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38 第一王子とアルバート
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朝から吐き気と頭痛が止まらない。
最悪な気分の中、あの馬鹿女のせいで俺の心は更に掻き乱されていた。
あの女のせいで上手く行かない。
そして、目の前にはその忌々しい女の兄貴が氷のような冷たい瞳で俺を見下ろしていた。
アルバート・ヨーク公爵令息。俺の婚約者候補のシャーロット・ヨークの兄だ。彼の身分から幼い頃より交流する機会が多く、今では友人として付き合っている。最近は会う度に妹との婚約話を白紙にしろと訴えられていて辟易していたところだ。
この体調の悪さもこの男が関係している。
俺は数ヶ月前に極秘で入手した毒草の分析と解毒剤の作成を彼に依頼した。が、まだ未知の部分が多く解析に時間が掛かりそうなので、完了するまで毒を口にして耐性を付けろと言われ、俺は毎日微量の毒草を経口摂取していた。
この毒はどうやら強力な作用があるらしく、いくら飲んでも副作用は嘲笑うように毎回俺を襲うのだった。だが少しは毒に抵抗力が付いたみたいで、今ではあの甘ったるい不愉快な匂いを嗅いでもいくらかは平静でいられるようになった。
「……なんだよ」
俺はベッドから起き上がらずにアルバートを横目で見た。
「……」
彼は黙って俺を見つめる。
「用がなければさっさと帰れ。俺は毒草の副作用で気分が悪いんだ」
俺は手を振って彼をあしらった。
「……」
彼は返事もせずにまだ黙りこくっていた。
「おい」と、俺はイライラして上半身を起こす。「なんなんだよ、さっきから」
「エドワード……」アルバートがやっと口を開いた。「あの毒草を利用して僕になにをするつもりだったんだ」
「は?」
「研究だけさせて成果だけ掻っ攫う? 君ならそんな甘いことはしないよな? じゃあ、そっちが毒草を押し付けたくせに僕が非合法の危険な研究をしていると告発する? それとも王族を毒殺しようと計略を巡らせたと訴えて逆に僕を処刑しようと? そしてヨーク家丸ごと没落させるのか?」と、彼は矢継ぎ早に俺に問うた。
「……」
俺は一瞬目を見張ったが、すぐに事情が飲み込めてため息をつく。頭痛が激しくなった。
「なんだ、妹から聞いたのか? あの女も意外にお喋りだな」
「シャーロットだ。いくら身分が上でも公爵令嬢に対して無礼だぞ」
「はいはい。シャーロット、な」
「シャーロット嬢、だろ。二人は婚約もしていない」
「はぁ……」俺はうんざりして大きくため息をつく。「で、そのシャーロット嬢から前の記憶の話を聞いたのか?」
「そうだ。僕は妹は嘘は言っていないと思っている。君がそう答えるのなら……どうやら確定のようだな」
「さぁな」
「君は今回も僕たちを処刑するつもりなのか?」
「どうだろうな」
「妹は君とは婚約したくないと言っている。もう解放してやってくれないか?」
「それは駄目だ」
「なぜだ」
「こっちにも事情がある」
「どのような」
「今は言えない」
しんと静まり返った。
「……僕は毒草の件からは手を引く」と、アルバートは怒りを抑えているような低い声で囁いた。
「そうか。今までご苦労だった」
「ヨーク家はヘンリー王子殿下との婚約を推す」
「……だろうな」
「話はそれだけだ。もうここに来ることもないだろう」
アルバートは踵を返した。
「それは残念だな。では最後に忠告しておこう。ヨーク家の命を今でも王弟派が狙っている。警戒を怠らないように」
「はっ……!」と、彼は振り返って軽蔑したような冷淡な目で俺を見た。
「妹を殺したのはお前だろ」
「くそっ……!」
俺はむかっ腹を立てて思いっ切りナイトテーブルを拳で叩き付けた。ガシャリと音を立てて花瓶が床に落ちる。鋭い音が頭をズキンと貫いた。
あの女のせいで上手く行かない。
どうせなにも出来ないのだから大人しくしていれば良いものの、ハリーも巻き込んで余計なことばかり起こしている。そのせいで俺は前回の人生の道の上をなぞられなくなっている。
吐き気と頭痛が止まらない。
最悪な気分の中、あの馬鹿女のせいで俺の心は更に掻き乱されていた。
あの女のせいで上手く行かない。
そして、目の前にはその忌々しい女の兄貴が氷のような冷たい瞳で俺を見下ろしていた。
アルバート・ヨーク公爵令息。俺の婚約者候補のシャーロット・ヨークの兄だ。彼の身分から幼い頃より交流する機会が多く、今では友人として付き合っている。最近は会う度に妹との婚約話を白紙にしろと訴えられていて辟易していたところだ。
この体調の悪さもこの男が関係している。
俺は数ヶ月前に極秘で入手した毒草の分析と解毒剤の作成を彼に依頼した。が、まだ未知の部分が多く解析に時間が掛かりそうなので、完了するまで毒を口にして耐性を付けろと言われ、俺は毎日微量の毒草を経口摂取していた。
この毒はどうやら強力な作用があるらしく、いくら飲んでも副作用は嘲笑うように毎回俺を襲うのだった。だが少しは毒に抵抗力が付いたみたいで、今ではあの甘ったるい不愉快な匂いを嗅いでもいくらかは平静でいられるようになった。
「……なんだよ」
俺はベッドから起き上がらずにアルバートを横目で見た。
「……」
彼は黙って俺を見つめる。
「用がなければさっさと帰れ。俺は毒草の副作用で気分が悪いんだ」
俺は手を振って彼をあしらった。
「……」
彼は返事もせずにまだ黙りこくっていた。
「おい」と、俺はイライラして上半身を起こす。「なんなんだよ、さっきから」
「エドワード……」アルバートがやっと口を開いた。「あの毒草を利用して僕になにをするつもりだったんだ」
「は?」
「研究だけさせて成果だけ掻っ攫う? 君ならそんな甘いことはしないよな? じゃあ、そっちが毒草を押し付けたくせに僕が非合法の危険な研究をしていると告発する? それとも王族を毒殺しようと計略を巡らせたと訴えて逆に僕を処刑しようと? そしてヨーク家丸ごと没落させるのか?」と、彼は矢継ぎ早に俺に問うた。
「……」
俺は一瞬目を見張ったが、すぐに事情が飲み込めてため息をつく。頭痛が激しくなった。
「なんだ、妹から聞いたのか? あの女も意外にお喋りだな」
「シャーロットだ。いくら身分が上でも公爵令嬢に対して無礼だぞ」
「はいはい。シャーロット、な」
「シャーロット嬢、だろ。二人は婚約もしていない」
「はぁ……」俺はうんざりして大きくため息をつく。「で、そのシャーロット嬢から前の記憶の話を聞いたのか?」
「そうだ。僕は妹は嘘は言っていないと思っている。君がそう答えるのなら……どうやら確定のようだな」
「さぁな」
「君は今回も僕たちを処刑するつもりなのか?」
「どうだろうな」
「妹は君とは婚約したくないと言っている。もう解放してやってくれないか?」
「それは駄目だ」
「なぜだ」
「こっちにも事情がある」
「どのような」
「今は言えない」
しんと静まり返った。
「……僕は毒草の件からは手を引く」と、アルバートは怒りを抑えているような低い声で囁いた。
「そうか。今までご苦労だった」
「ヨーク家はヘンリー王子殿下との婚約を推す」
「……だろうな」
「話はそれだけだ。もうここに来ることもないだろう」
アルバートは踵を返した。
「それは残念だな。では最後に忠告しておこう。ヨーク家の命を今でも王弟派が狙っている。警戒を怠らないように」
「はっ……!」と、彼は振り返って軽蔑したような冷淡な目で俺を見た。
「妹を殺したのはお前だろ」
「くそっ……!」
俺はむかっ腹を立てて思いっ切りナイトテーブルを拳で叩き付けた。ガシャリと音を立てて花瓶が床に落ちる。鋭い音が頭をズキンと貫いた。
あの女のせいで上手く行かない。
どうせなにも出来ないのだから大人しくしていれば良いものの、ハリーも巻き込んで余計なことばかり起こしている。そのせいで俺は前回の人生の道の上をなぞられなくなっている。
吐き気と頭痛が止まらない。
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