み飛ばしていく。
結局は独りでの食事の時間潰しに過ぎない。
安い値段の割にそこそこに美味しいハンバーグ定食に感謝はしつつも、それを独りで感想を語りながら食事するわけにもいかないので黙々と口は味わうためだけに動いていた。
音量を大きめにしたイヤホン越しにも両隣の社員の話が僅かに聞こえてきて文哉は苛ついていた。
コイツらが女性従業員にうるさい馬鹿社員と陰口叩かれてることを教えてやろうか、と一瞬考えたがその後の面倒臭さを考えて止める。
飲み屋かよ、と思うぐらいの下品な言葉も飛び交う中文哉はそれを無視することに決め、携帯電話の音量を上げた。
少し耳が痛いくらいだが我慢だと諦めた。
ガールズバンドのアルバムが半分を過ぎた頃、物流倉庫の入り口に見馴れた人影が見えて文哉は注視した。
安堂伊知郎さんだ、と文哉は昼過ぎに見るには珍しい姿に驚いた。
物静かで真面目なオッサン、というイメージを抱いていた伊知郎が今日突然の午前休の連絡を入れたらしいことを急遽現場入りすることになった派遣会社の社員から聞いた。
剣崎たちが今日急に一斉に休みを取ったのでただでさえ人が不足してるってのに、と派遣会社の社員は愚痴っていた。
文哉は剣崎に羽姫の試合を観に行こうと誘われて断ったことを思い出した。
もしかしたら伊知郎も剣崎の無理強いに負けて羽姫の試合でも見てるのかもしれない、と思っていた文哉は、伊知郎が本当に午前休だけで出勤してきたことに驚いた。
ちょっとした野菜つきのハンバーグにご飯と味噌汁。
所謂ハンバーグ定食で、日替わりという割には平日営業の週二回はローテーションの中に入っているので、定番商品扱いにして良いんじゃないかと文哉は思っていた。
一度食堂のおばちゃんにそう進言したものの、私が決めることじゃないからね、と苦笑いで返された。
そんなのわかってんだよ、と言いたかったがおばちゃんに客の意見を上に挙げる権限すらなさそうだったので、文哉は、ですよね、と頭を小さく下げた。
食堂を見渡して空いている席を探す。
背が高い文哉は広い食堂を隅まで見渡せるのでこういうとき便利だなと、よく他人に指摘されることを改めて思う。
昼休憩に入ったばかりなので食堂の席はかなり埋まっていて、空いている席も管理職だとか女性グループの暗黙の指定席ばかりだった。
知ってる人の横にでも座るか、と文哉はもう一度見渡すものの、どうもその条件で空いている席は近くに話すのが億劫なヤツがポツポツと座っていた。
人付き合いが苦手という理由で好き嫌いをはっきり態度に表していた結果、文哉自身も周りから嫌いの対象にされてしまっていた。
学生時代ならまだしも二十歳を過ぎた文哉より一回り二回りのオッサンどもからもそんな扱いを受けて、文哉は辟易としていた。
文哉は三度目の食堂の中の見渡しを行う。
背の高い文哉がカウンターのすぐ近くでいつまでも席を決めずつっ立っているのにも、イライラとするものがいるのか舌打ちを何度か聞いた。
うぜぇな、と口に出してしまいたかったが文哉はそれも面倒になると止めて、窓際の席に足を運んだ。
知り合いもいないし、両隣にうるさい社員が座っていたが仕方ないかと文哉は窓向きに設置されたテーブルにお盆を置いて座り、作業服の胸ポケットに入れてあった携帯電話を取り出し、作業ズボンの尻ポケットからイヤホンを取り出した。
文哉は携帯電話でお気に入りのガールズバンドの曲をかけると、携帯電話に差したイヤホンを耳に装着する。
ミュージックプレイヤーアプリをバックグラウンド設定にし、アプリを閉じて検索アプリを開いた。
検索アプリのトップページに掲載されるネットニュースを順番に読みながら、食事をゆっくりと始めた。
窓際の席だが窓から見える景色は特に良いものではなかった。
物流倉庫の入り口、トラックが出たり入ったりひっきり無しに動くのを四階の高さから見るぐらいの楽しみしか無い。
そのトラックの動きもここに派遣された当初は物珍しさから見ていられたが、一年働いた今となっては今日の仕事量としてしか見れなくなった。
入り口正面は、物流倉庫を管理してる会社の土地として広い空き地があって、時にはフォークリフトの免許取得用の講習場所となってるが大体は資材が野晒しに置かれている空き地となっている。
携帯電話に表示されるネットニュースは、芸能人の恋愛沙汰やら政治家の不正、スポーツの結果速報など雑多に並べられていて、文哉はどれにも興味を抱くことなく読み飛ばしていく。
結局は独りでの食事の時間潰しに過ぎない。
安い値段の割にそこそこに美味しいハンバーグ定食に感謝はしつつも、それを独りで感想を語りながら食事するわけにもいかないので黙々と口は味わうためだけに動いていた。
音量を大きめにしたイヤホン越しにも両隣の社員の話が僅かに聞こえてきて文哉は苛ついていた。
コイツらが女性従業員にうるさい馬鹿社員と陰口叩かれてることを教えてやろうか、と一瞬考えたがその後の面倒臭さを考えて止める。
飲み屋かよ、と思うぐらいの下品な言葉も飛び交う中文哉はそれを無視することに決め、携帯電話の音量を上げた。
少し耳が痛いくらいだが我慢だと諦めた。
ガールズバンドのアルバムが半分を過ぎた頃、物流倉庫の入り口に見馴れた人影が見えて文哉は注視した。
安堂伊知郎さんだ、と文哉は昼過ぎに見るには珍しい姿に驚いた。
物静かで真面目なオッサン、というイメージを抱いていた伊知郎が今日突然の午前休の連絡を入れたらしいことを急遽現場入りすることになった派遣会社の社員から聞いた。
剣崎たちが今日急に一斉に休みを取ったのでただでさえ人が不足してるってのに、と派遣会社の社員は愚痴っていた。
文哉は剣崎に羽姫の試合を観に行こうと誘われて断ったことを思い出した。
もしかしたら伊知郎も剣崎の無理強いに負けて羽姫の試合でも見てるのかもしれない、と思っていた文哉は、伊知郎が本当に午前休だけで出勤してきたことに驚いた。
応援ありがとうございます!
5
お気に入りに追加
16
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる