愛恋の呪縛

サラ

文字の大きさ
上 下
181 / 190

第180話

しおりを挟む
「霊、力……ですって……?」



 レイの発言に、その場にいた全員が目を見開いておどろいている。
 事実かどうかは置いておいて、このことに気づいているのは、どうやらレイだけのようだ。
 隣にいたフォンも、このことには驚きだったようで、興味津々にレイの袖を引っ張る。



「え!え!え!ねぇねぇレイ!それほんと?それほんと!?アタシも変な気配は感じたけど、それが霊力って分からなかった!」

「フッフッフッ……そりゃあ、僕の力のが、とても強い男だからね!霊力とか、そういうものを人並み以上に認識出来るみたいだヨ」



 レイは、自慢げに鼻の下を擦った。
 自分だけがハッキリと認識できる、鬼の王の中に紛れ込んでいる異質の存在。
 妖魔として生まれた者たちからすれば、ありえないものだが、レイが感じているものは、紛れもない霊力だ。
 それも、かなり強力な。

 レイが鼻を高くしていると、話を聞いていたフォンは、まるで嫉妬しているかのように頬を膨らませている。



「えぇ!ズルいー!アタシもは強いはずなのにー、レイだけ認識出来るなんて……。
 アタシ、外側が女の子だから弱いのかなぁ……」

「そんなことないよ!フォンは僕と同じくらい強いよ?なんてったって、僕たちの元となっているのは、なんだから!
 僕はちゃんと知ってる!フォンはできる子!」

「っ!レイ~!だぁいすき~!」

「ハハッ!僕も大好きだヨ!」



 2人は、仲良くギュッと抱きしめあった。
 いつだってこの2人は、互いを支え合い、そして高め合ってきている。
 どちらかが落ち込めば、どちらかが手を差し伸べる。
 そうやって、生きてきた。

 だが……



「お、おい!ちょっと待てや!」

「「???」」



 キャッキャと騒ぐ2人に、スーは堪らず口を挟む。
 2人が同時に首を傾げると、ウースーサンは、まだ呆気に取られたままだった。
 頭の整理が追いつかず、困惑した表情を浮かべている。
 2人の視線が向けられると、スーは言葉を続けた。



「ど、どういう事だよ!鬼の王の妖力の中に、霊力が混ざってる!?んなの、有り得ねぇだろ!」

「え?どうして?」

「どうしても何も、まず不可能な話だろうが!妖力と霊力ってのは、相対するものだろ。それが混ざってるなんて……
 鬼の王には、妖魔と仙人のどちらの力も備わってるってことになる。んなの馬鹿げてるだろうが!」



 一般的に考えれば、スーの言い分の方が正しい。
 全てを破壊し、人間たちを殺すための妖力。
 その妖力を扱う妖魔を倒すための霊力。
 本来、ぶつかり合う2つの不思議な力は、たとえどんな呪いを受けようと、共に存在することは不可能。
 そんなの、体の中で殺し合いが起きているようなものなのだ。
 当然、スーの考えには、ほかの2人も同意見。
 しかし、レイは片眉を上げて、スーの言葉に疑問を抱いていた。



「それは常識内の話でしょ?そもそも、鬼の王が世間一般論とか、常識の中に収まる存在じゃないじゃん」

「いや、それはそうだけどよ……あの鬼の王といえど、霊力っつーもんには手を焼くはずだろ?だって、自分らを殺すための力を克服出来るわけがねぇ」



 妖力と霊力は、相対するもの。
 鬼の王といえど、完全に支配下に置くことなど出来ない。
 それは誰でも分かる考えだった。
 だから、スーたちはレイの話に納得が出来ない。

 そう、これが普通の妖魔の話ならば……。



「いいや、もしかしたら可能な話かもヨ?
 だって鬼の王と同様に、イカれた力を持ったが、1000年以上前にいたみたいだから」

「あ?」



 レイの言葉に、スーは首を傾げる。
 すると、今度はウーが口を開いた。



「史上最強の仙人……のことですね」

「おっ!さっすがウー!物知りだ!
 ねね、その人物の説明をしてよ!知ってること全部!」



 レイがそう促すと、ウーはコホンっとひとつ咳払いをして、語り出した。





「今から1000年以上前の時代。この国に、妖魔の天敵とされた仙人がいたそうです。本名は不明ですが、という異名を持っていることだけは明らかになっています」

「黒神……?なんか気味わりぃ異名だな」

「えぇ。黒い衣を身にまとい、会う妖魔全てを葬り去ってきた無敗の少年だったとか……そのため、当時の妖魔の世界では、かなり恐れられていたみたいです。
 ですがそんな無敗の仙人は、ある存在によって殺された。それが、鬼の王と言われています」

「最強の仙人を倒したってのか、鬼の王が」

「はい。分かっているのは、これくらいです」



 名前だけならば、耳にしたことがある者はいる黒神。
 だがその実態は、この国の歴史とともに謎に包まれていて、あまりにも情報が無いせいで、一時期は作り話の中で生まれた架空の人物だという噂もあった。
 そしてその仙人を殺したという鬼の王も、彼に関することは何一つ公言していない。
 故に、1度は耳にしたことがある話でも、その全てを信じる者はいなかった。



「本当に居たのかは、彼を倒した鬼の王本人に確認しない限りは分かりません。それでも、鬼の王の強さを見れば、その最強の仙人が倒されたということにも納得できるかと」

「なんかマジで、やべぇ奴を敵に回してる気がしてきたなぁ?」



 スーは、異型妖魔と戦っている魁蓮を、横目でチラッと見る。
 強者、なんて一言で表せない強さ。
 それなりに肝が据わっていなければ、目の前にしただけで気絶しそうなぐらいには圧がある。

 その時だった。



「僕ね、ずっと思ってたんだけど……。
 鬼の王の中に紛れてる霊力って、その黒神のものだと思うんだ」

「「「「えっ……」」」」



 ふと、レイがそう口にした。
 またもいきなりの発言に、周りにいた皆は同じ反応をもう一度する。
 するとレイは、腰に手を当てて、自信満々に口を開いた。



「僕の考えとしてはね!
 鬼の王は、黒神を殺した後……黒神を食べたと思ってるんだヨ!一応、彼も妖魔だからさ!」



 自信に溢れた考察。
 しかし……



「ま、待ってレイ……それは、違うんじゃ……」



 レイの自信に満ち溢れた考えに、今度はサンが口を挟んだ。



「えー?何が違うのさー」

「だ、だって……鬼の王って確か、人間を1人も食べたことがないらしいよ……それが本当なら、黒神を食べたって考えは、当てはまらない、気がする……」



 そう、鬼の王の話で特に有名なのは……
 妖魔でありながら、人間を食べたことがないという話。
 人間たちにとって肉や魚、野菜など、食べ物が生きる上で大切なことと同じように、妖魔に欠かせないのは人間の肉だったりする。
 彼ら妖魔にとっては、人間の肉ほど極上なものはない。
 そんな人間の肉を、鬼の王は1度も口にしたことがなかったのだ。



「最初は、人間をたくさん食べたから、あんなに強いんだって思ってたんだけど……鬼の王は、人間を食べたことがないって……だから、黒神を倒したとしても、食べては無い、と思う……」



 その話を知っているからこそ、サンレイの話を否定した。
 しかし、またもレイは、驚くべきことを口にする。



「確かに''食べた''って聞いたら、ご飯とか食事のことを連想すると思うけど……何かを食べるって、他にも色んな意味で使えるじゃん。例えば……
 呪いをかけた、とか……体を乗っ取った、とかね?」

「……えっ」

「あくまで僕の予想だから!でも、鬼の王は黒神を食べてるはずだよ?どうやって食べたかは知らないけど、黒神の1部は、絶対鬼の王の中にある。それか……
 鬼の王の体のを見る限り、食べられたのは……鬼の王の方だったりして!」

「………………………」



 スラスラと出てくるレイの言葉。
 今まで理解が追いつかず、且つ否定をしてきたサンたちも、流石に何も言えなくなってしまった。
 今まで出てきた考えも予想も、にわかには信じ難いものばかり。
 だが深く考えてみれば、そもそも鬼の王の存在自体が謎が多い。
 そんな男に、この世にある常識や普通を押し付けたところで、意味が無いのは分かっている。

 だから、自分たちにとってはありえない事でも、もしかしたら有り得るかもしれない、を成し遂げられるのは……魁蓮だけだ。



「まあ何はともあれ、鬼の王は僕たちにとっては邪魔な存在なんだヨ!鬼の王の全てを暴きまくって、確実に殺そ!全ては主様のために!」



 言葉に詰まっている周りを他所に、レイは元気よく手を挙げた。
 続いてフォンも、彼に乗っかるように「おー!」と声を上げる。



「それじゃあ、僕たちはお暇させてもらうヨ!早く帰って、「イー」の様子を見なきゃいけないから!
 フォンサン、戻ろ!」

「あ、そうだったね!早く戻らなきゃ!」

「そ、それじゃあ……ウースー



 3人は手をヒラヒラさせて歩きだそうとすると、3人に向かってスーは目を細めた。



「……まだ駄目なんかよ、イーのやつ」



 小さい声で尋ねるスーに、フォンが口を尖らせて振り返る。



「仕方ないでしょー?イーの元となってる体、未だに反抗してきて厄介なんだから!アタシたちも、来年の7月7日に間に合わせようと必死なんだからネ!ちょっとは褒めて!」

「うっせぇ。さっさと行け」

「もー!スーったら、いっつも冷たいんだから!イーが起きたら、ボコボコにしてもらうよー!?」

「あいつはテメェの言う事なんざ聞かねぇだろ。一匹狼みたいな奴だからよ。ボコボコにしてぇんなら、テメェが来いや」

「ふんっ!いいもん!いつか殺してやるから!
 それじゃあね!」



 フォンは頬を膨らませながら、先に歩いていたレイたちの元へと駆け出した。

 3人が居なくなったあと、スーはくるっと向きを変えて、再び魁蓮を遠くから見つめる。
 ウーも何も口にすることなく、同じように視線を戻した。
 その時……



「なぁ、ウー
 黒神の遺体を、一緒に探さねぇか」

「っ……」



 ふと、スーがそんなことを言い出した。
 あまりにも異常な提案に、ウーは息が詰まる。
 だがスーは、意外にも真面目な考えだったようで、睨みつけるように魁蓮を見つめていた。
 そんなスーの姿に、ウーはいつものように叱ることも出来ず、落ち着いて答える。



「黒神の遺体を探すのは、ほぼ不可能だと思いますよ」

「なんで」

「聞くところによると……
 黒神の遺体と彼が使っていた黒い剣は、見つかっていないようですから」

「あ?見つかっていない?」

「はい。何も痕跡が残されていないとなると、本当に鬼の王が食べてしまったのかもしれませんね」

「……………………」

「どうしますか?話くらいは聞きますよ」

「……そうだな……
 やっぱ、を捕まえた方が早ぇか」

「でしょうね。今、紅葉様が説得しているはずです。
 あの子がこちらに来てくれれば、あるいは……」



 ウーは、それ以上は言葉にしなかった。
 それでも、スーにはしっかり伝わっている。
 彼女が何を言いかけたのか。



「楽しみだなぁ。鬼の王が死んじまう日が……」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

役目を終えて現代に戻ってきた聖女の同窓会

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,598pt お気に入り:76

秘密の男の娘〜僕らは可愛いアイドルちゃん〜 (匂わせBL)(完結)

Oj
BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:8

会社を辞めて騎士団長を拾う

BL / 完結 24h.ポイント:584pt お気に入り:34

待ち遠しかった卒業パーティー

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,036pt お気に入り:1,290

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

BL / 連載中 24h.ポイント:3,713pt お気に入り:2,709

処理中です...