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三章 お茶会

九話 衣装作り

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  今日は快晴、散策日和なのだが……。
「ねぇ、お二人さん。作物が育たない原因って何かしら。芽すら生えないことなんてあるの?」
  そう、今日こそは行きそびれていた畑調査に行かねばならない。お茶会の日から三ヶ月が経って、サラにそろそろ行ってきなさいと言われてしまい、執務室から追い出された次第。散策どころではないのだ。残念。
「……とりあえず、扉を閉めて。恥ずかしいから」
「……!っ、っ!!」
  そんな真っ赤に震えるほど恥ずかしがらなくても。六華は言葉すら出ないようで、ルゥに同調するように首を縦に振っている。
  間の悪いことに、二人が着替えているところに私が扉を開けてしまったのだ。私は気にせず話していたが、恥ずかしがり屋の二人は羞恥で全身が赤く染まっている。……可愛い。むさいだけの男とは違う。
「お願い、閉めて……」
  あまりに懇願されるので扉を閉めた。
「……そうじゃなくて!……っせめて後ろ向いてて!」
  そこまで照れなくても。仕方ない、少しだけ待ってよう。二人を通り過ぎてバルコニーに出た。手すりで羽を休めている小鳥と遊ぶ。
  シュルシュル、と背後で慌てて衣服を身につける音が聞こえる。既に五分は経ったが、着物だとまだ時間がかかるだろう。手すりに寄りかかって目を閉じた。着替え終わったら起こしてもらおう。

✻    ✻    ✻    ✻

  何故男二人が半裸(ほぼ全裸)だったのか、事の始まりは二十分前に遡る。

  六華が城に住むことになったのはいいものの、肝心の着替えは寝間着を合わせて三着しか持っていなかった。なので、まずはニーハイソックスのような足袋を残して(脱ぐ必要が無いから)着物を脱いでもらい、全身を測らせてもらう。
  最初、裸になることに抵抗があったみたいだけど、服を作らなければならないから諦めたみたい。胸囲を測ろうとしたら、すっ、と腕を広げてくれた。いつもは使用人が着付けてくれるみたいだから、それの癖かな?軽く絞めると乳首が擦れてしまったようで、小さく「んっ」と喘がれた。……ごめん。
  それからというもの、測る度に喘がれるものだから、僕まで顔が赤くなって。幼気な少年にイケナイことをしてる気分になってしまった。それでもきちんと記録を取る事を忘れない。それにしても……。
「襦袢の下って何も履いてないんだね?」
  言ってから気付くのもなんだけど、聞いても良かったのかな。さすがに問題発言だった?
「え!?あ、は、はい!で、伝統と言うか!襦袢が下着というか!?な、なんですすすよ!?」
  物凄く狼狽しながらも答えてくれた。うん、ごめん。そして落ち着こうか。
「すみません……」
  あはは……。今のは僕が悪いから。はい、深呼吸~。さ、続きをしよう。
  測った結果、身長は僕(百六十八)より指五本分小さかった。思ってたよりも背が低い。下駄を履いてたから高めに見えていたのか。納得。小さな身長のせいか、下を見なければ女の子にしか見えない。僕よりも幼い顔立ちだから。お前が言うなとか言われそうだけど、思っちゃったから言っておく。
  上半身は僕とそんなに変わりがなかったから、上の服を実際に着てもらう。さすがにロングテールジャケットは尾が少し長かった。引きずりそう。テールジャケットじゃない方が良いか。こういった事もしっかりと記録しておく。……にしても、腰周り細いなぁ。僕よりずっと細い。まさか栄養不足とかじゃ。
「あ、あの?」
  ぷにぷにふにふに。
「お、おにぃさまぁ……!」
  しまった。いつの間にか腰を触ってた。んん、失礼。
「ちゃんとご飯食べてるの?細い過ぎる気が……」
「た、食べてますよ?運動もしてます!」
  今、微妙に声が上擦ったような。まぁいい。やれやれとため息を吐く。まったく。……ズボンは腰周りを細めに、と。記録記録。あ、インク切れた。一旦休憩にしようと思って、服を脱いで着物を着るように言った。
「はい」
  六華がジャケットとベストを僕に返し、シャツのボタンを外して脱ぎかけたその時。
「あぁ、いたいた」
  音もなく扉が開いた。おかしいな、ドア鍵を掛けて魔法でも鍵を掛けたのに。いやそれよりも。
  ……開ける前にノックぐらいしてくれないかなぁ!?ほんと何度言っても直らないね!?ただでさえ、着替え中なのに!それに六華もいる上、その六華はほぼ全裸で息子さん丸出しだし!
「ねぇ、お二人さん。作物が育たない原因って何かしら。芽すら生えないことなんてあるの?」
  いやいや、普通に話し掛けないで!?あと扉!閉めてください!思考停止した六華が、脱ぎかけていた僕のシャツを素早く脱いで、そのシャツで息子さんを隠してしゃがみ込んだ。うん……しょうがない、緊急事態だから許す!僕は僕で身の危険を感じ、さっと乳首を隠す。羞恥で全身が熱い。真っ赤になっていることだろう。
「……とりあえず、扉を閉めて。恥ずかしいから」
  本当に恥ずかしいだよ!?震えながらもなんとか言葉にして伝える。
「……!っ、っ!!」
  六華も、ブンブンと首が取れそうなほどの勢いで頷いている。三回も。
  じーっと見つめられて、体が火を吹きそうなほど赤く熱くなる。羞恥で波が滲む。お願いだから部屋から出て!
「お願い、閉めて……」
  掠れ声になりながらも懸命に伝えた……が。
  お姉ちゃんは部屋からは出ず、中に入ってから扉を閉めた。だから!出ていってほしいのに!あぁもう!!
「……そうじゃなくて!……っせめて後ろ向いてて!」
  怒りながらそう言うと、お姉ちゃんは何故かバルコニーに向かって歩いていった。……遊びに来た小鳥と戯れている。なにはともあれ、今が着替えるチャンスだ!急いで身なりを整えて、六華の着付けを手伝う。練習してて良かった。
  支度が終わってバルコニーに向かうと、寝ていた。……待ちくたびれたんだろうけど、いきなり入ってきたのはお姉ちゃんだからね?つい、すやすやと寝入っているその頭に拳を落とした。少し強めの力で。

──いい音がしてすっきりした。
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