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第4章 忍びよる闇の策略と失われし久遠の刻編

1.自分を知る為に②

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*バルド視点



ラシルフでの話。


「そもそも、アヤの情報をどこで?」
「城仕えしてる者からだな。その者も、その情報をよそから手に入れたらしいが」

ラシルフ皇太子、カーティス=ユファサ。
ソファに対面で座り、俺はその男と話していた。
ラシルフのお家騒動に、アヤが利用された。普通に考えればただそれだけの事だが、もちろん、そんな単純な話では終わらんだろう。
アヤは一般市民であってそうではない。一応、クレイドルの城預かりの人間。一国の城預かりの人間の情報が、他国に簡単に漏れる事自体がまず普通にありえない。

「杜撰と捉えるべきか、あからさまな挑発ととるか…」
「目的は何だと思う?」
「クレイドルとラシルフの決別…だろうな。それに…」

俺の答えに、カーティスも頷く。

「どこだと思う?」
「炎のサラタータは内乱で王権は破綻している。それどころじゃねぇだろ。光は国自体ない…となると、何年も沈黙を保ったままの土のモノリスか……」
「闇……」
「微妙なとこだな。闇は光と同じく、女神戦争以来姿なき者となってる。どちらにしろ、詳しい話を聞く必要がある。その城仕えの奴は今、どこに?」
「……行方知れずだ」
「いない?どういう事だ?」

俺の問いに、カーティスは苦虫を噛み潰したような表情で、肘をつきこめかみを軽く揉む。

「詳細不明としか言えん。こちらも話を聞こうと探した時には、すでに忽然と消えていた」
「逃げたか、消されたか…か?」
「あぁ…ただ、同じ城仕えの者が、その者から一点だけ聞いた話があるみたいでな。情報をもたらした者、黒いフードとローブを纏った男…とだけ言っていたそうだ」
「黒フードの男……」
「きな臭い話だ…我が国とクレイドルを仲違いさせてその次は…おそらく、アヤが目的か。それにしても、何がしたいのかが分からんがな」

確かに。何がしたいのか分からない。仲違いさせる為だけなら、アヤを使わずとも方法はいくらでもある。
アヤを手に入れるのが目的なら回りくどい。
どちらにしろ、アヤの身辺は今まで以上に強固に守る必要がありそうだ。
話は終わった。ラシルフ側へ、今回の拉致騒動に対しての賠償も交渉済み。公にはせず、秘密裏に済ます。
あとは………

「カーティス」
「何だ?グレインバルド」
「歯ぁ、食い縛れ!!」
「!!!……ぐっ!!!」

俺が言い放つと同時にカーティスが身構え、俺の拳がカーティスの右頬にめり込む。
ソファの端に倒れこむカーティス。

「つっ、あ……ハァ…った、く、手加減なしか?手厳しい事、だな」
「当たり前だろ!手加減なんざするか。向けられたのが、剣でなかっただけありがたいと思え」
「ふっ…まぁ、確かに。だが、二度とないとも約束できんな。なにせ、シーファは魅力的だ。可愛いし、あの素直で混じり気のない気質は否が応でも惹かれるし抗えん。どっちにしろ、光である以上、引き寄せられるのは俺とお前以外にもいるだろう。今も、これからも…な」
「カーティス…貴様」
「事実だ。受け止めろ、グレインバルド。シーファを、アヤを守れ。悪用しようという輩はいくらでもいる。奪われれば、いなくなれば、世界は終わるぞ?勿論、お前も」
「お前に言われなくても分かっているし、そのつもりだ!二度目はないぞ?カーティス」




「………ド?…ルド!バルド!!」
「?!」

ぼんやりしている間に、微睡んでいたようだ。目の前には愛しい存在。
クリームホワイトのリボンタイシャツに、同系色の細身のパンツに身を包んだアヤが、呆れたように俺を見ていた。

「戻って来いって言うから戻ってきたのに、待ってても来ないし。部屋に来てみれば返事はないし。覗いてみれば寝てるって……バルド?どう…あっ!?」

気がついたら無言で手首を掴んで引き寄せ、俺はかき抱くようにアヤを抱きしめていた。
香料はつけてないのに、アヤからはいつも花と水を彷彿とさせる澄んだ香りがする。
それを吸い込むように益々抱く腕に力を入れる。
アヤは腕の中だ。なのに、ざわざわモヤモヤとした不安が消えない。
何なんだ?一体、俺は何を恐れてる?
細い体を抱き込む感触は今まさに現実。なのに、腕から消えてなくなる姿が脳裏からなくならない。
奪われれば、いなくなれば、世界は終わる…俺も終わる。
カーティスの言った言葉が頭にこびり付いて離れない。

「バルド…痛い。腕、緩めて…息、できない」

泣きそうなか細い声が耳に届き、ハッと、慌てて腕を緩める。
らしくない。何やってんだ、俺は。

「バルド、何かあった?」
「何も……何でもない」

漠然とした不安を半ば強引に振り切る。アヤまで不安にさせたいわけじゃない。
ラシルフでのやりとりを思い出し、一時的に気持ちがかられただけだ。

「何でもないって………」
「それより、行くぞ」
「え?行くって、どこに?」

手を取り、ソファから立ち上がるのを促してやりながら、俺が言うと、アヤは戸惑いながらもついて来る。

「兄上の、国王陛下の元へお伺いする」

目を見開き驚愕に狼狽えるアヤを連れて、俺は私室をあとにした。






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