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炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜

第30話

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 ニーナはレインにスキルを聞いた。スキルとは覚醒者の切り札的存在だ。自分がどのような職業クラスを修めているかを知らしめる事は大抵の人がやるが扱えるスキルの話はそんなにしない。

 スキルは公の場で使い、周囲に知られる事で有名になっていく。覚醒者が他の覚醒者にスキルを聞くのは貴方の手の内を教えて下さいと言っているようなもの。

 覚醒者間では聞いていけない暗黙の了解となっていた。
 Sランク覚醒者であるニーナがそれを知らない訳がない。スキルなしだったレインですら知っている事だ。


「……えー」


 レインは困惑する。そもそもスキルを持っていなかったし、レイン自身は神覚者と名乗っていいのだろうかと今更疑問に思った。

 神覚者に会ったことがないからレインにとってのアルティのように別の存在が手助けしているのか、ただ本当にもう一回覚醒したのかが分からない。


 というかスキルも複数あるからどれを教えるべきだろうか。流石に全てを洗いざらい教えるのは違う。


「分かっています。スキルの事を聞くべきではないと。……しかし」


「いや別に教えるのはいいんですよ?ただ今のところ俺が神覚者だって公表するメリットが全くないんです。
 拒否権……というものがあるのは分かりましたが魅力的とは思えませんでした」


「そ、そうですか。……レインさんは何を求めるのですか?多くの覚醒者たちが求めているのは力や富や名声です。私もこの国をより良くする為に力を求め続けて来ました。
 既に力を得ているレインさんがその事を公表すればありとあらゆるものが手に入るのに……勿体ないと思います」


 ありとあらゆるものが手に入る……か。今レインが求める物は一つだけだ。


「俺が求める物は1つだけです」


「そ、それを教えていただけませんか?私はこれでもSランク覚醒者であり国内最大のギルドのサブマスターをしています。  
 他国への派遣実績もありますし、国営図書館の秘蔵書エリアにも出入りが可能なので大抵の知識はあります」


「……俺が求めるのは神話級のポーションです。それが手に入るのなら何でもする覚悟です」


 ポーションを求めているというレインの答えにニーナは表情を崩さない。意外な答えなのではないかと思ったがそうではないようだ。

 
「誰か……大切な人が病気なのですか?」

 やはりその答えに辿り着いた。神話級ポーションを求める理由は一つだけだ。

「そうです。俺はその人を救う為なら何だってするつもりです。ニーナさんは神話級のポーションが手に入る方法を知っていますか?」


 聞いてみたは良いものの知っているはずがないとレインは思った。レインがどれだけ調べてもその存在の手がかりすらなかった。
 いくらSランクとはいえ知っているとは思えないし、知っていたとしてもすぐに教えてくれるだろうか。



「神話級ポーションですね。知っていますよ。私にスキルを教えて、神覚者である事を公表していただけるなら手に入れる方法をお教えします」
 

「本当ですか?!」


 レインは声を荒げた。求めていた物は予想以上に近くにあった。


「ほ、本当です。でも私が教えるのはその情報だけです。それに簡単な事ではありませんし、お手伝いも出来ません」


 その言い方が少し気になった。


「手に入れる為には犯罪でもしないといけないとか……ですか?」


「いえ!そういう訳じゃないですよ!……誠意を見せる為に先にお教えしますね。
 神話級ポーションはこの国の北側……小国1つを挟んだ場所に位置する8大国の1つ……治癒の国『ハイレン』で定期的に生産されています。数は1年に数本単位です。
 しかしそのほとんどをその国の王へ献上する事が定められているのです。なのでその国のSランクや神覚者であっても手に入れる事は容易ではありません」
 

「では……どうすれば……」


「大丈夫です。治癒の国『ハイレン』ではある問題を抱えているのです。
 それは治癒や回復系統の魔法やスキルに適性を持つ者が多く集まっている反面、戦闘職を修める者が枯渇しているのです。これにより国内のダンジョン攻略問題に発展しています。
 その対策として数年前から実施されているのが、『決闘』というものです」 

 
「……決闘」

 もちろんレインが初めて聞く単語だった。

「はい。優秀な戦闘職を探したり経験を積ませたりする名目で開始された『決闘』の優勝商品が神話級ポーションなんです。
 しかし手に入れる為には生涯も数多くあります。神話級ポーションを求める為に世界中からSランク覚醒者が集っていて競争率が尋常ではない事になっています。
 Sランク同士や神覚者同士の全力の戦闘を見られるのは世界中を探してもそこだけです。
 その決闘を見る為に世界中の貴族や王族も集まります。裏では賭け事も行われていて物凄い経済効果を産んでいる……なんて言われていますね」


 その障害というのは、とにかく競争率が高いってことか。


「それは他国の人間も普通に参加できるんですか?それにもし大怪我したり死人を出したりしたらすごい問題になるんじゃ」


「それに関しては問題ないようです。常にSランクの治癒魔法使いが待機しているとの事ですし、その国にいる『治癒の神覚者』が死人が出るのを防いでいるようです」
 

「治癒の神覚者ですか?」


「はい。私も参加した事がないので詳細は不明です。あくまで噂程度ですが、その者が使うスキルが治癒を超越したものらしいのです。何でも対象の状態を最大で数分前に戻す事が出来る……との事です」


「それは……つまり?」


 そんな事があり得るのかとレインは自問した。他国にはそんなレベルのスキルを持つ者が沢山いるのか。


「そうです。これは死者ですら蘇らせる事が出来るスキルという事になります。おそらく連続で使えないとか寿命で死んだ者や一欠片も残されていない対象には使えないなどの制約はあるでしょう。
 しかし決闘場という限られた空間であり、数多くの治癒魔法使いが待機している中では最も有効的に使えるスキルではありますね」

 「そうですか。なら心配する事なく全力を出せるって事なんですね」

「そういう事です。そして『決闘』の時期は毎年同じです。あと……60日後くらいでしょうか」

 
 意外と近かった。これは意地でも行かないといけない。


「どうやったら参加出来るか分かりますか?」


「もちろんです。……その前にレインさんのスキルを見せていただけませんか?どういった物かではなく実演してほしいのです」
 

 実演か。少し困る。ここは他にも人がいる。さっきの一件でかなり減ってはいるが手の指では数えられない程度の人数はいる。


「すいません。ここではちょっと。2人になれるところはありますか?」


「それほどのスキルなのですね。分かりました。少しお待ちください」


 ニーナは席を立ち受付へ歩いて行った。レインを見下していた受付嬢と何かを話している。

 受付嬢の表情は驚いたり困ったりとコロコロ変わっている。何を言われてるんだろうか?


 数分後に戻ってきた。


「お待たせ致しました。ここの訓練場を一室借りました。監視の目もなく全力の攻撃にも耐えられるだけの強度がある部屋です。行きましょう」


「分かりました」


 ここまで来ると拒否権はない。スキルを話すことをアルティや阿頼耶は何も言わない。という事は大丈夫ってことかな。




 
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