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炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜

第27話

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 レインはゆっくりと戦鎚を持ち上げる。

 骸骨の騎士王スケルトン・ロードはピクリとも動かない。盾は砕け、その盾を支えた左腕は潰れ、核がある胸のプレートは破壊されていた。

「……まだ終わってないな」

 確認しようとした所、骸骨の騎士王スケルトン・ロードは落ち上がり剣で斬り上げてきた。しかしレインには〈魔色視〉がある。それに〈傀儡〉もある。こいつが完全に死んだかどうかは察知できた。

 斬り上げてきた剣を回避して手首の部分を全力で蹴飛ばした。骸骨の騎士王スケルトン・ロードは右手ごと剣を手放す事になる。既に斬撃を浴びていて、尚且つ頭部を潰されている。頭の再生を優先したんだろう。

「抵抗するな。さっさと死んで楽になれ」

 レインは渾身の力を込めて戦鎚を振り下ろす。既に破壊されている盾では防ぐ事は出来ない。

 
◇◇◇

 アラムたちは魔法石を回収しながらダンジョン内部をゆっくり進んでいる。さすがBランクダンジョンだ。回収する魔法石のレベルが素人目にも高いことが分かる。しかも戦闘で魔法石が傷付く心配もないから綺麗な状態で回収出来ている。

 ダンジョン内に散らばる骸骨戦士スケルトンウォーリアーたちの亡骸からも魔法石を回収する。この辺は砕かれていて売る事すら出来ない物もあるが、壁から採取出来る魔法石は無傷だ。

「……やっぱり一撃でこいつらを倒してるって事だよな?」

 アラムは呟いた。1体がBランク以上の強さを持つこのモンスターたちを一撃でバラバラにしないとこうはならない。少しでも戦闘になれば壁に傷がつくはずだ。モンスターから取れる魔法石よりも壁から採取できる魔法石の方が高く売れるから有難いことこの上ない。

 しかし疑問だった。アラヤさんはAランクの中でも上位の覚醒者だって事は理解できる。
 でもあのレインさんは何なのだろう?神覚者である事は確定だが、Fランクが神覚者になった事例がない。……アラムが知る限りではないはずだ。


「でも凄いですね。神覚者ってみんなこうなんでしょうか?」


 メンバーの1人が疑問を放った。みんな思う事なのだろう。


「知らないよ。神覚者の情報はあまり公開されないからなぁ」


 別のメンバーもそう話す。当然だ。神覚者はその国の最高戦力に数えられる存在だ。Sランクが10人、Aランクが100人いたとしても神覚者1人の存在感には劣ってしまう。それだけ重要視される神覚者の情報はほとんど分からない。


 どの国に何人いるくらいしか分かっていない。どういった系統のスキルとか魔法があるとか職業スキルを持ってるなどは機密扱いで、他国からその情報を持ち帰ろうとしようものなら極刑だ。2度と祖国の地を踏む事は出来なくなる……と言われてる。


「どうやったらなれるんだろうな」


 アラムはそう呟いた。羨ましくないと言えば嘘になる。神覚者の出現条件は全く未知数だ。そもそもこの国には神覚者がいない。だから研究も出来ない。何か明確な条件でもあるなら教えてほしいくらいだ。


「でも2人が戦ってくれてるから安全に攻略できて良かったですね!俺たちはただこうしてるだけで報酬も貰えて……ウハウハってやつだな!」


 その言葉をアラムは疑った。同じパーティーメンバーで身内としても有り得ない。


「なんだ!その言い方は!!」


 アラムは声を荒げた。しかしその声に驚いたのはその発言をした本人だけだった。


「な、なんだよ……なんでそんな怒るんだよ」


「いや……今のはアンタが悪い。私たちは攻略を手伝っていただいてる立場なのよ?この報酬だって本来はレインさんたちに多く分けるべきなのに均等で良いって言ってもらってる。それをアンタは…殺されても文句は言えないよ!」

 
アラムも含めてみんなが頷く。


「なんだよ……みんなして……俺はそんなつもりじゃ」

 分かってる。こいつはを元々お調子者だ。魔法石の採掘ばかりで疲れてきたメンバーを励ます目的で言ったんだ。でも冗談にも言っていい事と悪い事がある。


「皆さんよろしいですか?」


 アラムのすぐ後ろから別の声が聞こえた。突如として聞こえた声に全員が驚愕する。


「ア、アラヤさん?!どうしてここに?!」


 全員が驚くのも無理はない。何故ここにアラヤさんがいるのんだ?レインさんを1人にしたのか?ここはAランクダンジョンだぞ?色々な疑問が頭の中を駆け巡る。


「まもなくこのダンジョンの攻略が完了します。私も手伝うので魔法石の採掘を急いで下さい」


「……は?」


 いくら神覚者とはいえ元はFランクだった人だ。そしてここはAランクダンジョン。そのボスはかなり強いはずだ。なのに1人で戦っているのか?


「いくらレインさんでもそれは無茶です!俺たちは役に立たないにしても援護くらいはしないと!」


「心配には及びません。ご……レインさんは優勢に戦っています。なので終わってから無駄にお待たせる事がないようにこちらを片付けようと思い来ました。この地点までの魔法石は全て回収していますか?」


「え、ええ……目ぼしいものは全て完璧な状態で採掘してます」


 その言葉を聞いてアヤラさんは微笑んだ。とても綺麗な人だから他のメンバーたちも女性も含めて魅了されている。でもアラムにとってアラヤさんは恐怖の対象でしかなかった。


「それは素晴らしいですね。ではこの調子で集めましょう。持ちきれない分があってもレインさんの収納スキルがあるので問題ありません」


「そ、そうで……」


 その時、ズドンッ――とダンジョン内が激しく揺れた。


「な、何だ?!」

 他のメンバーも慌てている。ダンジョン内部でここまでの振動は経験した事がない。

「決着がついたようですね。我々も急ぎましょう。折角のAランクダンジョンです。得られる物は最大限に得てこそ価値があります」


 その後もう1度大きな振動が起こり静かになった。そこからレインさんとボスの部屋で合流したのは1時間後だった。



◇◇◇



「ふぅ……これで死んだな」


 レインは骸骨の騎士王スケルトン・ロードの核を完全に破壊した事を確認して武器を片付ける。そのまますぐに〈傀儡〉を使用して配下にする。

――『傀儡の兵士 騎士王』を1体獲得しました――

「これは……結構強いな」

 レインの前で平伏しているのは全身鎧に身を包んだ漆黒の騎士だ。傀儡にした事で見た目は綺麗になっている。背中には大剣を持ち盾も左腕に装備している。魔力だけで見れば阿頼耶に匹敵するだろう。


 "まあ阿頼耶は知識もあって成長するから比べるのも失礼か"


 "いい感じに傀儡も増えてきたね"


「……そうだな。じゃあ魔法石回収して行くか。…あれ?阿頼耶は?」


 振り返ると誰もいなかった。Aランクのボスを圧倒する瞬間を見てて欲しかった自分もいた。阿頼耶のリアクションを期待して振り返ったら誰もいなかった。別に……別に気にするわけじゃないけど……結構寂しい気持ちになった。


「探しに行くか」


 勝てたのに落ち込む結果となったダンジョン攻略は無事に完了した。

 その後1時間後にみんなと合流を果たした。Bランクダンジョンが事故によりAランクダンジョンとなったが、それに相応しいだけの魔法石を獲得できた。報酬が今から楽しみだ。


 
 

 
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