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外伝:朧初めての異世界 3

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 ブロロロ…パー___!!

 車が行き交う中、僕たちは三人で駅にいた。

 「~~線~~線…ご乗車ありがとうございます。…」

 キャップの帽子を被ってきょろきょろと辺りを物珍しそうに見ているのは朧だ。
 服装も僕のと父さんのを貸した。え?なんで父さんのが出てくるのかって?
 そんなの身長だよバカヤロー!

 いろんなことを聞いてくる朧に桜姉ちゃんが色々教えている。

 母は一緒に行きたいと言いながらも結局付いてこなかった。
 もしかしたら、ただ朧にこの世界を楽しんで欲しかった為に言い出した言葉なのかもしれない。
 梅姉さんも今回はついてこなかった。
 
 ――まぁ…最後まで一緒に行きたがってたんだけど、父さんがずっとまた号泣し始めたから見捨てられずに残っただけだったんだけど…。

 「なぁ、あれはどうやって動いてはるん?もしかして術式でも中に…。あぁ、でもあんなに大きなものを動かすには相当な術式が必要や…じゃあどうやって…。おぉ!凄いわぁ!なんやこの長おやつ、このバケモンみたいなのに乗るんか?なんなんやこれ?」

 「それはね、電車だよ。えーと…人を特定の場所に連れて行ってくれる乗り物なんだよ。すごく速いの!新幹線ってやつもあるけど、今回はそれには乗らないなぁ。この後は映画見ようね。」

 「映画って前話してくれはった、あの四角い箱の中の演劇やんな?楽しみやわぁ…。あぁ、でも金があらへん。どないしよ。」

 「ふふ、大丈夫!私が全部出すよ!今日は楽しもうね!姉さんには明日には帰れるって言っていたから。」

 
 あぁ~…ラブラブいちゃいちゃ…きっついわ~…。
 それ僕の桜姉ちゃんなんですけど。

 ま、本当に目がキラキラして楽しそうだからいっか。


 「あ、来たよ。乗ろう。」

 


 通勤ラッシュは過ぎているので人はまぁまぁといったところだが、人が多い。
 朧と桜姉ちゃんは良いことに席に座れた。僕は二人の前に立って二人を守る。
 まぁ、ドアのすぐ横で朧は不思議そうに周りを見ている。

 「なんか不思議な部屋やなぁ。」

 「人が今日多いね、具合大丈夫?気分平気?」

 「平気やで。ただ人がおしくらまんじゅう状態で…見ててこっちまで息苦しいわぁ。」

 そう見えるのか…じゃ、帰りはタクシーがいいかな。
 
 電車が出発するとグラッ!と揺れて動き出す。
 その動きが面白かったのか朧は終始笑顔だ。
 桜姉ちゃんが嬉しそうに朧の隣で手を握っている。

 桜姉ちゃんの隣の老婆が、「まぁまぁ…」とほほえましく見ている。
 御婆さん、奇遇だね、僕も同じ気持ちだよ。

 この後、映画見たら飯食べて、そのあと買い物少しして…夕飯食ってから帰ろう。

 袖を引っ張られたので前を見れば茶色のサングラスをしている朧が僕の袖を引いていた。

 「なぁ、ここに乗るまでに見たあのこの世界の車に乗せてくれへん?あ、あとあの向こうにある透明な硝子張りの建物にも行ってみたいねん…あかん?」

 キラキラしているその目がもう…ね。
 
 人間に変化してくれているらしいけれど、顔はそのままだ。
 この輝きが眩しい…!なんでもかなえたくなるやつじゃん!!
 顔がいいって得してるな、オイ!


 「モ…モチロンデス…。」

 「おおきに!」

 なんかこの人どこでもうまく生きていけそうだよ。
 絶対自分の顔面の使いどころ分かってやってるだろ、この腹黒が…。




 映画館に到着すると、すぐにチケットを購入した。
 ポップコーンとチュロスを買って、購入した座席に移動して座る。
 飲み物はやっぱりコーラ…。

 「口ん中、跳ねて痛い…。ん~…なんやこの味。」

 炭酸飲んでは口を離し、また口を付ける…さっきから何度もびっくりしている。

 「ダメそうだったら別のにする?緑茶もあるよ?別に、凪のオススメを全部真似しなくても…」

 「いや、でも癖になる痛さやで?」

 「そう?大丈夫ならいいんだけど。」

 「大丈夫だよ姉ちゃん。毒でもなんでもないんだから…それに。やっぱり映画にはコーラでしょ!ほい、チュロス!ポップコーン!」

 「ちゅ…?」


 渡したチュロスを見て、食べ物だとわかったらしい。
 甘いにおいをかいで、「なんぼなん?」と聞いている。
 値段を聞けば安い!と驚いていて面白い。

 なんか本当に異世界人って感じで面白いや。
 あ、異世界人だったわな。

 チュロスがお気に召したらしい。あれ、狐にチュロスっていいんだっけ?あ、口に出てたらしい…。

 「誰が獣じゃボケェ。」

 綺麗な顔に青筋立てて、眼をかっぴらいて…超どす黒い声が聞こえて来た。あ、なお朧は僕と姉ちゃんの間にいる。
 なお姉ちゃんはチュロスが気に入った朧の為にもう一つ購入しに席を外している。この顔見せてやりたいよ。
 狐につままれてはいないかい姉ちゃん。

 「スンマセン。」

 「気ぃ付けなはれや。」

 「ハイ。」

 すぐに笑顔に戻った朧を前に思う、優しそうな人を怒らせてはいけません。と。
 姉ちゃんが戻ってきて、朧にチュロスを渡している。
 間に合ってよかったー!っていう姿が…いや可愛いな!!?

 
 「あれ、どうしたの凪?汗酷いよ?」

 「ナンデモ、ナイヨー。」

 「そう?」

 「ちゅろす、おおきに。」

 朧がチュロスの別の味(チョコ味)をもらいながら、姉ちゃんに満面の笑みを見せた。姉ちゃんもうれしそうだ。
 いやいや、さっきの顔はどこ行ったんだよコノヤロー。
 姉ちゃんの前だと犬になるってどういうことなんだよ。顔がいいなコンチキショーが。

 あ、映画始まった。


 映画は今人気の恋愛映画だ。
 感動のシーンでは姉ちゃんがポロポロ泣いてて…朧も泣いてた。

 いや、お前も泣くのかよ。…普通に可愛いなオイ。
 
 
 


 お昼にイタリアンレストランに入って食事をすれば、ずっと「凄い」を連発。
 ちょっと食べ方に戸惑ってはいたけれど、姉ちゃんが隣で一生懸命教えたら、すぐに覚えた。
 冷たい冷スープに「不思議やなぁ」と言いながら完食。一番のお気に入りはジャガイモの冷スープだったらしい。
 姉ちゃんがあっちの世界にもジャガイモがあるから、頑張って作るよ!と言っていた。

 姉ちゃん、牛乳と胡椒が大変だと思うんだけど如何するんだろうか?
 まぁ、本人やる気だしいっか。玉ねぎは…あるのか。たぶん。あれ?狐に玉ねぎって…あ、また睨まれそうなので黙っておいた。


 買い物では姉ちゃんが奮発して高い腕時計を買ってあげていた。
 カチカチ動く時計が面白いらしく、ずっと見ている。
 
 「時計好きなの?もう一つ買う?」

 「これでええ。ありがとうさん。今日はすごい楽しい。」

 「ううん。全部朧の為だもの。いつものお礼だよ。何でも言ってね、全部叶えてあげる!」

 にこにこの姉ちゃん。今日は調子に乗っているらしい。可愛いな。

 「やめておいた方がいいと思うよ姉ちゃん。全部って言ったら朧調子乗るぜ。たぶん。」

 「あとで面かせや。」
 
 「スンマセン。」

 まだ腕時計の針を眺めては優しげに目を細めた。
 黄金の目がサングラスの下で柔らかく輝いているように見えて、やっぱり異世界人を感じた。
 だってこんなに綺麗な男がどこにいるんだよ。

 「えへへ、お気に入りになったようでよかった。」

 「うん、お気に入りや。」
 
 たぶん腕時計が好きなんじゃなくて、姉ちゃんから持ったものだから好きなんだと思うよ。なんて僕は優しくないので絶対に言わないけどな!へっ!


 

 夕飯は中華の料理店に入った。
 
 昼はイタリアンのレストランだったから、夕飯は中華で…ということらしい。
 桜姉ちゃんは今日はすごく財布の紐がゆるい。
 財布が緩んだのが朧でよかった。朧と出会っていない世界戦だったら、もしかしたらだけど…ホストに金を貢いでしまうタイプじゃないだろうか?
 桜姉ちゃん曰く、朧は自分を大切にしてくれている過保護な人で、自分のことを甘やかしてくれるんだ…と言っていたが、その台詞は姉ちゃんにもピッタリなのではないだろうか?
 
 「たはは…似た者同士だったわけね。」
 



 家に帰ると梅姉さんが立って待っていた。

 「さぁ、お帰りの時間よ!お土産はいいわね?」

 「ええ。お父さん、お母さん。ここまで育ててくださってありがとうございました。どうか…お元気で。」

 桜姉ちゃんが静かに二人に抱き着く。
 母さんも今だけは静かに泣いていた。
 父さんは言うまでもない。

 「体に気をつけて。食事はよく食べて…二人で幸せになるのよ?」

 「ぎお゛づげで…あ゛ぁぁ~…ざぐらぁ。じばあぜに゛な゛ぁ~!」

 「姉ちゃん、またな。お別れは嫌いだからさ。朧、絶対に幸せにしねぇと僕が頬叩いてやるからな!」

 涙ぐむ桜姉ちゃんはそれでもやっぱり朧の手を掴んだ。
 あぁ、そうだよな。もう決めちゃったんだもんな。

 ほんの少しだけ、ここで過ごせばいいのにって…なんてな。

 
 朧も少しだけ涙目だ。

 「あぁ、朧まで泣いたら僕まで泣いちまうから絶対に泣くなよ。笑顔で行きやがれ。」

 「あぁ。約束する、桜と二人で幸せになる。いつかまた会おな。」

 耳も尻尾も復活した朧は着てきた着物に身を包んでいる。
 桜姉ちゃんも着物を着て…。
 二人は梅姉ちゃんがチョークで書いた円の中にいる。

 優しく微笑んでいる梅姉ちゃんが再び鍋をぐるぐる混ぜている。
 そういえばどうしてこの世界で梅姉ちゃんが魔法?を使えるのか聞いている途中だったな。

 梅姉ちゃんが聞いたこともない呪文を口にした瞬間、黙々と煙が円の線から溢れ出し、二人を隠してしまう。

 「幸せに!幸せになるんだぞ!!」

 「…う…ありが…」

 遠くなっていく声が悲しくて、ついに僕まで涙があふれた。

 






 誰もいなくなった場所を見つめて…僕は涙をぬぐって梅姉ちゃんに聞いた。

 「ねぇ、どうして魔法?が使えるんだ?」

 「あぁ。それは私がね、魔女だからよ。」

 
 「ん?」


 何を言われたのか全然わからん。
 お母さんが嬉しそうに言った。

 「梅はね、パパの血を引いているのよ!パパは異世界から迷い込んだ魔法使いの人なの!」

 「んんん?」

 「だから、お父さんは魔法使いなのよ。で、私は魔女。魔法使いは弱すぎてこの地球では力が使えなくなるくらい弱体化しちゃうんだけど、魔女の私は女だから少し規制をかけられても、へっちゃらなのよ。すごいでしょ?この地球でも私は止められないのよ!」

 うちの家、知らない間に別の世界の血入ってるんじゃん?
 てかなにその魔女最強説。
 ていうか、なんで紛れ込んでんだよ、紛らわしいな父さん?!異世界人なのかよ、普通に日本人に見えるんだが?!まぁ、顔はまぁまぁいい方だけどさ?!!

 ん?いや待てよ?

 「でも梅姉ちゃん前世の記憶があるって…。」

 「そうよ?前世は桜と朧くんの子孫で、今世は地球の日本人の母と地球に迷い込んで帰るつもりが無くなった魔法使いのお父さんとの間の子供。
 あ、凪。あんたも魔法使いよ?ま、男の子だからちょっと地球の力で抑えられてるから魔法なんて使えないと思うけどね。」


 

  
 「なんなの、このボケ…。どうツッコミを入れたらいいんだ…。」

 胃が痛い…。ストレス性胃腸炎かもしれない…。
 胃薬は手放せないな。クソ…。 

 桜姉ちゃんが不思議な力を持ってたのって…この魔法使いの血なのか?
 神術って…いったい…。

 よし、何も考えるな。これで考えすぎると…頭までいたくなっちゃうからな。


 凪は全てをあきらめ、汚れた鍋(梅姉ちゃんが使っていた)を洗い始めた。


 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 とあるサイトではひっそりと今盛り上がっていた。

 1:名無し28/02/26(土) 09:30:28 
  やばくね?なんか妹がずっと隠れてやってたゲームのキャラクターに激似の人たち映画館で映画見てたんだけど。

 2:名無しの乙女28/02/26(土)09:30:40
  なんてゲームなの追記頼む。

 3:名無し28/02/26(土) 09:31:35
  妖恋物語~あなたとまた巡り合う~とかいうやつ。
  ここで出てくるサポートキャラで隠し攻略対象の朧ってやつにめっちゃ似てる。
  手か隣の子も主人公の桜華って子にめっちゃ似て好き。

 4:ゲームは二次元28/02/26(土) 09:32:11
  それさっき俺もみた。
  マジでかわいいし、隣の男顔がいい。どうなってんのよこの世界。

 ―――…………





 
 話題になっているのはその『妖恋物語~あなたとまた巡り合う~』というゲームのキャラクターの話であった。
 それがテレビで取り上げられるまであと少し…。

 凪は静かに今日も胃痛と共に生きているのだった。
 

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