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32話

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「ラーサティ……」
血の気の引いた顔。
最後まで俺は名前を呼ぶことが出来ず、慌てて寝台まで駆け寄った。
背後では静かに扉が閉まったが、そんなことなど気にしてはいられない。
どうして?
そればかりが頭の中を回る。
「サティ!サティ!!」
名前を呼ぶが、それに反応はない。
寝台脇に跪き、その手を取る。
冷たいがそれでも少しだけ体温を感じた。
「どうして」
ラーサティアからの答えは無い。
後悔が沸き上がる。
いや、討伐に出たことは後悔はしていない。
ラーサティアを城に残したこと。
連れて行ってくれと懇願された時に。
「ラーサティア……眼を開けてくれ……声を聞かせてくれ……」
寝台脇に跪き、握った手を額に押し当てる。
戻ってきたら、役を退きゆっくりするつもりだった。
その隣にラーサティアがいてくれたら嬉しいと1人思った時もある。
だが、ラーサティアがいなくなるなどと思ったことは無かった。
離れていたとしても、一方的に思いを寄せていられればいいと。
花を吐くようになっていたが、それも運命だと……想う相手と繋がることが出来れば完治すると、1冊の医学書にそう書いてあったが、ラーサティアと心は繋がったが身体を繋げる前に戦場へと出たのだ。
「ラーサティア……お前を失ったら、俺はどうしたらいい?自分が死ぬことは怖くないのに、お前を失うことがこんなにも恐ろしいんだ……」
ゆっくりゆっくり言葉を紡ぐ。
人間の感覚は聴覚が最後まで残っていると聞く。
ラーサティアの命が消えると考えたくはない。
だが、できるだけこうして話しかけてやりたい。
ラーサティアの命が消えるときは、自分の終わりでもある。
「今夜は此所にいるよ、ラーサティア……お前が目覚めるまでずっと傍にいる。目覚めてからも傍にいる。そうしたら、きっとお前には仕事をしてください!なんて叱られたりするんだろうな。
俺が退く時には、お前を騎士団長に据える事も考えていたんだ。王族だからと傲ることもなく見えないところで努力するのを知っていたからな。まだ若いが良く皆を導けるのは王族のカリスマ性だからだろう……
なぁ、ラーサティア……サティ、愛している……1日1回は必ず言うからな……これから、何回お前に言えるだろうか。きっと数えきれないくらい言うだろう。だからラーサティアお前も言ってくれ……な?」
涙は出なかった。
俺に泣く資格は無いのだから。
「ラーサティア……」
思い付く限り、口下手な自分を恨みながら今までの事を思い出しながら言葉にする。
ラーサティアとの出会いから、1つ1つ思い出を振り返っていく。
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