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第一章:パーティー追放
5、嫌な思い出~始まりの記憶
しおりを挟む俺の拒絶の言葉は意味をなさず、ライドはお構いなしに質問してきた。
「お前んとこの勇者パーティーに、女の子が二人いるよな?」
「セハとミユか?」
「そうそう、それ。二人って何歳なんだ?」
「女性に年齢を聞くのは失礼だぞ」
「本人に聞いたらそうかもしれんが、俺はお前に聞いている。お前男だろ」
「俺は17歳だ」
「お前の年齢は聞いてねえよ、話かみあわねえなあ!」
思い出したくもないかつての仲間の話を、なぜ今されなければいけないのか? こちとらさっき別れたばかりなんだが!?
と苛立ちを含んだ目で睨むも、ライドが気にする様子は一切ない。
「お前、女にモテないだろ、ザンメン」
「だからザンメンてなんなんだよ。残念でした、俺はモテる男だ。この容姿で女が放っておくわけないだろ」
「洞窟はどっちだ」
「スルーだし」
ケッなにがモテるだ。性格はさておいて、まずは容姿が大事ってか。所詮世の中はそれだよな。
そういえば兄貴もモテた、なにせイケメンだったから。そのうえ勇者で強くて……モテる要素しかなかったからなあ。だがそれももうすぐ……
なんて考えてたら、岩肌が立ちふさがり、その一部にポッカリと大きな穴が開いていた。どうやら洞窟に着いたらしい。
「ライド、これがその洞窟か?」
「お、やっと名前で呼んだな。……あ~そうだよ、洞窟の一つだ。もっと奥にもいくつかあるが、これが一番手前で手っ取り早い」
「それはつまり、狩りつくされてる可能性が高いと?」
「どうだろな。繁殖期にはどいつかがこの洞窟使うだろ。たしか繁殖期も終わったばかり。巣立ったばかりのピーカンデュが戻ってきたり留まってる可能性は大いにある」
「そうか」
「で、セハちゃんとミユちゃんの年齢は?」
こいつ大概しつこいな。
洞窟の入り口に手をかけたところで質問されて、ガックリ肩を落としてしまった。気がそがれるわ!
「知らん」
「またまた~。噂じゃ勇者一行の女子は美人で可愛いと評判だぜ~? 何年一緒にいたんだよ」
「たしか五年、だったかな」
「そんなに一緒にいて、知らんわけないだろ」
「うるさい黙れ」
「で、胸は大きかった?」
ギリと洞窟の壁を握れば、簡単に岩が崩れて取れた。それを手に持って俺は
「黙れと言ってるだろ!」
思い切りライドに投げつけた。
「うお!? あっぶね!」
だがそこはさすがの盗賊と言うべきか。難なく避ける。だがそれもまた予想の範囲内だ。
避けた先に拳を突き出せば、あっさりその喉元を捉える。
「が!?」
「あんまりあれこれ詮索するな、部外者が」
俺より巨体で、俺より重いその体を喉を掴んで持ち上げる。ブラブラとライドの足が揺れ、苦しそうにもがくのを冷めた目で見上げた。
「俺が黙れと言ったら黙れ。分かったか?」
そう問えば、苦し気に歪めた顔でコクコクと頷く。それを確認してから手を離した。ドサリとライドの体が地面に落ちる。
「げほ、げほお!おま……なんなわけ……?」
「勇者パーティーをクビになった男だよ」
「この強さ、で……?」
「知るか」
むせて苦し気な顔で俺を見上げるライドを一瞥し、冷たく言って洞窟の奥へと進んだ。ややあって立ち上がったライドが追いかけてくる気配がする。あんなことされてもまだ逃げ出さないのか、変な奴。
無駄に根性はあるのかと、振り返った。
「なんだよ」
「セハは18歳、ミユは17歳だ」
「え?」
「年齢。聞きたかったんだろ?」
「お、おう。やっぱりお前、知ってんじゃねえか!」
「そりゃ五年も一緒にいりゃな」
俺が教えたことに満足したのか、途端に嬉しそうな顔をするライド。単純なやつだ。
だが、嫌いじゃないな。
そんなことを思って、けれど口にはせず。
脳裏をかすめるのは、かつての仲間たちの顔。
かつて一緒に旅をした、先ほど絶縁宣言されたばかりの連中の顔だった。
* * *
「俺は魔王を倒す旅に出る! そのために冒険者になるぞ!」
片田舎の村で、農民の子として生まれ育った俺と兄ディルド。
護身用にと持たされた短刀を無意味にいじりながら、森の切り株に腰かけていた俺は、唐突に叫ぶ兄を見上げた。
「冒険者? 兄ちゃんが?」
「おう! 俺はこんな田舎で農民として一生を終えるつもりはない。冒険者になったらもっと生活は楽になるはずだ」
「でも危険だよ」
「危険は承知! だがお前も知ってるだろザクス、俺は強い」
「……うん、まあ。そうだね」
「そう、俺は昨日野良イノシシを倒したばかり。どこの世界に14歳でそれをやり遂げるやつがいる?」
「この村ではいないかもねえ」
「世界を探してもいないさ!」
そう言って胸を張る兄。眩しかった、その金色の髪が、青い瞳が。とても眩しくて……欲しいと思った。
だがそれを諦めたのは俺。手放したのは俺だ。平穏のために、俺はそれを兄貴に譲ったんだ。
譲られた兄は、それに気づかず自分の物であると信じ生きてきた。そしてついに冒険者になると言い放ったのだ。
「お前はどうする、ザクス?」
振り返って俺を見る兄貴。そうだな、と俺は小さく呟いて逡巡する。
俺は戦闘は嫌いだ。というか面倒ごとは嫌いだ。だからこのまま平穏に田舎で農民やっていたい。
だがここは田舎のくせになかなかどうして、強い魔物の出現率が高かったりする。
今こうして子供二人で森にやって来てるが、実はけっこう危ないことなのだ。大人が知ったら慌てるだろうし激怒することだろう。だが兄貴は俺のおかげで強いから、ちょっとした魔物なら倒せてしまう。
だからこそこうやって森に入り、高そうな薬草はないかと探索に来れるのだ。
では兄貴がいなくなればどうなるか?
俺自身が戦わなければいけなくなる。正直農家の仕事だけでは食っていけない。極貧決定だ。だからこそ森に入って野草を採って獣を狩る必要がある。
それを俺自身がやらねばならないってことだ。
(それは、非常にめんどくさいな)
何度も言うが、俺は面倒なことは嫌いだ、大嫌い。そういったことは兄にやって欲しい。
だがもし兄が冒険者となるべく旅に出ると言うのなら、兄に頼ることはできなくなってしまう。
それは困る。
ならば答えは一つ。
「俺も冒険者になる」
「そうか。頑張って強くなろうな!」
「うん」
頷きながら内心舌を出す。
嘘だ、頑張りたくない。そして俺は充分強い。
だから兄貴、俺の力を分けてあげるから、貸してあげるから。
俺の代わりに前線に立って、戦ってくれよな。
そんな俺の心の内を知らぬ兄は、一年をかけて両親を説得した。それ以上に年下の俺が同行することを説得するのは、もっと苦労したけど、なんとか承諾をもらった。
そうして俺達は旅に出たのだ。
兄貴が15歳、俺が12歳。
子供の冒険者はほどなくしてやっぱり子供な12歳の白魔導士と13歳の黒魔導士を仲間にする。
そして保護者替わりとなる18歳の戦士兼武闘家が入って、ようやくまともな形となってスタートを切った。
最強勇者一行の始まりである。
応援ありがとうございます!
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