弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ

文字の大きさ
15 / 48
第一章:パーティー追放

15、新しいパーティー

しおりを挟む
 
「まってまって、ちょっとまって! 俺は? 俺は仲間じゃないの!?」

 俺とルルティエラが仲間の握手をかわしていると、慌てた様子で俺達を覗き込んでくるライド。

「知らん。お前は他人だ」

 と俺が言えば、

「スリなんて犯罪者と共に行動するつもりはございません」

 とツンと横向くルルティエラ。

「嘘だろお!? 初犯でしかも未遂なのにこの仕打ち!」

 そう言って、泣き崩れるライド。その言葉に、俺は思わず反応してしまった。

「え、俺のが初犯なの?」
「そうだよう。家賃払えなくなってアパート追い出されて……金なくなって腹減ってどうにもならなくてさあ……。そこにお前が歩いてて、つい出来心で……」
「なんで俺を狙ったんだよ?」
「こいつトロそうな顔してんなと思って……嘘です、とってもイケメンすぎてヤバイと思ったからやりました」

 後の言葉、絶対嘘だよな。最初の言葉が本心だろ。
 また俺が怒ると思ったのだろうが、俺は怒らない。なぜなら俺は寛大だから。いや本当は違うけど。別の理由があるけど、まあそこはおいおい……。
 それより俺は気になることがあるのだ。

「ところでライド、お前らどうやって俺を見つけたの?」

 そこで再会の時の話に戻るわけである。
 ライドが『聞いて驚け、俺の能力はだなあ!』とか言い出すから思わず寝てしまったが、聞いてはおきたい真実。

「ふははは! 聞いて驚け、俺の能力はだなあ! 「ライドは探索能力を持ってるのですわ」 ……言っちゃう!? 俺のセリフ遮って暴露しちゃう、ルルちゃん!?」

 また俺が寝ては困ると思ったのか、サラッとルルティエラが教えてくれた。なるほど、盗賊の能力ってか。

「探索? 探知? まあどっちでもいいや。誰でも探せるのか?」
「あ? まあ俺が知ってる人間ならな。あと魔物がどこにいるかとかな。種類や強さまで分からないから、気配のするほう行ったらとてつもなく弱いスライムとか、とんでもなく強いドラゴンとかいるかもしんねえけど」
「ふ~ん。お前、迷子探しのバイトでもすれば?」
「人間の場合は俺が知ってるやつ限定だっつってんだろ。あとすげー需要低そうよな、そのバイト」
「いや、けっこうあると思うけど」

 知ってる人間限定ってことは、兄貴の勇者一行は探せないか。近くにいるかどうか、とか分かれば便利とか思ったんだがな。
 でもまあ、何かと役に立ちそうだよな。
 なによりライドと一緒だと退屈しなそうだ。なんだかんだでウマが合う、ヒヒン。
 相性ってのは旅をするうえで非常に重要だ。それを俺は経験上よく知っている。かつての仲間とは気が合わなかったよなあ。

「まあいいか。んじゃあライドも仲間ってことで……」
「うおっしゃー! じゃ、俺がリーダー!」
「ルルティエラ、ライドに浄化魔法頼む」
「ライドが消滅してしまうんじゃありません?」
「俺は瘴気の塊かい!」

 オチがついたところで、あらためて俺達はパーティーを組むことになった。
 どっかで適当に仕事して平穏に生きようと思ったんだけどなあ。まさか冒険者を続けることになろうとは。
 思わず苦笑してたら、肩の存在がそこで初めて動いた。

「話はついたか? いい加減、我は腹が減ったぞ」

 ミュセルの言葉で俺は思い出す。ルルティエラにずっとお預けくらってたのを。
 ようやくゲットした干し肉とカンパンを口にして、腹を満たすことができたのであった。

「とりあえず次の街目指すか」
「そうだな」
「ですわね」
「うむ」

 こうして俺達の旅は始まる。


* * *


 時を同じくして、勇者一行。
 数日前の隕石騒ぎがまだ収まらぬ街の宿屋で、勇者一行は難しい顔をつきあわせていた。

「なあディルド、噂は一貫してるぞ。どこぞの誰かが隕石を破壊したって」
「俺達以外の誰か、だよな」
「当たり前だろ。俺らはこの宿で寝てたんだから。騒ぎが起きるまでずっと、な」

 戦士兼武闘家のモンジーの言葉に、ふむ、と顎に手を当て考え込むのは勇者ディルド。

「こんな小さな街に、あたしら以外で隕石を壊せるやつなんているの?」

 顔をしかめ、胡散臭げな顔を向けるのは、黒魔導士セハ。

「そ、そんな冒険者は見かけませんでした、居るはずないですう」

 そう言って、ギュッと自身の魔術ロッドを握り締めるのは、白魔導士のミユ。

「通りすがりの勇者でも居たのかね」

 そう言ってから、モンジーはジッと自分の右手を見つめた。その様子を見たディルドが眉をひそめる。

「どうしたモンジー。右手に怪我でもしたのか?」
「そんなヘマ、俺がするかよ。いや、なんか手に力が入らないなと……」
「力が入らない?」
「さっきクエスト用の買い出し行っただろ? ちと荷がかさばったんだが、いつもならヒョイと持てるはずなのに……」
「持てなかったのか?」
「ちょっと、な。いつもなら一度に持てる量のはずなんだが、厳しくて複数回に分けて運んだ」
「体調悪いのか?」
「う~ん、そういう感じでもないんだがなあ。なんつーか……いや、なんでもない」

 力が弱くなっている。
 そう口にするのがなんだかはばかられて、言葉を濁し、モンジーはジッと己の手を見つめる。
 同じくして、足をさする勇者ディルド。
 体内の魔力に違和感を感じて胸に手を当てるセハ。
 ギュッと更に強くロッドを握るミユ。
 その時、ふとミユの視線がディルドをとらえた。

「あら?」
「どうしたのミユ」
「いえ、なんでも……」
「なによ、気になるわね」
「ええっと、なんだかディルドの顔が違って見えたので……」
「ディルドの顔が? いつもと同じじゃない」
「ですよね。外の光が入ったのかなにか……見間違いでしょう」

 ミユもまた口にできなかった。
 美形で知られるディルドの顔が、一瞬とても平凡に見えたことを。美しく輝く金髪が、光を放つことのない茶色に見えたことを。
 そしてそれは、どこか見覚えのある気がしたことを。
 ミユは言えなかった。

変化は訪れる。確実に着実に。
気付かないうちに、けれど気付くほどに。
彼らの変化は……いや、衰退はすぐそばまで近付いていた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

処理中です...