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連載
カティの帰還
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その日からのユリ公爵邸は灯が消えたように暗くなった。
カティが来る前の日常に戻っただけだが、皆カティの可愛らしさ、明るさに癒され、助けられていたのだと改めて思う。
表情筋の役割を思い出していたエドヴァルドもまた元の表情筋紛失男に戻っていた。無表情で、粛々と執務をこなし、王宮でも宰相として辣腕を振るった。
王宮で働く官吏たちは以前のような恐ろしく冷たい空気を醸し出す宰相に恐れを抱き、国王に泣きつくものもいた。
事情を知っている国王は「耐えてくれ。」としか言えず、皆を絶望に叩き落した。
一番の被害者マティアスは、胃に穴が開き、薬の世話になっていた。
一カ月後、公爵邸にカティとエンヤが戻ってきた。
エドヴァルドは、カティを抱き上げた。
「よくがんばったな。」
「とう様。」
カティはエドヴァルドにきゅっとしがみつくと泣きながら
「お師匠様はとう様より鬼畜で・・・・あ!とう様に会いたかったですっ。」
と、言い換えた。
エドヴァルドは怒りもせずに、カティの頬にキスした。
(お、お変わりないご様子でっ!)
カティは久しぶりの攻撃に撃沈した。
レオが、侍女が、料理人が、メイドが・・・使用人皆がカティの帰還を大歓迎した。冷え切っていた屋敷が、息を吹き返したように明るさを取り戻した。
即座に簡単なパーティが開催された。
しばらく人里離れた恐ろしい場所にいたカティは、大喜びで美味しい料理とお菓子をエドヴァルドに食べさせてもらった。
そしてすぐにエドヴァルドの腕の中ですやすやと眠り込んだ。
エドヴァルドは皆にパーティの続きをしていてよいと告げると、エンヤを執務室に招いた。
「わし、もう少しパーティを楽しみたいのぉ。」
「後で心行くまでお楽しみいただくつもりだ。まずは話をお聞きしたい。」
「せっかちじゃのぅ。」
エンヤは片手に酒とつまみをもって執務室に入った。
「嬢ちゃんは頑張った。持てる力全部発揮できるようになったぞ。おそらく、もうお主でも儂でも嬢ちゃんには勝てん。嬢ちゃんは不思議な世界の住人だったんじゃな。」
「聞きましたか。」
「違う理の世界で生きていた嬢ちゃんはわしらとは違う魔法が使えた。じゃからわしらの力を上回る。」
「だが肝心の時に力が出せなければ同じだ。その点は?」
「・・・嬢ちゃんの生い立ちも影響しておった。」
「生い立ち?」
「うむ。嬢ちゃんは前世で父に捨てられたそうじゃな。今世では母に殺され、何度も命を狙われて・・・自分は必要とされていないと思うておった。そんな自分が人の命を奪ってまでも生き残ることにためらいがあるのかもしれんな。自己肯定感が低すぎて自分の身を守るために力がうまく出せないようじゃった。」
エドヴァルドはカティの心情を想い、顔をしかめた。
「代わりに大切なもののためなら、力を出せる。ま、追い詰められて感情が爆発せんと駄目じゃったが。」
「それは乗り越えられたのか?」
「わしを誰だと思っておる。もう解決済みじゃい。わしの命を懸けて乗り越えさせたわい。」
「老師・・・心より感謝する。褒賞は望みのままだ。何でも言ってくれ。」
「ほうほう、うれしいのう。ゆっくり考えて頼むとしよう。
エンヤはニヤリと笑った。
そしてその日の晩、これまで断固として以前プレゼントされたおそろいの寝間着を拒否していたエドヴァルドだったが、初めてカティの贈り物を身につけた。
カティは可愛い猫耳の付いたフードのついた着ぐるみのような寝間着。大人用は通常の寝間着の縫製だが、柄が全身肉球スタンプ。しかしエドヴァルドが着ると品が出るのが不思議である。
そんなエドヴァルドがカティを抱いた姿に心の中でレオがもだえていたことは内緒である。
カティが来る前の日常に戻っただけだが、皆カティの可愛らしさ、明るさに癒され、助けられていたのだと改めて思う。
表情筋の役割を思い出していたエドヴァルドもまた元の表情筋紛失男に戻っていた。無表情で、粛々と執務をこなし、王宮でも宰相として辣腕を振るった。
王宮で働く官吏たちは以前のような恐ろしく冷たい空気を醸し出す宰相に恐れを抱き、国王に泣きつくものもいた。
事情を知っている国王は「耐えてくれ。」としか言えず、皆を絶望に叩き落した。
一番の被害者マティアスは、胃に穴が開き、薬の世話になっていた。
一カ月後、公爵邸にカティとエンヤが戻ってきた。
エドヴァルドは、カティを抱き上げた。
「よくがんばったな。」
「とう様。」
カティはエドヴァルドにきゅっとしがみつくと泣きながら
「お師匠様はとう様より鬼畜で・・・・あ!とう様に会いたかったですっ。」
と、言い換えた。
エドヴァルドは怒りもせずに、カティの頬にキスした。
(お、お変わりないご様子でっ!)
カティは久しぶりの攻撃に撃沈した。
レオが、侍女が、料理人が、メイドが・・・使用人皆がカティの帰還を大歓迎した。冷え切っていた屋敷が、息を吹き返したように明るさを取り戻した。
即座に簡単なパーティが開催された。
しばらく人里離れた恐ろしい場所にいたカティは、大喜びで美味しい料理とお菓子をエドヴァルドに食べさせてもらった。
そしてすぐにエドヴァルドの腕の中ですやすやと眠り込んだ。
エドヴァルドは皆にパーティの続きをしていてよいと告げると、エンヤを執務室に招いた。
「わし、もう少しパーティを楽しみたいのぉ。」
「後で心行くまでお楽しみいただくつもりだ。まずは話をお聞きしたい。」
「せっかちじゃのぅ。」
エンヤは片手に酒とつまみをもって執務室に入った。
「嬢ちゃんは頑張った。持てる力全部発揮できるようになったぞ。おそらく、もうお主でも儂でも嬢ちゃんには勝てん。嬢ちゃんは不思議な世界の住人だったんじゃな。」
「聞きましたか。」
「違う理の世界で生きていた嬢ちゃんはわしらとは違う魔法が使えた。じゃからわしらの力を上回る。」
「だが肝心の時に力が出せなければ同じだ。その点は?」
「・・・嬢ちゃんの生い立ちも影響しておった。」
「生い立ち?」
「うむ。嬢ちゃんは前世で父に捨てられたそうじゃな。今世では母に殺され、何度も命を狙われて・・・自分は必要とされていないと思うておった。そんな自分が人の命を奪ってまでも生き残ることにためらいがあるのかもしれんな。自己肯定感が低すぎて自分の身を守るために力がうまく出せないようじゃった。」
エドヴァルドはカティの心情を想い、顔をしかめた。
「代わりに大切なもののためなら、力を出せる。ま、追い詰められて感情が爆発せんと駄目じゃったが。」
「それは乗り越えられたのか?」
「わしを誰だと思っておる。もう解決済みじゃい。わしの命を懸けて乗り越えさせたわい。」
「老師・・・心より感謝する。褒賞は望みのままだ。何でも言ってくれ。」
「ほうほう、うれしいのう。ゆっくり考えて頼むとしよう。
エンヤはニヤリと笑った。
そしてその日の晩、これまで断固として以前プレゼントされたおそろいの寝間着を拒否していたエドヴァルドだったが、初めてカティの贈り物を身につけた。
カティは可愛い猫耳の付いたフードのついた着ぐるみのような寝間着。大人用は通常の寝間着の縫製だが、柄が全身肉球スタンプ。しかしエドヴァルドが着ると品が出るのが不思議である。
そんなエドヴァルドがカティを抱いた姿に心の中でレオがもだえていたことは内緒である。
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