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VIII 夢の中に生きる-IV

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「このドレスね、全部セディが選んだ物なのよ。確かに用意をしたのはあいつの言う通り私だけど、貴女に似合う服を熱心に選んでた」

 彼には聞かれたくない話なのだろうか。私にずいと顔を寄せて、声を潜めるマーシャからは何か強い感情が伝わってくる。

「貴女、どうやってセディを惚れさせたの?顔が良いから女は昔から良く寄ってくるんだけど、どうしてか全く興味を示さなくて……。何事も適当なセディが此処まで服に拘るなんてね。あんなセディ初めて――……」

 彼女の言葉が、最後まで告げられる前に意図せず止まる。その言葉を止めさせたのは、他でも無いセドリックだ。
 先程迄私達から離れた場所に座っていたセドリックが、いつの間にかマーシャの背後に立ち鬼の形相で彼女の首根っこを掴んでいた。

「……お前、何を余計な事言ってるんだ」

 彼の声に滲んだ、苛立ちとは違う明確な怒り。ピリ、と辺りの空気に緊張感が走る。

「えー、だって私もこの子と仲良くなりたい」

 だがマーシャは、彼の怒りも緊張感を孕んだ空気も然程気にしていない様子で、その口調は変わらずかろやかだ。

「うるさい。そもそも、長居していいなんて言ったつもりは無い。さっさと帰れ」

「分かった分かった、もう何も言わないから、セディ、離してよ~」

 彼の怒りは静まらず、マーシャの首根っこを掴んだまま玄関までずるずると引きずっていく。何が何でも彼女を追い出すつもりの様だ。
 抵抗はしない物の、不満そうに口を尖らせるマーシャは小さな子供の様で、思わずその姿に笑みを漏らす。
 だがそれと同時に、再びもやもやと黒い感情が湧き出すのを感じた。

 セドリックは、私に向ける物とは違う、もっと自然な表情をマーシャに見せている。彼は元々表情が乏しい人だという事は昨晩から察しはついていたが、マーシャを相手にするとそれも少し違う様だった。
 はっきりとした2人の関係性は、まだ分からない。恋人で無い事は明らかだが、友人なのか、仕事仲間なのか、さりげなくマーシャに問おうと思っていたが機会を逃してしまった。


「――俺が戻ってくる迄に、適当に着替えておけ」

 未だマーシャの首根っこを掴んだままのセドリックが、それだけを告げ乱暴に玄関扉を閉めた。
 再び訪れる沈黙。誰も居ない家の中。紙袋を胸に抱え、大きく溜息を吐く。

 彼のあの様子からするに暫くは戻ってこないだろうが、いつまでもこのままで居る訳にはいかない。それに、着替えの途中で彼と鉢合わせてしまったら最悪だ。
 早く、着替えてしまおう。紙袋の中から服を1着1着取り出し、ベッドの上に広げていく。
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