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XLI 天罰-II
彼女が普段よりもやや低い声で、ゆっくりと告げた言葉。
その言葉に、ぐらりと目の前が暗くなるのを感じた。
噂話と言っても、心の何処かで強盗や盗難、もしくは貴族絡みの話かと思っていた。だが、実際告げられたのは想像を絶する内容。
何故自殺したのか、夫は何をしていたのか、様々な疑問が浮かび、問い質したい衝動に駆られる。
だが彼女の事だ。問い質さなくとも、全て教えてくれるだろう。そう信じて、黙って彼女の言葉を待つ。
「その遺体は、早朝に帰宅した旦那が発見した様でね。聞くに、彼女が“妊娠をした”事をきっかけに口論に発展し、旦那が家を出て行ったらしい。旦那は家に帰らず数日間遊び歩いて、今朝漸く自宅へ戻ったら、妻であるその娘が首を吊っていた、と」
「――そんな……」
「その娘は、うちの店にもよく来る子でね。妊娠した事を嬉しそうに話してくれたのをよく覚えてるよ。だけど、旦那が妊娠を良く思わなかったんだろうね。残された遺書に色々と書かれていたそうだけど、旦那はその娘に、子供を拒絶する様な言葉を、多く浴びせたらしい。それで、娘は腹の中の子供ごと……」
――妊娠、口論、拒絶、自殺。
それ等が脳内をぐるぐると周り、まるで内側から何度も叩かれている様に鼓動が速くなる。
もしセドリックが、その娘の夫の様に妊娠を拒絶したら。もし、口論の末彼が家を出て行ってしまったら。
そんな事ばかりが頭に浮かんでしまって、耐え難い恐怖に襲われる。
「旦那が居なくたって、1人で育てる事も出来ただろうに。旦那をそれ程愛していたんだろうけど、何も自ら命を絶たなくったって……」
ぶつぶつと独り言の様に呟くライリーを尻目に、そっと自らの首筋に手を遣る。
亡くなったその娘は、首を吊ったと言っていた。彼女は、どんな思いで自身の首に縄を掛けたのだろうか。
きっと最期の瞬間まで、彼女は自身の夫と身籠った子の事を考えていた筈だ。
「――……」
ふと、過去に自身も死を選ぼうとした事を思い出した。あの時は地獄の中から抜け出したい一心であり、死こそが救済という思いであったが、彼女は苦慮の末に死を選んだのではないだろうか。
きっと、出来る事なら家族3人で幸せに暮らしたかったに違いない。だって彼女は、ライリーに妊娠した事を欣然として話したのだから。
――では、私は?
身籠った事が分かって、一度でも喜ばしく思っただろうか。セドリックは受け入れてくれないと身勝手にも決めつけ、宿った命を蔑ろにしてしまったのではないだろうか。
子の母親として、その娘の様に一度は喜ぶべきだった筈だ。一番にセドリックの事を考えてしまった事に、深い罪悪感を抱く。
だが、怖い。怖くて仕方が無い。
私がその娘と同じ結末を歩んでしまうのではないかと、怖気に襲われ行動に移す事が出来ない。
「エルちゃん、顔色が悪いね。大丈夫かい?」
ライリーの言葉に、ふと我に返る。
「――ええ、大丈夫……。ここ数日、体調を崩していて」
「そうかい、今日は早く帰って家で休みな。悪化したら大変だ」
彼女が商品台の向こう側から手を伸ばし、徐に私の頭をくしゃりと撫でた。その手の感触が何処かセドリックの手に似ている様に思えて、心を苛む怖気が僅かに和らいでいくのを感じる。
「ありがとう、ライリーさん」
その手が離れて行ってしまう事を名残惜しく感じながらも、なんとか無理に作った笑顔を彼女に向けた。
彼女も、何処かマーシャと似ていて勘が鋭い人だ。これ以上此処に居ては、私が今不安を抱えている事をライリーに気付かれてしまう気がした。
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