婚約破棄されまして(笑)

連載

新天地を！ 34

「アニス、私達も栗善哉食べて休みましょう」

「そうですね、では行きましょう」

前庭をグルリと見回す。
ユキとリコとヒナは一緒にいて、ホンワカした雰囲気であちこちをのんびりと散策してる。タマトラはさっきいた場所でイクラ丼を食べてる、時折「にゃーん！」と気勢なのか嬉しくてなのか分からないの鳴き声をあげて幸せそうに食べてる。ピカスラコンビはまだ青白く光って犬共に囲まれている。あのショーはまだ終わらないのか……堪らないわね。
既にテーブルを一つ囲んで枝豆とワインを楽しんでるエルフとワイン樽の前で気勢をあげてるドワーフ。いつもの風景になりかかってるけど、それで良いと思う。
急須にお湯を足して緑茶を飲んでるお父様とお兄様達と側近の三人。
平和な風景。いつも通りだけどいつも通りじゃない風景。
ルークだけが欠けた風景。いえ……違うわね。ルークとキースの欠けた風景。その事実が私の心を重くする。

「ルークがいたらもっと楽しかったんのに……」

小さく呟く。

「仕方ないです。でも帰って来たら夜会は大規模ですよ。初陣凱旋ですから」

アニスには聞こえたようでやっぱり小さな声で返された。
そうかルークは初陣で無事討伐すれば初陣凱旋になるのか。帰って来たらお祝いしなくちゃ……帰還すればルークは晴れて私のお婿さんとして実力を示した事になるんだもの。
カァッと頬が熱くなる。
後半年もしない内にルークと婚姻して夫婦になる。一緒に……朝から晩までずっと一緒にいれる？いや、それは無理でしょ。でも晩から朝までは一緒なのよ……その、一つのベッドで……

「きゃあ！私ったら！」

思わずしゃがみ込んで顔を両手で隠してしまう。私ったら何て恥ずかしい事を！いっ……今の私は侯爵令嬢なのよ！間違っても独身のお一人様（年の事は置いておいて！）じゃないのよ！でもでもだって！前世で未経験なまま清い乙女なボディでお亡くなりだったのよ！知識はあるけど！
わっ……私、本当に初めてなのよ……どうしよう、最初っから感じちゃってルークに色々言われちゃったりしたら立ち直れない……いや、でもだって……既にやらかしてる気もするけど……泣きたい。いえ、泣きそう。

「エリーゼ様！どうしたんですか！ご気分でも……ハッ！まさかイクラ丼……」

「違うから！違うから本当に！お願い、栗善哉貰ってきて……」

「……分かりました」

遠ざかる足音……ではなく気配。
恥ずかしさの余りしゃがみ込んなんて……うう……