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別れ

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 国王は二カ月前から、全く連絡のつかないエドヴァルドの身を案じていた。
 しかし大々的に兵を派遣すれば宣戦布告になってしまう。
 
 国王は数名を派遣し、エドヴァルドの所在のみ調査させることにした。それ以上はもっと慎重に事を進めなければならない。

 国王が調査を命じて一か月、国王に報告されたのはエドヴァルドの行方不明だった。
 同行していたメンバーは皆、衰弱していたがバートランド国にある火山付近の森に隠れながらエドヴァルドを探しているところを発見した。
 皆、疲れ果て、また追手から逃れながらのためローベンス国に連絡を取れないでいた。先に報告に走らせたはずの者もローベンス国にたどり着いていなかった。
 国王が派遣した数名を残し、一度エンヤやレオは一度強制帰国させられた。

 沈痛な面持ちで、国王の前に跪いた。
「エドヴァルド様は・・・火山湖に・・・魔獣とともに沈み行方不明となりました。我らは探し続けましたが叶わず。申し訳ありません!!」
「まさか!あのエドヴァルドだぞ!」
 
 エドヴァルドたちは宿泊していた宿を襲撃された。
 それはあっさり撃退し、尋問すると、バートランド国の事を探る怪しい人物に事情を聴こうとしただけだという。
 しかし最初から殺すつもりで攻撃してきており、彼らの警戒ぶりがはっきり分かった。  
 捕らえた男は、暗殺者を送り込んでも誰も帰国しないので、苛立ったトルスティ代理国王はとうとう魔獣をローベンスに放ちカティを消すという荒っぽい方法を企んでいると白状した。
 エドヴァルドは伝令を使うことで相手に存在を気取られるのを危惧し国王に手紙を届けるよう部下に命じた。そして自分は魔獣がいるという火山へと向かった。

 そこにいたのは相手の魔力を吸い取り、一切攻撃魔法が効かない魔獣。エドヴァルドやエンヤ、そしてほかの魔術師たちがいくら攻撃しても魔力を奪い取られるだけで相手には全くダメージを与えられない。
 エドヴァルドは、魔法で魔獣の足元を崩すよう指示し、レオが止めるのを振り切って自分は剣を構え魔獣に近づいた。
 ここで逃せばバートランド国が体制を整えて本格的にカティを狙い、国ごと蹂躙されてしまうかもしれない。いくらカティが最強の魔法使いだとしても魔力を奪うこれには勝てないのだ。まだ相手に気取られていない今、ここで仕留めるしかない。一旦引いて応援を待つ時間はおそらくない。

 足場が崩れ、バランスを崩した魔獣に切りかかったエドヴァルドは魔獣の鋭い牙に足を傷つけられる。それでもそのチャンスを逃さず、剣でその喉元を切り裂いた。しかし魔獣はその牙でエドヴァルドの身体を引っかけると崩落した岩や土砂と一緒に火山湖に沈んでいった。
 その瞬間、湖から真っ白い光が放射状に広がり、収束していった。
 山が崩れた衝撃で山津波がおこりレオやエンヤは流されてしまい、身を立て直して捜索に出たときにはエドヴァルドの姿はどこにもなかった。

 王宮に招聘されたカティは久しぶりに会うレオやエンヤが神妙な顔をして跪いているのを見て嫌な予感がした。
 王と王妃もいつになく沈痛な面持ちでカティの前に座っている。カティは公爵家執事とともに呼び出されていた。
「・・・カティちゃんは聡い、幼いながらも理解できる・・・出来てしまうな?」
 国王の抑揚のない声に、聴きたくない!と思った。

 この場に鬼畜がいないのだ。そんな馬鹿な話があるものか。
 尊大で最強でやさしくて頼りがいのある男に万が一のあるはずがない。
 震え始めるカティをミンミが抱きしめる。そのミンミの身体でさえ少し震え、 執事も顔を真っ青にしている。
「エドヴァルドは行方不明だ。」
 身体の中で何かがぱちんとはじける。一瞬にして部屋の空気が変わる。
 跪いていたエンヤが皆に部屋から出るように急ぎ指示した。
「陛下は私が守る!早く皆出て行け!」
 陛下が頷くのを見ると護衛や執事、ミンミも含めドアの外へ出された。
 部屋に残るのは陛下とエンヤ、レオそしてカティだけ。
 エンヤはレオと陛下に防御壁をはる。

 うつろな目をしたカティは陛下を見ている。
「・・・とう様・・・どうしたの?」
「エドヴァルドは我が国を襲撃せんとする魔獣をしとめてくれたのだ。しかしともに・・・姿を消した。」
 国王が説明し、レオが平伏した。
「申し訳ありません!エドヴァルド様は魔法が通じない魔獣に対して剣で向かわれ見事打ち取ったのですが・・・・引きずられ火山湖の中に沈まれました!手を尽くしてお探ししましたが・・・・」
 部屋の中の調度品がカタカタと鳴り始める。
「嬢ちゃん!おちつけ!」
 カティの耳には何も届かない。
 カティを中心に衝撃波が発生し、調度品は粉々になり窓ガラスは内から外に向かって砕け散った。

 静寂を取り戻し、エンヤに守られた国王とレオが見たものは静かに涙を流すカティの姿だった。
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