路地裏のアン

ねこしゃけ日和

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 真理恵が出勤すると小白はテレビを観たり絵を描いたりしていた。
 その後ろから真広が覗き込む。
「なにを描いてるんだい?」
「うちとおかあさん。おじちゃんにあげるように。よろこぶかな?」
「それはもう大喜びだろうね」
 小白は嬉しそうにすると買ってもらった色鉛筆を走らせた。
「ついでにマヒロとマリエも描いとく。あとねこも。うちはねこ得意だし」
 真広は微笑ましく思いながら洗濯物を干したり洗い物をしたりしていた。
 真広が家事をしている間小白はご機嫌そうに耳を外向きにしながら白い画用紙をカラフルに埋めていく。
 しばらくしてお腹が減ると真広は昼食にオムライスを作った。
 それを小白はケチャップで口を汚しながらおいしそうに食べる。
「お祭りでも食べる?」
「そうだな。小さなお祭りだけど焼きそばくらいなら売ってると思うよ。あとはリンゴ飴とか」
「どっちも好き。でも一個にしとく。せつやくしないと」
 真広は小白の気遣いに苦笑した。
「べつにお祭りの日くらいはいいと思うけど?」
「ダメ。そういうのが命とりになる」
 真広は面白そうに笑い、「じゃあ行ってみてから決めようか」と提案した。
 小白は「うん」と頷き、悩みながらもぐもぐとオムライスを食べ尽くした。
 それから時間になると真広は小白を屋敷へと連れて行った。
 出てきた里香に「五時には迎えに来ます」と伝えると小白に手を振る。
「じゃあ、あとで」
「うん」
 小白は少し照れながらも手を振ってくれた。
 真広は本来なら今日も夜まで仕事だったが、祭りに行くからと言って夕方までにしてもらっていた。
 こんなことは今まで一度もなかった。いつも店や上司のことを考えて予定を入れていた。母親を病院に連れて行く時は休みを潰して連れて行った。
 真広はそれが大人として当たり前だと思っていたし、そうすることで会社も自分を評価してくれると信じていた。
 だがそれがただの思い違いであると知った今、真広は気にしすぎることをやめた。もちろん一定の配慮は必要だろうが、自分やその時間を削ってまですることはしない。
 今の真広にはそんなことよりも大事なものができた。
 だから少し早く店についてもタイムカードを切らずに働いたりはせず、休憩室で転職アプリを覗いていた。
 真広はこれからぼんやりとした誰かのためでも、かといって自分一人のためでもなく、家族のために生きようと決めていた。
 それができる今の自分が好きだった。
 時間が来ると真広は小さく呟いた。
「さあ、仕事だ」
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