カラスの鳴く夜に

木葉林檎

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拉致編

1話

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‌ 

今日の天気は曇りで
いつ雨が降ってもおかしくない程に天気が悪かった。

黒崎さんと2人で回収を任され
客の元へと向かってる最中に
隣を歩く黒崎さんの方から凄く鈍い音がした。


咄嗟に振り向き誰かわからない者に対し攻撃をしようとしたが
何かしらの薬が染み込んだ布ですぐに鼻と口を塞がれ体に力が入らなくなり身動きが取れなくなってしまった。


せめてもの最後の抵抗で手を伸ばしたけれど
頭が真っ白になりその場にゆっくり倒れた。

最後に見えたのは隣で一緒に歩いていた黒崎さんが頭から血を流して倒れている光景だった。



そして次に目が覚めた時には頭に袋状の布が被されていて視界を遮られていた。
だけど意外にも私は冷静でいて
自分の後ろにもう1人誰かいることを確認する。
恐らく黒崎さんだろう。
お互い背中合わせにされて車か何かで運ばれているようだ。

体に感じる振動で何となく乗り物に乗っていることはわかった。

ここでいきなり大声を出すのは得策じゃないだろう
何故なら2人きりって訳ではなさそうだったから

指を動かして黒崎さんが、生きてるかどうかだけ確かめる。

きっとそんなヤワじゃないだろうが
頭を殴られて血が出てたし打ちどころが悪ければ死んでいるかもしれない…。
だけど私が少し手に触れると
向こうもそれに気付いたのだろう
黒崎さんもバレないように指を軽く動かしてくれた。

良かった…とりあえず2人とも無事のようだ。


こんな状況だと男も女も関係ないだろうが
黒崎さんが声を出すよりも私が声を出した方が得策だと思った。

何故なら私は一応殴られずに薬で眠らされていたのだから…。
きっと私は腕っ節がないと判断されたのだろう。

だからこそ薬を使われたのだ。

私はなるべく、か弱い女を演じる。

「…え……なに…?
 ここは……どこ??」


その声に反応して男が声を出した。

良かった…やっぱり人がいた。
黒崎さんに話しかけなくてよかった…。


「大人しくしてろ。」

そう言われても私は黙らない。

「え、人…?お願い…助けて!」

「静かにしろって言ってんだろ!」
 
大きな声で怒鳴られて私は怯えたふりをしながら様子を伺った。

これで向こうは私がただの弱い女だと思うだろう。

暫くすると目的地に辿り着いたのか車が止まる。

黒崎さんが先に連れていかれ
次に「おい!女!お前もこっち来い!」
そう言われて引っ張られた。

袋を被らされている私は
わざとフラフラして歩けない素振りを見せると軽々と担がれて運ばれてしまった。

そして恐らく座った感じでパイプ椅子だと思う…。
直ぐに手足をその椅子に括り付けられた。


「おい、鴉越はどこだ。」

社長の本名を知っている相手…。
ということは…別の闇金か裏社会の人間で社長を恨んでいる相手だ。

ただの一般人の客は社長の本名を知らないはず…。

私たちはお互い一切話さない。

「おい、コイツらの布とってやれ」

被せられた布が無くなり自分が今どれくらい不利な状況なのかを確認する。
ここはどうやら何処かの倉庫のようで
私も黒崎さんもパイプ椅子に括り付けられて
お互い背中合わせで座らされ固定さている。

周りには見たことない男達が何人もいて
当たり前だが堅気の人間には見えない。

別の所に本当のボスはいるのだろうけれど
ここで仕切ってるリーダーっぽい男が私達に近付いて顔をよく見てくる。

「鴉越の右腕と呼ばれている黒崎と
鴉越の所で働いている唯一の女性社員、衣笠だな?」


私はただの社員としてしか認識されていないようだ。

「おい、黒崎の携帯貸せ。」

男がそう声をかけると下っ端が黒崎さんから奪っていた2つ折りの携帯を持ってくる。

そして
「おい、暗証番号言いな。」と黒崎さんの椅子を軽く蹴った。

「誰が言うかよ。」


黒崎さんがそう言い放つと
またしても鈍い音が聞こえる。

「もう一度聞く。暗証番号。」

「…答えねえよ……」

するとまた殴られる音が近くで聞こえた。

「わかった。じゃあ女に聞く。
こいつの暗証番号教えろ」


「…知りません」

私がそう答えると容赦なく平手打ちされ頬に痛みが走る。

「おい黒崎、お前が答えないなら次は容赦なくさっきお前を殴ったバットでこの女の顔面殴るからな?」


スイングするポーズを取りながら男は言う。

「暗証番号は?」


私は覚悟を持って目を閉じた。

「1356…」

黒崎さんは素直に従って答える。

「…黒崎さん!」

「よしよし。最初から素直に答えとけよ
めんどくせえな。
鴉越…鴉越っと…お、これだな?
もしもしー?鴉越さん?」

男は陽気に電話をかけた。

「今は生きてるよ?どっちから殺されたい?
ハハハッ、冗談だよ。
顧客リストと現金用意したら
コイツら返してやるよ。

別に嫌なら嫌でいいぞ。選ばせてやる。
はあ?生きてるか確認したいだと?
しょうがねえなー。メールで送ってやるから待っとけ。」

通話を切ったあと男は私達の写真を撮る。

「おい、向こうから電話が来るまでに
誰かメール送っといて」

そう言って男は倉庫から出てどこかへ行ってしまった。
きっとアイツより上の人間に連絡を取るため出て行ったのだろう。

私達の周りにいた男達もバタバタとし始めて
いつの間にか黒崎さんと2人きりになった。

「おい、梨乃大丈夫か…?」

黒崎さんの方が怪我は酷い筈なのに私を心配してくれている。

「…はい。なんとか……。」

「そうか…でも大丈夫だ。社長は絶対助けに来てくれる。
それに俺はともかくお前の事は俺が命を懸けでも守ってやるから…!」

「何言ってるんですか、絶対2人で生きて帰りましょう…!」

私は敵の隙を見ながら暴れるが結束バンドは全く取れる気配がない。
それに暴れていたせいか腕に段々と食い込み
取れるどころか痛くなってくる。


遠くから様子を見てた下っ端の男が
怪しいと判断したのか数人こちらへと戻って来た。
そのせいで私は再び大人しくなる。


すると、見張りを任されている中で一番偉そうな男が私に話しかけてきた。

「お前割といい女だよなー…
もし鬼木さんがお前を殺せって言ったら死ぬ前に皆で抱いてやるよ?」

さっき社長に電話してた奴は鬼木って言うのか…。

男は汚い手で私の顔を掴んできた。


「おい、気安く触んじゃねぇ…!」

黒崎さんがそう言って男を威嚇する。

「何お前らデキてんの?」

男は笑いながら黒崎さんに近付き髪を掴んだ。

「お前らが簡単に触れて良いような女じゃねえよ。」


「ははっ!アツいねえ。」

黒崎さんはきっと私が何かされないように自分の方に矛先がむくよう仕向けているんだ。


「でも俺、そういうの結構好きなんだよな…
おい、鬼木さんまだこっちに来ないよな?
それならこの女でちょっと楽しもうぜ?」


「でも兄貴…バレたらヤバいんじゃ…」
周りにいた下っ端の男達が怯えながらそう言うと

「そうだな、バレたらやばいだろうな。
でも要はバレなきゃ良いんだろ?

おい、そこのお前!外の様子見とけ!鬼木さんが来たら知らせろよ!」

別の下っ端にそう言って私に近付いてくる。

「ほんと殺すには惜しいぜ…」

男は何処にしまっていたのかわからないが
折りたたみナイフを取り出すと私の手と足の結束バンドを切った。

私は捕まってからずっと、か弱い女を演じてきた。
それのお陰でただの事務仕事をしている女が今回たまたま巻き込まれてしまった。と、そう認識されたのだろう。

黒崎さんが社長の右腕って事は割とその業界では昔から有名で
殆どの人は知っているが
私の情報は特に出回っていないお陰で助かった…。


男は私を解放すると
黒崎さんの真正面に連れていき
向かい合わせにしてくる。


「へへっ、今からお前の女が俺達に犯される所、指くわえて見てろよ?」

黒崎さんと私は静かにアイコンタクトを取った。

後ろから抱き着くようにしてきた男の足を思いっきり踵で踏み付ける。
男は痛みで私からすぐ体を離した。

その隙に後ろ蹴りをし男の顎の骨を砕く。

油断していた男は何も出来ないまま後ろへと倒れて
周りの下っ端も何が起きたのかわからず動きが止まっていた。

私は直ぐに男が落としたナイフを拾い上げて
黒崎さんの縛られていた手の結束バンドだけを力いっぱいナイフで切り
自由になった黒崎さんの手にナイフを渡した。
黒崎さんは自分で素早く足の拘束を取る。

その間に私はすぐに身構えて周りを警戒した。


「手足の痺れは無いですか?」

私が黒崎さんにそう訊ねると

「おう、任せろ!」と頼もしい返事が返ってくる。

2人で背中合わせになり臨戦態勢に入った途端、私に蹴られて顎を粉砕した男がゆっくり立ち上がった。

だがそのタイミングで……

銃声が鳴り響く。


音がした方へ…
その場に居た全員が振り返ると
鬼木が戻ってきていて
何も言わずに私を解放した男を銃で撃っていた。


そして誰よりも早くその銃声に対応したのは黒崎さんで
私の頭を抱き抱えるように姿勢を低くして倉庫の奥にあった大きなコンテナボックスの所まで一気に走り連れて行ってくれた。

そんな私達を鬼木は普通に銃で撃ってくる。

「何してくれちゃってんのー…?
ったくー…仕事増やすなよー…

おい、黒崎と女を捕まえてもう一度、椅子に縛りつけろ。」


周りにいた男達は「はいっ!」と返事をする。

「なあ…梨乃…?このコンテナボックスを上手く使って隙を見て逃げろ!」

「え…?」

「俺は今、足でまといだ。」

逃げるなら一緒に逃げればいい。
言葉の意味が分からなくて黒崎さんを見ると
ようやくそれが理解出来た。

「足…!」

逃げる時に撃たれた銃弾が黒崎さんの太ももを貫通したらしい。

「止血しないと…!!」

「梨乃…!!いいから早く行け!」

「いやです…!」

「あーもう!めんどくせぇな!俺なら平気だ!
また2人で捕まったら意味ねえだろ!!

良いから早く行け!!」

「…っ、わかりました…!
とりあえず社長に何とか連絡してみます…!!」

私はコンテナを上手く利用して敵の目をくぐり何とかその倉庫から抜け出した。

途中で黒崎さんが囮になってくれたおかげだ…。

先程までは曇っていた空も
辺りはもう暗く雨が凄く降っていた。


連絡手段を何も持ってない私は
どうにかして社長に連絡をしないといけない。


だけどここはどうやら公衆電話もなく先程いた倉庫と…そして近くには海があって
犯罪を犯すにはもってこいの場所だった。

身を潜めながら外で様子を伺っていると
どうやら倉庫の中だけではなく
倉庫の外にも人が出てきて
私を探しているみたいだった。

1人だけでいい…。
この中の誰かの携帯を奪って社長に連絡しないと…。

幸い雨の中で足音や物音は聞こえずらいし
直ぐに仲間を呼ばれても気付かれにくいだろう。

私はゲームの中の主人公の気分になりながら
1人になった敵をタイミングを見計らって後ろから絞め落とし
直ぐにポケットの中を探り素早く携帯だけを取って男を物陰へと隠した。


なるべく足音を立てずに倉庫の裏に周り私は社長の携帯に電話をかける。

社長はすぐに電話に出た。


「もしもし…」

私はなるべく小声で話す。

「梨乃か?」

「…すみません。私だけは今、何とか逃げ出してきたのですが…
黒崎さんはまた奴らに…
ここに居るリーダーっぽい男は鬼木と呼ばれていました。
それに銃を所持しています。
平気で仲間を撃つようなヤバいやつです…。
敵の人数は私が見た限りだと…
ざっと15人程度いるかなと思います。

私もいつまで隠れてられるかわかりません…。

だけど社長に会えなくなる前に話せて良かったです…」


「何言ってんだよ、今からその場所へ向かう。
すぐに助けに行くから
なるべく捕まらないように耐えてくれ。」


「……社長、黒崎さんと私を助けて…。」

「ああ。待ってろ。」


通話が切れたあと下唇を噛み締めて
私はとりあえず隠れる事だけに集中したのだった。


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