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第一章 どうして魔族なんかに……
第三十四話 止めるのは
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魔族に関わるにあたって、最も注意しなければならないことは、当然、片翼に関するものだ。
魔族の国では、多くの片翼に関する法律がある。その中でも、片翼に危害を加えられた場合に関するものは、とても過激なことで有名だ。
即ち……。
「私の片翼に手を出したのです。覚悟はよろしいでしょうか?」
悪意を持って、片翼を害した者は滅するべし。
ちょうど、この状況にピタリと当てはまるわけだ。
「はっ……? 片翼……?」
「死んでください」
きっと、この男は私が人間だと思っていたのだろう。前世が人間である自分が、今世も人間になったのだから、私も同じだと。
「ひっ!」
物理的に潰そうと思って振り上げた拳は、さすがに大振り過ぎたのか避けられてしまう。
いや、この男は避けたつもりなどないのだろう。ただ、腰を抜かしただけのようだから。
「さようなら、もう二度と、生まれ変わらないでください」
そうして、今度こそ仕留めようと振り上げた拳は、後ろから伸びてきた手によって止められた。
「……オリアナ様、もう、大丈夫ですから」
その声は、とても愛しい声。先程まで出血していたはずのライトさん。治癒魔法によって傷は塞がったとはいえ、出てしまった血が戻ってきたわけではない。
起き上がることすら大変だったはずなのに、ライトさんは、私を止めてみせた。
「オリアナ様が手を汚す必要はありません。この男は、どうせ、もう終わりです」
振り向けば、ライトさんは優しく笑いかけてくれる。
「ライトさん、体は……」
「大丈夫です。少々貧血気味なだけで、何ともありませんよ。僕は、丈夫なのが取り柄ですしね」
そんな風にやり取りをしている間に、あの男は逃げ出したようだった。とはいえ、追跡しようと思えばいつでもできるように魔法をかけておいたので、いつでも殺すことは可能だ。
「いえ、ダメです。病院に行きましょう。そこでちゃんと診てもらってください」
今優先すべきは、あんな男のことではない。
「参りましたね。僕、病院とは相性が良くないんですよ」
「……病院嫌いなのは分かりました。ですが、今、それを私が受け入れると思っていますか?」
そう問いかけると、ライトさんは観念したようにガックリと肩を落とす。
「分かりました。では、ずっと僕の側に居てくださいね」
本音を言えば、ライトさんを病院に預ける間で、あの男を始末するつもりだった。しかし、こう縋られては、うなずくことしかできない。
それが、ライトさんの演技だったことを知るのは、もっと先のお話。そして、その演技の理由を知るのも、演技だったことを知るのと同時になる。
しかし、私はその後、あの男がどうなったかを聞くことは生涯なかった。ただ、私の人生で、あの男は二度と、目の前に現れることはなかった。
魔族の国では、多くの片翼に関する法律がある。その中でも、片翼に危害を加えられた場合に関するものは、とても過激なことで有名だ。
即ち……。
「私の片翼に手を出したのです。覚悟はよろしいでしょうか?」
悪意を持って、片翼を害した者は滅するべし。
ちょうど、この状況にピタリと当てはまるわけだ。
「はっ……? 片翼……?」
「死んでください」
きっと、この男は私が人間だと思っていたのだろう。前世が人間である自分が、今世も人間になったのだから、私も同じだと。
「ひっ!」
物理的に潰そうと思って振り上げた拳は、さすがに大振り過ぎたのか避けられてしまう。
いや、この男は避けたつもりなどないのだろう。ただ、腰を抜かしただけのようだから。
「さようなら、もう二度と、生まれ変わらないでください」
そうして、今度こそ仕留めようと振り上げた拳は、後ろから伸びてきた手によって止められた。
「……オリアナ様、もう、大丈夫ですから」
その声は、とても愛しい声。先程まで出血していたはずのライトさん。治癒魔法によって傷は塞がったとはいえ、出てしまった血が戻ってきたわけではない。
起き上がることすら大変だったはずなのに、ライトさんは、私を止めてみせた。
「オリアナ様が手を汚す必要はありません。この男は、どうせ、もう終わりです」
振り向けば、ライトさんは優しく笑いかけてくれる。
「ライトさん、体は……」
「大丈夫です。少々貧血気味なだけで、何ともありませんよ。僕は、丈夫なのが取り柄ですしね」
そんな風にやり取りをしている間に、あの男は逃げ出したようだった。とはいえ、追跡しようと思えばいつでもできるように魔法をかけておいたので、いつでも殺すことは可能だ。
「いえ、ダメです。病院に行きましょう。そこでちゃんと診てもらってください」
今優先すべきは、あんな男のことではない。
「参りましたね。僕、病院とは相性が良くないんですよ」
「……病院嫌いなのは分かりました。ですが、今、それを私が受け入れると思っていますか?」
そう問いかけると、ライトさんは観念したようにガックリと肩を落とす。
「分かりました。では、ずっと僕の側に居てくださいね」
本音を言えば、ライトさんを病院に預ける間で、あの男を始末するつもりだった。しかし、こう縋られては、うなずくことしかできない。
それが、ライトさんの演技だったことを知るのは、もっと先のお話。そして、その演技の理由を知るのも、演技だったことを知るのと同時になる。
しかし、私はその後、あの男がどうなったかを聞くことは生涯なかった。ただ、私の人生で、あの男は二度と、目の前に現れることはなかった。
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