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番外編
129.〖ロンウェル〗過去
しおりを挟む「おばちゃん! 最近どう?」
「うん! これだったら、来月辺りには収穫出来るよ! ヤツィルダ君、本当にありがとうね~」
ヤツィルダさんが、せかせかと。農業のおばさんやおじさん達に、土の状態や害虫の被害などがないかを聞き回っている。
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『この国を変える』と宣言をしたヤツィルダさんは、口先だけではなく、本当にそれを実行に移していた。
まず、街の状態を見て分かること……。食料が逼迫しているのを、何とかしないといけないと言い。いつも、何処かに出掛けて行っていたのだ。
俺は、当初。「外を、一人で出歩くのが危険ですので……一緒に行きましょうか?」と言ったのだが。
それを、ヤツィルダさんは「大丈夫~! 大丈夫~!」と笑いながら、素早く走って行ってしまう。
ヤツィルダさんとは、最近知り合ったばかりであるし。だから、あまり意見を押し付けては悪いと思って。途中からは、出て行くヤツィルダさんを、ただ見送ることにしていた。
――すると、ヤツィルダさんは。農業の知識がある人達に、種や肥料、道具までを、全て無償で譲り渡し。
更には、それを手伝ってくれる“他国の農業関係者”も、この国に呼んだ。
俺は、それに驚き。何処で道具などを大量に手に入れ、他国の農業関係者も来てくれることになったのか……とヤツィルダさんに聞くと――。
前の前にいた街で。世界的に有名な、農業の最高責任者の子供が生まれてからずっと病に伏せていた。
病を治すには――いつからか『足を踏み入れた者は、狂ってしまう。狂い山』だと言われるようになった場所にある“薬草”がなければ、その病を完治することが出来ないというのだ。
そして、山がそうなってしまった原因を推測すると……【幻覚茸】というものが、多量にある可能性が高く。それは、周囲に胞子をばら蒔き。強い幻覚作用により、人間を廃人にするものらしい。
街の人達は、何とかそれを排除しようとしたが。それには、幻覚を凌駕する程の『強い精神力』が必要なようで……。山に向かった人達は街に戻って来れても、宙を見て笑い続け、全員が狂ってしまったようだ。
しかし、その幻覚を凌駕する精神力を、ヤツィルダさんは持っていて――。
幻覚茸をひとつも残さずに燃やして、排除し。薬草もたくさん摘み、病気の子にプレゼントした。
それで、病気だった子の身内のみならず。街全体の人達も、ヤツィルダさんに非常に感謝し。何か困ったことがあったら、いつでも声を掛けてくれと言ってくれたというのだ。
だから、ヤツィルダさんがその街の人達に『今滞在している国の惨状を、どうにかしたい』と相談しに行ったら。
自分達に任せて欲しいと言われ。そこの農業の者達が必要なものを持ち、こちらの国にまで足を運んでくれているといった経緯だった――。
********
「あれ? ロンウェル、いつ居たんだよ? まったく、気が付かなかった」
「今さっきです。順調そうですね?」
「おう、良かったよ~! 早いとこだと、もう収穫出来てるみたいだしな!」
ヤツィルダさんは、ニコニコと満面な笑みを浮かべている。
初めは、さっさとこの国を出ていこうとしたのだが……。ヤツィルダさんが行うことによってこの国が変化していく様を、もっと見たいと思った。
だから俺は……。その興味により、まだ此処にいる。
「――あ~……。だけどさ、ひとつだけ……問題があるんだよなぁ~」
「何ですか?」
ヤツィルダさんは、先程とは一変し。苛立ちが混じったような表情になっていた。
「王様がさ。街の人達に、高い税金とか払わせてんだよな~。今の状況で、あんな金なんか払えねぇってのに……。しかも、それが払えないと暴力を振るわれるんだって、街の人達が言ってたんだよ。何とかしないと……」
ヤツィルダさんは、大きくため息を吐いていて……かなり悩んでいる様子だ。
その言葉から、ヤツィルダさんは税金に関しても、何とかしようとしていることが分かった。
しかし、それは非常に難しいと思う。
何故なら……。お金が絡んだことに関しては――この国の王が、絶対に黙っていない筈だからだ。
王は、贅沢三昧なことには目がなく。自分の得になることしかしないような……上に立つべき人間ではない。
それは、その周りにいる者達も同じであり。王におべっかを使って、自分達だけおいしい思いをしているのだ。
ヤツィルダさんは、今。お金に関係ないものに熱を入れているから、気にされてはいないが……。
それが、もし……。お金の方に、手を掛けるようになったなら。王はヤツィルダさんを、何としてでも排除しようと動くだろう――。
「それは、難しい問題ですね……。それを変えるには上にいる人達の認識を変えないと、どうしようもないので……」
「だよな~……――殴り込みにでもいくかなぁ………」
「……?」
ヤツィルダさんがボソリと小さく呟いた言葉を、よく聞き取れなかった。
しかし、それは……。俺に言っているというよりも、独り言のように感じたので。わざわざ、ヤツィルダさんに聞き返すことはしなかった。
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