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第一章 どうして魔族なんかに……

第三十五話 末路(ゲイン視点)

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『君のことを好きになったんだから、仕方ないだろう? 君だって、俺と結婚したいと思ってくれるくらい、離れがたいんだろう?』


 そう言った直後、理那は『最低ですね』と言って、止める俺を振り払って行ってしまった。


 そして……そして?


 それから、どうしても諦められなかった俺は、理那の家にまで行って……。


『あら、あなた。何でここに来たの?』


 手に包丁を持った、血濡れの妻を見つけた。何度も刺されたらしい理那の姿を見つけた。


『お、前……なに、を……』

『あなたが……あなたが悪いんです。こんな、女に引っかかるなんて。ねぇ? 帰りましょう? 私のお腹には、子供だって居るんですから』


 ゆらりと、近づく殺人鬼。それを前に、俺は完全に腰を抜かした。


『くっ、来るな!』


 そして、言葉を間違えた。


『……どうして? そんなに、この女が良かったの? ……許さない、許さない、ゆるさナい、ユルサナイ』


 何度も、何度も、振り上げては落とされる腕。
 激痛に叫んで、暴れて、殺人鬼をどうにか括り殺して……ただ、出血量が多かったのだろう。そのまま、俺は、死んだ。





 どうして、今になって、思い出す……。


 前世の記憶は、今思い出した内容の手前で止まっていた。きっと、防衛本能として、この恐ろしい記憶を忘れようとしたのだろう。


「さてと、ゲイン・ログデンだったか。お前には、器物破損に魔族の片翼を害した容疑、殺人未遂の容疑、人身売買の容疑がかかっている。なお、お前の国の王からは、お前も、お前の一族も我がヴァイラン魔国に処遇を任せると通達されている。よって、様々な罪に対する罰として、百年の医療奉仕とする」


 あの後、逃げた俺を待っていたのは、なぜか俺が主犯だと知っていた魔族達による報復だった。
 死の間際まで追い詰められては、治癒魔法によって回復させられる。その繰り返しを受け、何十回目かの気絶をしたところで、牢屋に入れられた。
 牢屋の中には、俺以外のログデン家の面々が続々と入れられて、現在、這いつくばった状態で、法廷での裁きを受けていた。


 医療、奉仕……? 何でも良い。終身刑みたいなものだろうしな。その内、どうにかこの国を出よう。


 この時の俺は知らなかった。
 いや、知識としては持っていたはずなんだ。ヴァイラン魔国は、医療か発達した国だと。そして、その医療に罪人が貢献しているのだと。
 具体的には、様々な不治の病に罪人を罹らせて、その治療を試すという実験。それが、ヴァイラン魔国で行われていたのだ。つまりは……。


「ぐぁぁぁあっ!!」

『被験体番号八三〇番。感染状態、良好です』


 俺は、永遠に様々な疫病にかかり続ける。そして、一応治療は試されるが、それで死なない保証など欠片もない。片翼を害した罪人に、人権などないのだから。

 そうして、俺は、いつしか狂い、数年後、様々な激痛に蝕まれながら、完全に死の世界に飲まれることとなった。
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