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蒼真は渋々だが大人達を秘密基地に連れて行くことにした。
小白が来た時に備えて里香を残し、真広と真理恵は傘を差して雨の中もカッパを着て自由に動く蒼真について行く。屋敷の隣から草が茂る山道に入って行くと雨のせいもあって夜のように薄暗かった。
道の途中、真理恵は蒼真に尋ねた。
「あの子からなにか聞いてない?」
「う~ん。あいつ、ねこになるしか言わないからなあ」
「そう……」
「怒るとすぐ叩くし」
蒼真は呆れながらぬかるんだ道を長靴で進んでいく。その後ろを二人は靴を汚し、息を切らしながらなんとか歩く。
真理恵は申し訳なさそうにした。
「その、ごめんなさいね。会ったらちゃんと言っておくから」
「え? あ、まあ、でもあいつはあいつで大変だから。人とは違うし」
「もしかして知ってるの?」
「耳のこと? うん。まあ」
真理恵と真広は驚いて顔を見合わせた。真広は慌てて蒼真に声をかける。
「そ、そのことなんだが……」
「誰にも言わないよ。言ってもしょうがないし」
「そ、そうかい?」
真広と真理恵がホッとすると蒼真はこくんと頷く。
「でもあいつさ。どっちになりたいんだろ」
「どっちって?」
真広は蒼真の言っていることが分からず首を傾げた。蒼真は難しそうに説明する。
「えっと、だから、あいつはいつもねこになりたいって言ってて。でも俺達とも遊ぶし。それも楽しくないって感じでもないから。だから、どっちなんだろうって」
その問いに真広も真理恵も答えられなかった。
沈黙は雨の音をより強くする。頭の上で木々が生い茂っているため、雨粒が体を濡らすことはほとんどなかった。
しばらく進むと蒼真はなにも言わない大人に代わって自ら答えを出した。
「まあ多分、どっちもなんだけど。でも俺としてはあいつと遊ぶのはきらいじゃないから、ねこになられても困る。かも」
それは真広と真理恵も同じだった。二人は嬉しそうに微笑んだ。
「そうだね」
「ええ」
二人が良い友達ができたと安心していると蒼真は困り顔で言った。
「それに俺ねこ語分からないないし。あいつの言ってること分からなかった絶対叩かれる」
蒼真が本当にそんな心配をしているので二人は少し安心した。
しばらく歩くと蒼真が薄暗がりの中を指さした。
「あそこ」
よく見ると山道に空き家が建っている。晴れた日はどこか長閑に見える空き家も雨の日はおどろおどろしく見えた。
蒼真を先頭に真広と真理恵は不安と期待を混じり合わせて空き家に向かった。
躊躇う二人をよそに蒼真は慣れた様子で中に入っていく。
ところどころ雨漏りしているが、どこから濡れるか蒼真は知っているので大事なものは穴の空いていない屋根の下に移動済みだ。
「小白ぅー。いるのか? みんな探してるぞー」
蒼真はそう呼びかけながら中を探した。だが返事はない。
真広と真理恵は薄暗い空き家の中に入って辺りを見渡す。室内はガラクタで溢れていた。
「こんなところに来てたのか……」
「ええ。危ないですね……。見つけたら注意しないと」
「まあでも、子供はそういうものさ」
真理恵は小さく溜息をついた。
「本当……知らないことばかり……」
すると奥から蒼真が暗い顔で戻ってきた。蒼真の顔を見て二人は悟った。
蒼真は残念そうに告げる。
「…………あいつ、いなかった」
真広は口をぎゅっとつぐみ、真理恵は泣きそうな顔を両手で覆った。
無情にも屋根を叩く雨音は益々強くなっていく。二人は途方に暮れた。
小白が来た時に備えて里香を残し、真広と真理恵は傘を差して雨の中もカッパを着て自由に動く蒼真について行く。屋敷の隣から草が茂る山道に入って行くと雨のせいもあって夜のように薄暗かった。
道の途中、真理恵は蒼真に尋ねた。
「あの子からなにか聞いてない?」
「う~ん。あいつ、ねこになるしか言わないからなあ」
「そう……」
「怒るとすぐ叩くし」
蒼真は呆れながらぬかるんだ道を長靴で進んでいく。その後ろを二人は靴を汚し、息を切らしながらなんとか歩く。
真理恵は申し訳なさそうにした。
「その、ごめんなさいね。会ったらちゃんと言っておくから」
「え? あ、まあ、でもあいつはあいつで大変だから。人とは違うし」
「もしかして知ってるの?」
「耳のこと? うん。まあ」
真理恵と真広は驚いて顔を見合わせた。真広は慌てて蒼真に声をかける。
「そ、そのことなんだが……」
「誰にも言わないよ。言ってもしょうがないし」
「そ、そうかい?」
真広と真理恵がホッとすると蒼真はこくんと頷く。
「でもあいつさ。どっちになりたいんだろ」
「どっちって?」
真広は蒼真の言っていることが分からず首を傾げた。蒼真は難しそうに説明する。
「えっと、だから、あいつはいつもねこになりたいって言ってて。でも俺達とも遊ぶし。それも楽しくないって感じでもないから。だから、どっちなんだろうって」
その問いに真広も真理恵も答えられなかった。
沈黙は雨の音をより強くする。頭の上で木々が生い茂っているため、雨粒が体を濡らすことはほとんどなかった。
しばらく進むと蒼真はなにも言わない大人に代わって自ら答えを出した。
「まあ多分、どっちもなんだけど。でも俺としてはあいつと遊ぶのはきらいじゃないから、ねこになられても困る。かも」
それは真広と真理恵も同じだった。二人は嬉しそうに微笑んだ。
「そうだね」
「ええ」
二人が良い友達ができたと安心していると蒼真は困り顔で言った。
「それに俺ねこ語分からないないし。あいつの言ってること分からなかった絶対叩かれる」
蒼真が本当にそんな心配をしているので二人は少し安心した。
しばらく歩くと蒼真が薄暗がりの中を指さした。
「あそこ」
よく見ると山道に空き家が建っている。晴れた日はどこか長閑に見える空き家も雨の日はおどろおどろしく見えた。
蒼真を先頭に真広と真理恵は不安と期待を混じり合わせて空き家に向かった。
躊躇う二人をよそに蒼真は慣れた様子で中に入っていく。
ところどころ雨漏りしているが、どこから濡れるか蒼真は知っているので大事なものは穴の空いていない屋根の下に移動済みだ。
「小白ぅー。いるのか? みんな探してるぞー」
蒼真はそう呼びかけながら中を探した。だが返事はない。
真広と真理恵は薄暗い空き家の中に入って辺りを見渡す。室内はガラクタで溢れていた。
「こんなところに来てたのか……」
「ええ。危ないですね……。見つけたら注意しないと」
「まあでも、子供はそういうものさ」
真理恵は小さく溜息をついた。
「本当……知らないことばかり……」
すると奥から蒼真が暗い顔で戻ってきた。蒼真の顔を見て二人は悟った。
蒼真は残念そうに告げる。
「…………あいつ、いなかった」
真広は口をぎゅっとつぐみ、真理恵は泣きそうな顔を両手で覆った。
無情にも屋根を叩く雨音は益々強くなっていく。二人は途方に暮れた。
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