元社畜の俺、異世界で盲愛される!?

彩月野生

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第一章<新しい世界と聖者の想い>

大国シュティーナへ

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俺は小さな村で生まれ育って、必要最低限の勉強と、森で魔獣を退治する術として、剣術を習っていた。
男は成人になるとだいたい騎士団入隊を目指して王都へと向かうが、大半は入隊はできずに早々に帰ってくるか、入れたとしても数年後には村に戻ってくるのだ。

成人になって旅に出るという者はほぼいなかったので、家族には泣かれてしまった。

何故、それほど心配されるのか。理由の一つとして、人間の住む領域内に生息している魔獣と、外の世界の魔獣の強さが桁違いなのがある。

その魔獣を制御できるのは、エルフ達なのだ。

今、俺が思い出せるこの世界の知識はこれくらいかな。
ろくに世界を知りもせずに飛び出した俺は、愚か者だ。

円卓を囲んで座るのは、俺とグレゴール、ゲルトラウト、エルフ王の従者一名、中心にエルフ王が腰を落ち着けた。

「早速だが闇の一族の王ゲルトラウトよ。貴方が把握している貴殿の国の状況と、知識をお聞きしたい」
「……ああ」

ゲルトラウトが腕を組んだまま、エルフ王の目をまっすぐ見据えて、闇の国で何が起こったのかを語り出した。

闇の国は、薄暗くて魔獣が闊歩している危険な場所だと想像していたが、その王が語る国は、俺たち人間の生活となんら変わらなかった。

民は日中働いて夜は寝るし、魔獣は滅多にでないため、巡回している兵士が退治する役目を担う。

「あの日もいつもと変わらない朝だった」

日の出と共に寝室から抜け出し、国の目覚めを見守るのが日課だったゲルトラウトは、いつも通り市場に内密で出かけたという。

事情を知る店主と朝食を食べているとき、異変に気づく。

誰の声も聞こえない。
いつもなら挨拶や楽しげな会話が聞こえてくるのに。

そして、己の身体から魔力が失われていく感覚を感じて、意識を集中させると――監獄島から違和感を察知して、兵士を向かわせる。

その結果、兵士から受けた報告の内容に驚愕した。

――創世神が降り立ったと。



「創世神から黒い影が剥がれていって、分裂した片割れが、次々に魔獣を生み出し国中を荒らし始めたんだ」
「元の神様は?」
「邪神によって監獄島のどこかに捕らわれている。存在は感じているから無事だとは思うがな」

俺の問いかけに、ゲルトラウトが腕を組んで神妙な面持ちで答える。
信用できると思いたいけど……襲われた時を考えると、不安は残る。

一見して何も考えていないように見えて、時々鋭い目つきをする事があるのを知っていた。

「民は結界を張った城に保護した。だが、全ての民を守れたわけじゃねえ……俺の魔力が弱まってるからな」
「何故だ?」

エルフ王の疑問に、ゲルトラウトは顔を振るだけで黙り込む。
隠し事をしている事実は認めるようだ。

闇の国の異変に、人間の国を支配する大国も気付いている頃だろう。
人間の協力も必要である。
エルフ王の決断に皆が同意した。

「我々エルフは闇の国から魔獣がでれぬよう、この森を守る必要がある。闇の国へ派遣できる兵士の数は限られてしまう。人の騎士団の力が必要だ」

人間の世界を支配する大国へ協力を仰ぐべく、グレゴールと俺が、エルフ王の書簡を持って訪ねる事となった。
ゲルトラウトは体力温存の為に、エルフの森の精霊の力を借りて、一時深い眠りにつくという事で、本当に二人だけで大国シュティーナへと向かう事となった。

俺達人間界の国は小さな国が点在しており、それを大国シュティーナがまとめて事実上、支配している形だった。
その小さな国の一つに俺の村があるのだ。
ちょっとだけ不安なのは、双子の王子の素行の悪さの噂だ。

俺の村があるルギルは、シュティーナからは離れており、馬車を使っても一月はかかる。
だから、滅多に村から足を運ぶ者などいないし、王子の姿を実際に見た事などない。

一目見れば忘れられないという話は誰かに聞いた事はあった。

翌朝、エルフ王から書簡を預かり、俺とグレゴールは出立した。
途中までゲルトラウトに瞬間移動で付き合ってもらって、シュティーナの国境の入り口まで飛ばしてもらった。
大陸中ならばどこへでも瞬間移動できるというので、便利な能力だなと感心しつつ、魔力を消耗するので、辛そうなのが心配になる。

「いいか、聖者。ナオキを守るんだぞ」
「言われなくてもわかっている!」
「役目を果たせ、ナオキ」
「うん」

お前に言われなくても、と不満を口にしそうになったが、頭を撫でられて口を閉じる。

ゲルトラウトに送り出され、シュティーナへと入国した。

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