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第180話
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「霊、力……ですって……?」
雷の発言に、その場にいた全員が目を見開いておどろいている。
事実かどうかは置いておいて、このことに気づいているのは、どうやら雷だけのようだ。
隣にいた風も、このことには驚きだったようで、興味津々に雷の袖を引っ張る。
「え!え!え!ねぇねぇ雷!それほんと?それほんと!?アタシも変な気配は感じたけど、それが霊力って分からなかった!」
「フッフッフッ……そりゃあ、僕の力の元となっている人物が、とても強い男だからね!霊力とか、そういうものを人並み以上に認識出来るみたいだヨ」
雷は、自慢げに鼻の下を擦った。
自分だけがハッキリと認識できる、鬼の王の中に紛れ込んでいる異質の存在。
妖魔として生まれた者たちからすれば、ありえないものだが、雷が感じているものは、紛れもない霊力だ。
それも、かなり強力な。
雷が鼻を高くしていると、話を聞いていた風は、まるで嫉妬しているかのように頬を膨らませている。
「えぇ!ズルいー!アタシも中身は強いはずなのにー、雷だけ認識出来るなんて……。
アタシ、外側が女の子だから弱いのかなぁ……」
「そんなことないよ!風は僕と同じくらい強いよ?なんてったって、僕たちの元となっているのは、雷神と風神なんだから!
僕はちゃんと知ってる!風はできる子!」
「っ!雷~!だぁいすき~!」
「ハハッ!僕も大好きだヨ!」
2人は、仲良くギュッと抱きしめあった。
いつだってこの2人は、互いを支え合い、そして高め合ってきている。
どちらかが落ち込めば、どちらかが手を差し伸べる。
そうやって、生きてきた。
だが……
「お、おい!ちょっと待てや!」
「「???」」
キャッキャと騒ぐ2人に、肆は堪らず口を挟む。
2人が同時に首を傾げると、伍、肆、参は、まだ呆気に取られたままだった。
頭の整理が追いつかず、困惑した表情を浮かべている。
2人の視線が向けられると、肆は言葉を続けた。
「ど、どういう事だよ!鬼の王の妖力の中に、霊力が混ざってる!?んなの、有り得ねぇだろ!」
「え?どうして?」
「どうしても何も、まず不可能な話だろうが!妖力と霊力ってのは、相対するものだろ。それが混ざってるなんて……
鬼の王には、妖魔と仙人のどちらの力も備わってるってことになる。んなの馬鹿げてるだろうが!」
一般的に考えれば、肆の言い分の方が正しい。
全てを破壊し、人間たちを殺すための妖力。
その妖力を扱う妖魔を倒すための霊力。
本来、ぶつかり合う2つの不思議な力は、たとえどんな呪いを受けようと、共に存在することは不可能。
そんなの、体の中で殺し合いが起きているようなものなのだ。
当然、肆の考えには、ほかの2人も同意見。
しかし、雷は片眉を上げて、肆の言葉に疑問を抱いていた。
「それは常識内の話でしょ?そもそも、鬼の王が世間一般論とか、常識の中に収まる存在じゃないじゃん」
「いや、それはそうだけどよ……あの鬼の王といえど、霊力っつーもんには手を焼くはずだろ?だって、自分らを殺すための力を克服出来るわけがねぇ」
妖力と霊力は、相対するもの。
鬼の王といえど、完全に支配下に置くことなど出来ない。
それは誰でも分かる考えだった。
だから、肆たちは雷の話に納得が出来ない。
そう、これが普通の妖魔の話ならば……。
「いいや、もしかしたら可能な話かもヨ?
だって鬼の王と同様に、イカれた力を持った仙人が、1000年以上前にいたみたいだから」
「あ?」
雷の言葉に、肆は首を傾げる。
すると、今度は伍が口を開いた。
「史上最強の仙人……黒神のことですね」
「おっ!さっすが伍!物知りだ!
ねね、その人物の説明をしてよ!知ってること全部!」
雷がそう促すと、伍はコホンっとひとつ咳払いをして、語り出した。
「今から1000年以上前の時代。この国に、妖魔の天敵とされた仙人がいたそうです。本名は不明ですが、黒神という異名を持っていることだけは明らかになっています」
「黒神……?なんか気味わりぃ異名だな」
「えぇ。黒い衣を身にまとい、会う妖魔全てを葬り去ってきた無敗の少年だったとか……そのため、当時の妖魔の世界では、かなり恐れられていたみたいです。
ですがそんな無敗の仙人は、ある存在によって殺された。それが、鬼の王と言われています」
「最強の仙人を倒したってのか、鬼の王が」
「はい。分かっているのは、これくらいです」
名前だけならば、耳にしたことがある者はいる黒神。
だがその実態は、この国の歴史とともに謎に包まれていて、あまりにも情報が無いせいで、一時期は作り話の中で生まれた架空の人物だという噂もあった。
そしてその仙人を殺したという鬼の王も、彼に関することは何一つ公言していない。
故に、1度は耳にしたことがある話でも、その全てを信じる者はいなかった。
「本当に居たのかは、彼を倒した鬼の王本人に確認しない限りは分かりません。それでも、鬼の王の強さを見れば、その最強の仙人が倒されたということにも納得できるかと」
「なんかマジで、やべぇ奴を敵に回してる気がしてきたなぁ?」
肆は、異型妖魔と戦っている魁蓮を、横目でチラッと見る。
強者、なんて一言で表せない強さ。
それなりに肝が据わっていなければ、目の前にしただけで気絶しそうなぐらいには圧がある。
その時だった。
「僕ね、ずっと思ってたんだけど……。
鬼の王の中に紛れてる霊力って、その黒神のものだと思うんだ」
「「「「えっ……」」」」
ふと、雷がそう口にした。
またもいきなりの発言に、周りにいた皆は同じ反応をもう一度する。
すると雷は、腰に手を当てて、自信満々に口を開いた。
「僕の考えとしてはね!
鬼の王は、黒神を殺した後……黒神を食べたと思ってるんだヨ!一応、彼も妖魔だからさ!」
自信に溢れた考察。
しかし……
「ま、待って雷……それは、違うんじゃ……」
雷の自信に満ち溢れた考えに、今度は参が口を挟んだ。
「えー?何が違うのさー」
「だ、だって……鬼の王って確か、人間を1人も食べたことがないらしいよ……それが本当なら、黒神を食べたって考えは、当てはまらない、気がする……」
そう、鬼の王の話で特に有名なのは……
妖魔でありながら、人間を食べたことがないという話。
人間たちにとって肉や魚、野菜など、食べ物が生きる上で大切なことと同じように、妖魔に欠かせないのは人間の肉だったりする。
彼ら妖魔にとっては、人間の肉ほど極上なものはない。
そんな人間の肉を、鬼の王は1度も口にしたことがなかったのだ。
「最初は、人間をたくさん食べたから、あんなに強いんだって思ってたんだけど……鬼の王は、人間を食べたことがないって……だから、黒神を倒したとしても、食べては無い、と思う……」
その話を知っているからこそ、参は雷の話を否定した。
しかし、またも雷は、驚くべきことを口にする。
「確かに''食べた''って聞いたら、ご飯とか食事のことを連想すると思うけど……何かを食べるって、他にも色んな意味で使えるじゃん。例えば……
呪いをかけた、とか……体を乗っ取った、とかね?」
「……えっ」
「あくまで僕の予想だから!でも、鬼の王は黒神を食べてるはずだよ?どうやって食べたかは知らないけど、黒神の1部は、絶対鬼の王の中にある。それか……
鬼の王の体の黒い模様を見る限り、食べられたのは……鬼の王の方だったりして!」
「………………………」
スラスラと出てくる雷の言葉。
今まで理解が追いつかず、且つ否定をしてきた参たちも、流石に何も言えなくなってしまった。
今まで出てきた考えも予想も、にわかには信じ難いものばかり。
だが深く考えてみれば、そもそも鬼の王の存在自体が謎が多い。
そんな男に、この世にある常識や普通を押し付けたところで、意味が無いのは分かっている。
だから、自分たちにとってはありえない事でも、もしかしたら有り得るかもしれない、を成し遂げられるのは……魁蓮だけだ。
「まあ何はともあれ、鬼の王は僕たちにとっては邪魔な存在なんだヨ!鬼の王の全てを暴きまくって、確実に殺そ!全ては主様のために!」
言葉に詰まっている周りを他所に、雷は元気よく手を挙げた。
続いて風も、彼に乗っかるように「おー!」と声を上げる。
「それじゃあ、僕たちはお暇させてもらうヨ!早く帰って、「壱」の様子を見なきゃいけないから!
風、参、戻ろ!」
「あ、そうだったね!早く戻らなきゃ!」
「そ、それじゃあ……伍、肆」
3人は手をヒラヒラさせて歩きだそうとすると、3人に向かって肆は目を細めた。
「……まだ駄目なんかよ、壱のやつ」
小さい声で尋ねる肆に、風が口を尖らせて振り返る。
「仕方ないでしょー?壱の元となってる体、未だに反抗してきて厄介なんだから!アタシたちも、来年の7月7日に間に合わせようと必死なんだからネ!ちょっとは褒めて!」
「うっせぇ。さっさと行け」
「もー!肆ったら、いっつも冷たいんだから!壱が起きたら、ボコボコにしてもらうよー!?」
「あいつはテメェの言う事なんざ聞かねぇだろ。一匹狼みたいな奴だからよ。ボコボコにしてぇんなら、テメェが来いや」
「ふんっ!いいもん!いつか殺してやるから!
それじゃあね!」
風は頬を膨らませながら、先に歩いていた雷たちの元へと駆け出した。
3人が居なくなったあと、肆はくるっと向きを変えて、再び魁蓮を遠くから見つめる。
伍も何も口にすることなく、同じように視線を戻した。
その時……
「なぁ、伍。
黒神の遺体を、一緒に探さねぇか」
「っ……」
ふと、肆がそんなことを言い出した。
あまりにも異常な提案に、伍は息が詰まる。
だが肆は、意外にも真面目な考えだったようで、睨みつけるように魁蓮を見つめていた。
そんな肆の姿に、伍はいつものように叱ることも出来ず、落ち着いて答える。
「黒神の遺体を探すのは、ほぼ不可能だと思いますよ」
「なんで」
「聞くところによると……
黒神の遺体と彼が使っていた黒い剣は、見つかっていないようですから」
「あ?見つかっていない?」
「はい。何も痕跡が残されていないとなると、本当に鬼の王が食べてしまったのかもしれませんね」
「……………………」
「どうしますか?話くらいは聞きますよ」
「……そうだな……
やっぱ、覡を捕まえた方が早ぇか」
「でしょうね。今、紅葉様が説得しているはずです。
あの子がこちらに来てくれれば、あるいは……」
伍は、それ以上は言葉にしなかった。
それでも、肆にはしっかり伝わっている。
彼女が何を言いかけたのか。
「楽しみだなぁ。鬼の王が死んじまう日が……」
雷の発言に、その場にいた全員が目を見開いておどろいている。
事実かどうかは置いておいて、このことに気づいているのは、どうやら雷だけのようだ。
隣にいた風も、このことには驚きだったようで、興味津々に雷の袖を引っ張る。
「え!え!え!ねぇねぇ雷!それほんと?それほんと!?アタシも変な気配は感じたけど、それが霊力って分からなかった!」
「フッフッフッ……そりゃあ、僕の力の元となっている人物が、とても強い男だからね!霊力とか、そういうものを人並み以上に認識出来るみたいだヨ」
雷は、自慢げに鼻の下を擦った。
自分だけがハッキリと認識できる、鬼の王の中に紛れ込んでいる異質の存在。
妖魔として生まれた者たちからすれば、ありえないものだが、雷が感じているものは、紛れもない霊力だ。
それも、かなり強力な。
雷が鼻を高くしていると、話を聞いていた風は、まるで嫉妬しているかのように頬を膨らませている。
「えぇ!ズルいー!アタシも中身は強いはずなのにー、雷だけ認識出来るなんて……。
アタシ、外側が女の子だから弱いのかなぁ……」
「そんなことないよ!風は僕と同じくらい強いよ?なんてったって、僕たちの元となっているのは、雷神と風神なんだから!
僕はちゃんと知ってる!風はできる子!」
「っ!雷~!だぁいすき~!」
「ハハッ!僕も大好きだヨ!」
2人は、仲良くギュッと抱きしめあった。
いつだってこの2人は、互いを支え合い、そして高め合ってきている。
どちらかが落ち込めば、どちらかが手を差し伸べる。
そうやって、生きてきた。
だが……
「お、おい!ちょっと待てや!」
「「???」」
キャッキャと騒ぐ2人に、肆は堪らず口を挟む。
2人が同時に首を傾げると、伍、肆、参は、まだ呆気に取られたままだった。
頭の整理が追いつかず、困惑した表情を浮かべている。
2人の視線が向けられると、肆は言葉を続けた。
「ど、どういう事だよ!鬼の王の妖力の中に、霊力が混ざってる!?んなの、有り得ねぇだろ!」
「え?どうして?」
「どうしても何も、まず不可能な話だろうが!妖力と霊力ってのは、相対するものだろ。それが混ざってるなんて……
鬼の王には、妖魔と仙人のどちらの力も備わってるってことになる。んなの馬鹿げてるだろうが!」
一般的に考えれば、肆の言い分の方が正しい。
全てを破壊し、人間たちを殺すための妖力。
その妖力を扱う妖魔を倒すための霊力。
本来、ぶつかり合う2つの不思議な力は、たとえどんな呪いを受けようと、共に存在することは不可能。
そんなの、体の中で殺し合いが起きているようなものなのだ。
当然、肆の考えには、ほかの2人も同意見。
しかし、雷は片眉を上げて、肆の言葉に疑問を抱いていた。
「それは常識内の話でしょ?そもそも、鬼の王が世間一般論とか、常識の中に収まる存在じゃないじゃん」
「いや、それはそうだけどよ……あの鬼の王といえど、霊力っつーもんには手を焼くはずだろ?だって、自分らを殺すための力を克服出来るわけがねぇ」
妖力と霊力は、相対するもの。
鬼の王といえど、完全に支配下に置くことなど出来ない。
それは誰でも分かる考えだった。
だから、肆たちは雷の話に納得が出来ない。
そう、これが普通の妖魔の話ならば……。
「いいや、もしかしたら可能な話かもヨ?
だって鬼の王と同様に、イカれた力を持った仙人が、1000年以上前にいたみたいだから」
「あ?」
雷の言葉に、肆は首を傾げる。
すると、今度は伍が口を開いた。
「史上最強の仙人……黒神のことですね」
「おっ!さっすが伍!物知りだ!
ねね、その人物の説明をしてよ!知ってること全部!」
雷がそう促すと、伍はコホンっとひとつ咳払いをして、語り出した。
「今から1000年以上前の時代。この国に、妖魔の天敵とされた仙人がいたそうです。本名は不明ですが、黒神という異名を持っていることだけは明らかになっています」
「黒神……?なんか気味わりぃ異名だな」
「えぇ。黒い衣を身にまとい、会う妖魔全てを葬り去ってきた無敗の少年だったとか……そのため、当時の妖魔の世界では、かなり恐れられていたみたいです。
ですがそんな無敗の仙人は、ある存在によって殺された。それが、鬼の王と言われています」
「最強の仙人を倒したってのか、鬼の王が」
「はい。分かっているのは、これくらいです」
名前だけならば、耳にしたことがある者はいる黒神。
だがその実態は、この国の歴史とともに謎に包まれていて、あまりにも情報が無いせいで、一時期は作り話の中で生まれた架空の人物だという噂もあった。
そしてその仙人を殺したという鬼の王も、彼に関することは何一つ公言していない。
故に、1度は耳にしたことがある話でも、その全てを信じる者はいなかった。
「本当に居たのかは、彼を倒した鬼の王本人に確認しない限りは分かりません。それでも、鬼の王の強さを見れば、その最強の仙人が倒されたということにも納得できるかと」
「なんかマジで、やべぇ奴を敵に回してる気がしてきたなぁ?」
肆は、異型妖魔と戦っている魁蓮を、横目でチラッと見る。
強者、なんて一言で表せない強さ。
それなりに肝が据わっていなければ、目の前にしただけで気絶しそうなぐらいには圧がある。
その時だった。
「僕ね、ずっと思ってたんだけど……。
鬼の王の中に紛れてる霊力って、その黒神のものだと思うんだ」
「「「「えっ……」」」」
ふと、雷がそう口にした。
またもいきなりの発言に、周りにいた皆は同じ反応をもう一度する。
すると雷は、腰に手を当てて、自信満々に口を開いた。
「僕の考えとしてはね!
鬼の王は、黒神を殺した後……黒神を食べたと思ってるんだヨ!一応、彼も妖魔だからさ!」
自信に溢れた考察。
しかし……
「ま、待って雷……それは、違うんじゃ……」
雷の自信に満ち溢れた考えに、今度は参が口を挟んだ。
「えー?何が違うのさー」
「だ、だって……鬼の王って確か、人間を1人も食べたことがないらしいよ……それが本当なら、黒神を食べたって考えは、当てはまらない、気がする……」
そう、鬼の王の話で特に有名なのは……
妖魔でありながら、人間を食べたことがないという話。
人間たちにとって肉や魚、野菜など、食べ物が生きる上で大切なことと同じように、妖魔に欠かせないのは人間の肉だったりする。
彼ら妖魔にとっては、人間の肉ほど極上なものはない。
そんな人間の肉を、鬼の王は1度も口にしたことがなかったのだ。
「最初は、人間をたくさん食べたから、あんなに強いんだって思ってたんだけど……鬼の王は、人間を食べたことがないって……だから、黒神を倒したとしても、食べては無い、と思う……」
その話を知っているからこそ、参は雷の話を否定した。
しかし、またも雷は、驚くべきことを口にする。
「確かに''食べた''って聞いたら、ご飯とか食事のことを連想すると思うけど……何かを食べるって、他にも色んな意味で使えるじゃん。例えば……
呪いをかけた、とか……体を乗っ取った、とかね?」
「……えっ」
「あくまで僕の予想だから!でも、鬼の王は黒神を食べてるはずだよ?どうやって食べたかは知らないけど、黒神の1部は、絶対鬼の王の中にある。それか……
鬼の王の体の黒い模様を見る限り、食べられたのは……鬼の王の方だったりして!」
「………………………」
スラスラと出てくる雷の言葉。
今まで理解が追いつかず、且つ否定をしてきた参たちも、流石に何も言えなくなってしまった。
今まで出てきた考えも予想も、にわかには信じ難いものばかり。
だが深く考えてみれば、そもそも鬼の王の存在自体が謎が多い。
そんな男に、この世にある常識や普通を押し付けたところで、意味が無いのは分かっている。
だから、自分たちにとってはありえない事でも、もしかしたら有り得るかもしれない、を成し遂げられるのは……魁蓮だけだ。
「まあ何はともあれ、鬼の王は僕たちにとっては邪魔な存在なんだヨ!鬼の王の全てを暴きまくって、確実に殺そ!全ては主様のために!」
言葉に詰まっている周りを他所に、雷は元気よく手を挙げた。
続いて風も、彼に乗っかるように「おー!」と声を上げる。
「それじゃあ、僕たちはお暇させてもらうヨ!早く帰って、「壱」の様子を見なきゃいけないから!
風、参、戻ろ!」
「あ、そうだったね!早く戻らなきゃ!」
「そ、それじゃあ……伍、肆」
3人は手をヒラヒラさせて歩きだそうとすると、3人に向かって肆は目を細めた。
「……まだ駄目なんかよ、壱のやつ」
小さい声で尋ねる肆に、風が口を尖らせて振り返る。
「仕方ないでしょー?壱の元となってる体、未だに反抗してきて厄介なんだから!アタシたちも、来年の7月7日に間に合わせようと必死なんだからネ!ちょっとは褒めて!」
「うっせぇ。さっさと行け」
「もー!肆ったら、いっつも冷たいんだから!壱が起きたら、ボコボコにしてもらうよー!?」
「あいつはテメェの言う事なんざ聞かねぇだろ。一匹狼みたいな奴だからよ。ボコボコにしてぇんなら、テメェが来いや」
「ふんっ!いいもん!いつか殺してやるから!
それじゃあね!」
風は頬を膨らませながら、先に歩いていた雷たちの元へと駆け出した。
3人が居なくなったあと、肆はくるっと向きを変えて、再び魁蓮を遠くから見つめる。
伍も何も口にすることなく、同じように視線を戻した。
その時……
「なぁ、伍。
黒神の遺体を、一緒に探さねぇか」
「っ……」
ふと、肆がそんなことを言い出した。
あまりにも異常な提案に、伍は息が詰まる。
だが肆は、意外にも真面目な考えだったようで、睨みつけるように魁蓮を見つめていた。
そんな肆の姿に、伍はいつものように叱ることも出来ず、落ち着いて答える。
「黒神の遺体を探すのは、ほぼ不可能だと思いますよ」
「なんで」
「聞くところによると……
黒神の遺体と彼が使っていた黒い剣は、見つかっていないようですから」
「あ?見つかっていない?」
「はい。何も痕跡が残されていないとなると、本当に鬼の王が食べてしまったのかもしれませんね」
「……………………」
「どうしますか?話くらいは聞きますよ」
「……そうだな……
やっぱ、覡を捕まえた方が早ぇか」
「でしょうね。今、紅葉様が説得しているはずです。
あの子がこちらに来てくれれば、あるいは……」
伍は、それ以上は言葉にしなかった。
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彼女が何を言いかけたのか。
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