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第二章・監国の王女

124.事件発生?!4

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 シャンパージュ伯爵家、そしてディオ達に連続殺人事件の概要を話し、伯爵夫人とクラリスがそれぞれ狙われる危険性があると話した所……伯爵とバドールがそれに憤慨した。
 二人共愛する人が殺されるかもしれないなんて聞いたのだから、当然の反応だった。
 いつ殺人鬼が来るかも分からないからとにかく警戒を、と言おうとしたのだが…いかんせん相手は相当な手練だ。どれ程警戒すればいいかも分からない。
 しかし、どうしても伯爵夫人とクラリスが心配だと言うお二人の為に私は決断した。

「では伯爵夫人はこちらの部屋を、クラリスは向かいの部屋を使ってくださいな」
「慈悲深き王女殿下に感謝致します…わたくし共の為にこのようなお部屋を……」
「い、いいのかしら……わた、私がこんな、凄い部屋をつつっ使って…」

 軽く部屋の案内をすると伯爵夫人とクラリスは恐縮していた。
 私の決断…それは二人を暫く皇宮で匿う事。勿論ケイリオルさんにも許可は取ってある。この街で一番安全な場所は間違いなく皇宮だ。だから皇宮で二人を匿うという私の判断には、伯爵もバドールも納得し、任せてくれた。
 ちなみに。伯爵夫人の世話の為に侍女一人とメイシアがお供して来た。
 クラリスの方は、礼儀作法に自信が無い。とかで皆で相談した結果代表してイリオーデが護衛として皇宮まで来る事になったようだ。
 ただ一つ疑問だったのが、クラリスを迎えに行った時イリオーデの髪色が青から赤に変わっていた事だった。赤髪が狙われる事件と話したのに何故あえてその色に?! と本人に問うと。

『もしもの時、この色であれば囮などになれるかと思い』

 などと言ったのだ。バドールやメアリードからもクラリスの事を強く頼まれているらしいので、彼なりに責任重大なんだろう……と私は自分を納得させた。
 そして伯爵夫人とクラリスを東宮まで連れて来て、二人の部屋を用意して東宮の案内をしているのだが……なんというか、イリオーデの様子が変なのだ。
 妙にぼーっとしてるというか、ずっと悲しそうな顔をしている。
 度々立ち止まってはじっとどこかを見つめていたりもするし………本当にどうしたんだろう。そんなに壁の装飾とかが気になるのかしら。
 後でちょっと本人に聞いてみよーっと。

「あの、アミレス様。あちらの部屋は何の部屋なのですか?」
「あぁあそこはね──」

 メイシアがこうしてよく話を振ってくれるから、話題にも困らず楽しく東宮を案内する事が出来る。伯爵夫人もクラリスもそれなりに楽しんでくれてるみたいだし…徐々に緊張も解れてきたみたい。
 しかしずっと気になってたんだけど、何でクラリスもイリオーデも団服で来たのかしら。楽な格好でおいでって言ったのになぁ。


♢♢


「……イリオーデ卿、もしや此処に来た事があるのでは?」
「…あぁ。王女殿下がお生まれになる前から……王女殿下が二歳になられる少し前まで、ずっと…私は此処にいた」

 アミレスが前方でシャンパージュ伯爵夫人とメイシアとクラリスに東宮の案内をする中、勝手知ったる二人はそれに着いて行きこそすれど、案内の邪魔にならぬよう後方を歩いていた。
 そこでハイラがイリオーデに話しかけたのだ。二人共、当然のようにアミレスから決して目を離す事無く会話を続ける。

「やはり。どうにも懐かしむ様子でしたから………それにしても二歳になられる前の姫様ですか。私は四歳になられた姫様からしか知りませんので羨ましいです」
「それはこちらの台詞だ。四歳からこれまでの八年間を知るのだろう、ララル──ハイラは。私はそちらの方が羨ましく感じる」
「配慮下さりありがとうございます。お互い様ですね、これでは」

 二人は親しげに話していた。一見してアミレスに忠誠を誓う者以外の共通点など無く、普段から関わり合いの無さそうな二人ではあるが──その実、どちらも帝国が四大侯爵家出身と言う秘密を抱える存在。
 帝国の財を担うララルス家の庶子ハイラ(本名マリエル・シュー・ララルス)と、帝国の剣を担うランディングランジュ家を追い出されたイリオーデ・ドロシー・ランディングランジュ。
 この二人は、ホリミエラ・シャンパージュ伯爵を交え三人でとてつもない計画を成し遂げようとしている最中であった。
 赤髪連続殺人事件なんて物騒な事件が起きていようが関係ない。この三名は敬愛せしアミレスの為に帝都に混乱を齎しかねない事をやってのけようとしている。
 ……のだが、まさかまさかの事態。その赤髪連続殺人事件にシャンパージュ伯爵夫人とイリオーデの家族でもあるクラリスが巻き込まれる可能性があると判明した。
 その上アミレスがこれを解決してみせると息巻いているのだ。彼女の性格上、また絶対に無茶をする…と彼等三人は確信していた。
 それ故、例の爵位簒奪計画は一時中断。この事件が解決してから再開しようと話し合ったらしい。

(ああ、やはり彼は──)
(…彼女はどう考えても──)

 爵位簒奪計画を切っ掛けに関わるようになった二人ではあるが、ここまでの何度かの対面と会話で、お互いの事をよく理解したようだ。

(同類ですね…)
(同類だな)

 その通りである。どちらも分かりやすくアミレス至上主義の忠誠激重人間である。どうやら本人達にもその自覚があるらしい。
 この場合において救いとなったのが──この二人が同担拒否では無く他担拒否のタイプであるという事だろうか。もし二人共が同担拒否であればこの場で血で血を洗う戦いが起きていた事だろう。

「………そうだな。時にハイラ、八年分の王女殿下の話をする気はないだろうか」
「おや、奇遇ですねイリオーデ卿。姫様がお生まれになられた時より乳幼児として過ごされた数年の話、それとオセロマイトに行かれていた際の話…是非私も聞きたいですわ」

 他担拒否過激派の二人は同担と上手くやるつもりのようだ。お互いに知り得ないものを相手に共有しようと言う心意気がある。
 それもその筈。この二人の行動理念として、『姫様・王女殿下の素晴らしさを広めたい』というものがある。故にアミレスの話を拒む事は無く、求められればすぐに応じるつもりでいるのだ。
 その代わり、ハイラとイリオーデは他担──この場合で言えば皇太子派閥と皇帝派閥だろうか。それらにはかなり厳しい。
 もしバッタリ出くわしてしまった日にはその場で悪態をつく恐れすらある。それ程にこの二人にとってアミレスが大きな存在であり、絶対的存在である事が分かるだろう。

「それでね、向こうの部屋は衣装しちゅっ…………ごめんなさい今の聞かなかった事にして…っ」
(はわわわわわ、アミレス様が! お噛みに! 可愛い……!!)
(噛んだ…王女様も噛む事があるのね…ふっ、なんかちょっと親近感湧いてきた…ってこれ失礼かしら。イリオーデに聞かれたら殴られそうね……)
「はい、かしこまりましたわ王女殿下」

 前方にて。アミレスが案内の最中に少し噛んでしまった。
 それにアミレスは恥ずかしさから明後日の方に目を逸らし、メイシアはきゅんきゅん胸を高鳴らせ、クラリスはちゃんと人間らしいアミレスに親近感を覚え、伯爵夫人はうふふ、と優しい微笑みをたたえていた。
 そして後方にて。勿論あの二人がアミレスの言葉を一言一句聞き逃す筈も無く。

(王女殿下が……お噛みあそばされた……?! ああなんと愛らしいお言葉! 言葉を誤ってもそれ程までに愛らしいなど無敵にも程があります王女殿下…っ!!)
(姫様が噛んでしまうのはこれで通算二百四十七回目でしょうか…まだまだ数え漏れがあるかもしれませんが、私が把握している所ではこれぐらいでしょう)

 恥ずかしさから耳まで赤くして若干俯くアミレスを、遠目で見るこの二人はその表情を変える事無くポーカーフェイスを貫き通していた。
 しかしその脳内はこれである。二人共立派な変人と言えよう。

「…聞きましたか、今の」
「勿論聞いたとも。あまりの愛らしさに耳と目が重症だ」
「ふっ………そのようでは昔の姫様の話をした日には膝から下の骨が砕け散ってしまいそうですね、卿」
「王女殿下のお話であればその可能性も十分にあるな…」

 やはり決してアミレスから目を離す事無く大真面目に二人は話す。そう、本人達は至って真面目なのである。
 大真面目にアミレスが好きすぎるあまり、不意打ちの可愛さ等を見せられては大真面目に大ダメージを受けるのだ。何とも生き辛い生態をしている。
 
「ちなみに、姫様の八年間の軌跡を辿るとなると相当な時間となります故………今後の作戦会議の際にプレゼン資料をお持ちしますね。何回かに渡りお話させていただきますがよろしくて?」
「あぁ。王女殿下の話であれば何時間かけてでも聞きたい」
「それもそうでしたわ。ではそのように致します」

 コツコツと規則正しい足音を鳴らしてアミレスと一定の距離を保ちつつ歩き、徹頭徹尾アミレスから目を離さない二人。しかしどこか浮かれたように話し合う。
 何故なら、お互いにまだ知らないアミレスを知れる事になったのだから。
 アミレスの話を始めてしまえば作戦会議など進まないも当然なのに、ハイラとイリオーデは作戦会議の場で互いのアミレスとの思い出を共有する事とした。
 これに巻き込まれるシャンパージュ伯爵が憐れなり…と思うかもしれないが、それはお門違いというもの。何せ彼もまたアミレスに心酔しているのだから。
 シャンパージュ伯爵も嬉々としてハイラやイリオーデの語るアミレスの話に耳を傾ける事だろう。そしてその集まりの事をポロッとメイシアの前で零してしまい、『何その集まり! わたしも参加したい!』と羨望の眼差しを受ける事だろう。
 爵位簒奪計画などという凄まじい計画を立てる会の筈なのに、ただアミレスのファンが集まり語り合うだけの会合になる可能性が高い事に……本人達はまだ気づいていない。


♢♢


 夜、伯爵夫人とメイシアとクラリスとイリオーデを交え、とても賑やかな夕食の時間を過ごした。
 いつもはシュヴァルツとナトラと近頃はマクベスタとも一緒に夕食を食べていたので、常に賑やかではあったのだが。
 マクベスタは元々の親善交流の期間を終えてから、『オセロマイトにとってのフォーロイトへの最大の忠誠』と言う謎の名目で貴賓では無くなったものの変わらず王城敷地内に滞在し続けていた。
 その為、親善の大使としての役目も無くなり、前よりもっと頻繁に東宮に遊びに来てくれるようになったのだ。それはもう、毎日遊びに来てくれる。
 そしてだいたいいつも一緒に特訓していた……のだが、今はこの通り私が仕事漬けなのでそうはいかなくなったのだ。

「…ん? カイルからの手紙じゃない。私の所に直接届くなんて珍しいわね……」

 部屋で仕事をしていると私の机の近くに突然小さな魔法陣が現れ、そこから落下するように手紙が出て来た。
 いつも東宮の廊下にいつの間にか落ちていて、誰かがそれを見つけては訝しげに私の所に持って来る………なんて流れだったから、こうして実際に届く所を目の当たりにするのは初めてなのだ。
 本当にどういう仕組みでこんな事を可能にしているのか疑問で仕方ない。希少属性や一部の亜種属性を除きほぼ全属性の魔法を扱えるチートオブチートの肩書きは伊達じゃないわね。

「ふむふむ………もうすぐこっちに来る目処が立ちそうなのね。それは楽しみ…って駄目じゃない! 今来たらカイルも犯人の格好の的よ?! 急いで絶対来るなって返事しないと…!!」

 手紙を読みながら私はハッと恐ろしい事に気づく。
 カイルもまた燃え盛る炎のような濃い朱色の髪を持つ男。赤髪連続殺人事件なんてものが巻き起こるこの国に来させる訳にはいかない。
 例えあの男がいかなチート野郎であろうとも、万が一の可能性がある以上危険を犯させる訳にはいかないのだ。
 もし万が一、本編前にカイルが死ぬなんて事があれば──この世界は確実に滅びる。
 二作目のほぼ全ルートで発生する大いなる厄災の討伐イベント……あれには神々の愛し子たるミシェルちゃんとチートオブチートのカイルの力が不可欠だからだ。

「赤髪連続殺人事件が起きてるからお前だけは絶対に来るなよ………! っと。いやほんとに…私の所為でカイルが死んで世界滅ぶとかマジでシャレにならないもの」

 慌てて返事を殴り書き、私はそれをすぐさま転送した。
 そして机に手をついて深くため息をつく。何故かこの一瞬でどっと心労が増えた気がする。急に世界の命運を握らされた気分だからかしら……。
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