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第一章:パーティー追放
4、いざベートの森へ
しおりを挟む忘れられてる気がするが俺の名前はザクスである。なんか定期的に名乗ってないと忘れられそうなんだよな。誰にとか聞かないで。
「俺の名前はザクス!」
「うお、なんだよいきなり。自己紹介か? あーザクスね、はいはいザクス、クスクス」
「なぜ笑う」
「笑ってねえよ、お前のあだ名を考えたんだ」
「本来の名前より字数が増えてるじゃないかザンメン」
「ザンメン言うな! 俺の名前はライドでそっちこそ文字数が増えてんじゃねえか! しかも由来がサッパリ分からん!」
残念なイケメンという由来は黙っておこう。
「で、ザンメン、ベートの森はどこだ」
「おま……はあ、もういいや。ほれ、あそこだよ。街からも見えるくらいに近いあの森」
言われて指さされた方角を見る。
街は大きな壁に囲まれているのだが、昼間は門が開いて旅人も住人も自由に出入りできる。
その門の一つに至った俺達の視線の先に、大きな森が広がっていた。そこに向かってる人も大勢いればそこから出てくる者も多い。冒険者っぽいのもいればそうでない者も多数。
それほどに気軽に入れる森ということか。
「あんな森に、本当に金になるのがいるのか?」
「まー小金にはならあな。お前役立たずで追い出されたとはいえ一応勇者パーティーにいたんだろ? ならあの森の奥にある、ちょっとした洞窟もいけんじゃね?」
「洞窟があるのか?」
「そりゃあんだけでかけりゃあな。初心者冒険者が最初に挑戦するようなレベルだけど、一般人はまず入らねえ。そこで何かしら珍しい魔物ゲットできりゃ、大金は無理でも中金(なかきん)くらいにはなんじゃね?」
「なんだよ中金って」
「小金(こがね)と大金(たいきん)の間だからそういう言い方すんだろ」
「初耳だ」
「ライド様語録だ、覚えとけ」
「もう忘れたよザンメン」
「ザンメン言うんじゃねえっつーの!」
ぎゃいぎゃいうるさいライドは置いておこう。とりあえず、金が稼げるならなんでもいい。
確かにライドの言う通り、俺は兄貴たちの元ではお荷物だったかもしれないが、それなりに経験を積んだ冒険者だ。初心者向けの森くらい、どうとでもなるだろう。
「なんで付いてくんだよ」
当然のように付いて来るライドを振り返れば、
「は? 当然だろ」
との返事。
「お前は盗賊で、盗んでなんぼなんだろ?」
「ま、たまには経験値稼いどかんと、冒険者資格がはく奪されても困るからなあ」
冒険者は誰もがなれるわけではない。強いからって誰もが冒険者になれるわけでもない。
それなりに実績を残してこその冒険者を名乗れるのだ。何か特権があるわけじゃないが、冒険者というだけで一目置かれる。何もしないでダラダラしてるようでは、冒険者という名を穢すだけ。そういう輩は資格なしと判断されてしまうのだ。
調査されることはなくとも、何かあった時のために実績を残しておくにこしたことはない。
「……俺がゲットした獲物、盗むなよ?」
「まあそこは、な。俺盗賊だし?」
「盗むなよ!?」
こいつ絶対盗む気だな!?
念押ししたが信用できないヘラヘラ顔に、頭が痛くなるのを感じるのだった。
そうこうしてるうちにベートの森に着いた。さすが街から見える距離の森、非常に近い。そして入ってわかった、非常に平和な森であることを。
中に入ればそこそこ人がいる。なにせ大きな街に観光に来てる者も多い。森の散策や、小さな池のほとりでピクニックって輩がそこかしこに。
そりゃまあそうか。街の近くに危険な森があったら、もっと厳しく管理してるはずだもんな。こんな気軽に来れて入れる森なんてこんなもんだろ。
ふと周囲を見回せば、山菜だか薬草だかを収集してる奴もチラホラ。
「冒険者は居なさそうだな」
「そらこんなとこ、魔物いねえもん」
ポツリと呟けば、小ばかにしたようにライドが答えた。
「冒険者は洞窟に行くって言ってんだろ」
「魔物は全て討伐されてるんじゃないか?」
「そりゃまあ凶悪なのがいりゃそうだが、基本魔物っつーより獣レベルが多いからな。掃討はされてないだろ。それじゃ自然の理を崩しちまう」
初心者向けの洞窟など、そんなに冒険者はやってこない。なので程々に魔物は淘汰され、生き続けてるということか。
「ピーカンデュって狼に似た魔物だか獣だかがいるんだけどよ。その毛皮が結構高値で売れる。肉はまあまあってとこかな」
「ピーカンデュか、まあそれくらいならなんとかなるか」
「おい、初心者向けのやつだぞ?それでなんとかなるって、最強勇者パーティーに居た奴の台詞かそれ」
「だから追い出されたんだよ」
「ちっ、使えねえなあ」
「なら付いてくるな」
誰も付いて来てくれと頼んだ覚えはない。それなのに馬鹿にされる意味が分からないし、なぜそんなことを言われねばならないのだ。
多少の苛立ちを感じて言えば、「ま、なんとかなるか」と人の言葉を引用してヘラヘラ笑う。
ライドという男はどうにもつかめない性格のようだ。
スリという行為を平然とするような男なのだ、そして盗賊。油断は禁物といったところか。
「なあ、ところで一つ聞いていいか?」
「ダメだ」
「お前んとこの勇者パーティーのさあ……」
駄目だっつってんだろ!? というツッコミもお構いなしに、ヘラヘラ笑ってる盗賊。
本当につかめないやつだとまた俺は頭を抱えるのだった。
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