王妃の鑑

ごろごろみかん。

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時廻り(2)

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意識が浮上する。
その瞬間、思わず飛び起きた。自分の体を見回し、“自分が生きてる”ことに絶望した。死に損なったとなれば、ますます死への執着が強くなる。どうして死ねていない!?なぜ死ねない!?
それだけが頭を駆け巡り、なにか死ぬことができるものが無いか当たりを回した。だけどない、ない、何も無い!
革張りの座面、窓の端にあるカーテン。それしかない。そして目の前に座る人物を見て、私は絶望した。

「お嬢様?いきなり起きられてどうなさいましたか?」

ーーーこの世界は、私が思っているよりもずっと地獄で、そして絶望しかない。

私の知っている彼女ーーーリリアベルは私の知っている彼女よりも幼い顔立ちをしていた。そして気づく。ここは馬車の中だ。そして、私は馬車に乗っている。

「…………リリア、ベル………?」

「どうなさいましたか?今から殿下に会われるというのに、そんなお顔をされていては心配されますよ」

「殿、下…………?会、う………?」

「ちょっと、本当にどうしたんですか、お嬢様」

その時、衝撃が。言いようのない痺れが背筋を駆け巡った。悪寒がして、体がこわばる。リリアベルは私のことを“お嬢様”と呼んだ。“妃殿下”、ではなく。
そして何より………

ーーー殿下、とリリアベルはいった。

殿下と言われて心当たりがある人は一人だけだ。でも、なぜ?だって彼は国王陛下になったのでは………。
その時、馬車が背の高い建物の近くを通った。自然と馬車内が暗くなる。そのせいで鮮明に自分の顔がガラスの窓に写った。
ひゅっと息を飲んだ。悲鳴をあげそうになったが、すんでで飲み込む。
ガラス窓に写った私は、知っている顔よりもずっと幼かった。

ーーーまた、戻った、の

信じられない思いで心の中で呟いた。目の前がぐらぐらと揺れる。暗闇がはじけ、思考が泥にまみれた。

「今日は殿下との初の顔合わせなんですから。お嬢様のとびっきりの笑顔を見せれば、きっと殿下もお嬢様をすきになられますよ」

どこかで聞き覚えのある言葉。
そう、そうだ。リリアベルは確か、私と殿下が初めて顔を合わせた時。顔合わせに向かう馬車の中で緊張する私に確かにそう言ったのだ。
既視感が込み上げてきて、思わず吐きそうになってしまう。咄嗟に手で口元を覆う。意味もなく涙が込み上げてきた。頭痛がする。逃げたい。逃げたい。死んでも死んでも現実に戻される。いや、ここは現実なの?それともまぼろし?死後の世界?
ならなぜ、死んだあともなお私を苦しめようとするの…………?
涙がボロボロと零れてきて、リリアベルが驚いた声を出した。同時に向かいに座っていたリリアベルが腰を上げて私の隣に座る。

「お嬢様!?どうなさったんですか!?お顔の色も真っ青………!ちょっと、馬車を止めて!お嬢様の具合が悪いみたい」

子窓を開けてリリアベルが御者に叫ぶように言う。それを聞いた御者が慌てたような、それでいて困った声を出した。

「え、ええっ!?でも公爵には急いでいけと言われてしまったしなぁ………」

「お嬢様の具合とどちらが大事なの!」

リリアベルが声をはりあげた。私はリリアベルの手をそっと取って首を振る。御者はきっと、殿下に不快な思いをさせないように最速で城に迎えと支持を受けているのだろう。公爵家にとっては私の体調より早く城につく方が余程大事だ。
私が首を振ると、リリアベルが困惑した声を出した。

「ですが、お嬢様………」

リリアベルの久しぶりに聞く“お嬢様”という呼び名にまたしても涙が零れた。

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