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31話

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王への謁見をするために、準正装へと着替える。
正装は一人で身に付けるには少しだけ難易度が高い。
時間も惜しいため、失礼に当たらない程度の制服へと身を包んだ。
耳のピアスはそのままに、無意識にブローチはポケットにしまう。
編み上げの長靴ブーツを苛々としながら締め上げてから部屋を出た。
王宮へ足を踏み入れると、静かに案内人が付く。
何度も行き来した事がある場所だが規則上仕方ない。
早くなってしまう歩みを、案内人のゆっくりした動きに何度か合わせ直しながら漸く王の居る間へとたどり着いた。
「騎士団長ニクス様、ご帰還」
入口の兵がそう告げると、入れと声があった。
扉が開き中で待っていたのは王と王妃、そしてラーサティアの兄である王子。
「スタンピードの終息を確認いたしましたので、騎士たちよりも一足先に帰還いたしました」
膝を突き頭を下げる。
「ご苦労」
「特に大きな事故も無く……詳しい内容は後日、書面にて報告致します」
「そうか……本当に大きな事故は無かったのだな?」
王がなにかを確かめるように言葉を紡いだ。
「ラーサティアは、部屋で眠っている……逢ってくれるか」
「はい」
王のいきなりの問い掛けに頷くと、王の隣に立つ王妃が顔を両手で覆い肩を震わせる。
「ニクス団長、案内をしよう着いてきなさい」
そう言うのは王子で、俺は頷くと王と王妃に頭を下げる。
嫌な予感が拭えない。
「御前を失礼いたします」
それだけ何とか言葉にすると、立ち止まっていた王子の隣に立ち、少しだけ早足のままラーサティアの部屋に向かったのだった。
王宮のどの辺りにその部屋があるのかは、王族を守護する騎士団としては知っていなければならないのたが、その部屋の中まではどうなっているかは把握していなかった。
騎士団長であるため、警護にあまり立つことはなくラーサティアも王族ではなく騎士として過ごすことが多かったからだ。
「この中にラーサティアはいる。2日前に倒れてから目を覚ます気配はなく、何もしていないのに全身打撲と凍傷との診断を受けた……このまま目覚めない可能性もあると医師は言う……ニクス……」
王子の顔が兄の顔になり、ラーサティアを頼むと頭を下げた。
2日前の全身打撲と凍傷。
まさかと、俺は何も考えられなくなる。
王子が居ることも忘れて重厚な扉を力で開け、部屋の中に入ると、窓際に大きな寝台があり、其処へラーサティアが横になっていた。
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