路地裏のアン

ねこしゃけ日和

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 真広は昼食も食べずに家中を探した。
 しかしどの部屋にも小白はいなかった。押し入れや子供が入りそうなスペースも全て探したが姿はない。
 家の周りも歩いてみたが小白はどこにも見当たらなかった。
 あと五分もすれば職場に戻らないといけない時間になり、真広は家の前で真理恵に電話した。真理恵は話を聞くと驚いた。
「どこにもいないんですか? 屋根裏にも?」
「そこも探したよ。でもいない。どこにもだ」
「ええと。でも私は仕事があるし……」
「分かってる。午後は休ませてもらうよ。今日は暇な日だし、このままってわけにもいかないからな」
 真理恵は「それでいいなら」と複雑そうに答えた。
 正社員を目指しているのにいきなり休んだら心象が悪いのではないか。真理恵はそう思ったが自分が代わりになれるわけでもなく、ただ兄の言葉を受け取るしかなかった。
「私もなるべく早く帰ります」
 真広は「うん。じゃあ」と言って電話を切った。
 一人になると溜息をつき、すぐに仕事場に電話した。体調が悪くなったと言うと年下の正社員はそれなら仕方ないと半休にしてくれ、真広は電話越しに何度も頭を下げた。
 電話を終えると真広は小さく嘆息し、スマホをポケットに入れると再び歩き出す。
 小白はまだこの町を知らないのでここにいるだろうという予想が立てにくい。真広はとりあえず近所の空き地や遊具が一つしかない小さな公園を見てみたが、小白の姿はどこにもなかった。
 真広は心配になった。耳のこともある。もし誘拐されたらどうしようと想像してしまう。
 真広が探すあてもなく古い町を彷徨っていると子供の頃を思い出した。
 まだ母親が元気だった頃、真広は真理恵や友達と一緒に町を走り回っていた。なにもない町だったし、大したこともしてなかったが楽しかった。
 小白も今そうなのかもしれない。そうだったらいいと真広は思った。
 よく見ると町は随分変わっていた。変わっていたというよりはくたびれていた。昔は綺麗だと思っていた新築の家も三十年も経てば色はくすみ、古く見える。
 店は随分減り、今やっているのは半分道楽のところばかりだ。空き家も増え、空き地も増えた。子供は減り、老人が増え、活気は失せていた。
 真広は昔に閉まった煙草屋の汚れたガラスに映る自分を見つけた。
 そこにあったのは若者というくくりに入れるには如何せん老けた男の姿だった。
 困ったもんだと真広は思った。自分が止まっていた間に世界は確実に進んでいて、その結果真広はこの町に取り残されている。このさびれた町に。
 同時に止まっていた自分の時間がようやく動きだしたことも真広は感じていた。
 どんなことであれ、変化は必要だ。それがよく分かった。そして自分が今までそれを避けていたことにも真広は勘付いた。
 真広は小白に感謝していた。短い間だが、なにかが変わるきっかけになった。
 だからこそ無事でいてほしかった。
 それから真広は捜索範囲を広げ、時折会う人に帽子をかぶった小さな子を見なかったか尋ねて回った。
 しかし結局小白は見つけられなかった。
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