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縁
#6
しおりを挟む「え……?」
聞き慣れない。でも懐かしい響き。
上手く反応できないまま、彼の後頭部を見た。
彼……いや、この子は。
「え……っと……」
先ず、運命の人が分からない不安は理解できる。だからか無意識に彼の柔らかい髪を撫でていた。
人生分からないことだらけだ。きっと恋愛以上に苦戦することが待ち受けてる。
だから焦らなくていい。
いつもなら出てこない言葉が、酔いのせいかすらすら口から出てきた。こんな風に自分の意見を説くのは初めてかもしれない。
彼があまりに従順に、真剣な表情で聴くから。昔を思い出して、隅っこで手を繋いだ。
俺の言うことを真に受けてはいけないし、頼ってはいけない。
アドバイスじゃなく注意ばかりになったけど、青年は最後まで頷いていた。
酔いも吐き気もおさまった頃には営業時間も終わりに近付き、客は自分達を邪魔そうにしながら階段を上っていった。
音が消えた空間で、今度は眠気に襲われる。
「久宜さん、寝ないでください」
「駄目だ、……タクシー……」
「呼びますから。とりあえず店の外まで歩いてくれないと、……そろそろキスしますよ」
「はは……」
すごい冗談言うようになったな。逆に感心する。
俺はそうなっても全然嫌じゃない。
いやいや、目を覚ませ。これ以上歳下に迷惑かけたら駄目だろ。
床に手をついて立ち上がろうとしたその時、彼の影が落ちてきた。
「ん……」
目の前は真っ暗だ。唇に柔らかいものが当たってるけど、これはまさか。
「ちょ……何でっ」
肩を押して見ると、彼はマスクを外していた。想像どおり……想像以上の美形だったけど、そんなことはどうでもいい。
「おまっ……運命の人見つける前に俺にキスしてどうすんだ!」
「いいんだ。もうとっくに見つけてるし」
彼は瞳を揺らしながら微笑む。
「僕はずっと捜してた。会ったこともない人じゃなくて、久宜さん、貴方を。ずっと……!」
宥めるつもりが強い語調で言い返され、怯んでしまう。
「人違いだろ。俺は君のことは」
知らないと言おうとして、息を飲む。そういえば糸が見えないのはこれで“二回目”。
この青年と、……かつて一緒に遊んでいた男の子だけだ。
「あ……」
その瞬間焼けるように胸が熱くなった。逆流する記憶に対応しきれず、口元を手で覆う。
目の前にいる青年を、俺は知ってる。ずっと捜していた───あの小さな男の子。
「僕のこと、全然覚えてないみたいですね」
「いや……っ! 覚えてる。あの子だろ。小学生の時、隣の家だった」
何を必死になってるのか、自分の声は掠れていた。
「君こそ、よく俺が分かったな」
「名前は覚えてたから。でも名前と、漠然とした引越し先以外分からなかった。だからインチキじゃない、人の縁が見える人を捜してたんです。申し訳ないけど再会できたのは偶然とか、運命なんかじゃないです」
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