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君が扇情的だからだ

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「わっ……! あ、あ、……あっ」

 しゃがんでいた体勢からなんとか持ちこたえようとするが、思いきり腕を引かれたので、上半身から突っ込むようにしてバスタブに入ってしまった。

「……殿下」

 ざぷんと遅れて尻がバスタブに入り、チョロチョロとお湯が漏れていく音がする。
 膝から下をバスタブからはみ出させた格好で、リリアンナは驚きと呆れが混じった顔でディアルトを見上げた。

「はははっ……。おっかし……。びっくりした猫みたいな顔をしてる」
「……殿下?」

 はぁ……っと溜め息をついたリリアンナは、ブーツとレッグガードが濡れないように外してしまうと、ポイッと離れた場所に放り投げた。

「殿下。子供ではないのですから、困ります」

 真面目に突っ込むも,リリアンナのレースの下着はピッタリと体に張り付き、ふくよかな胸を誇示している。白いペチコートも浮力で浮き、湯の中で咲くようにたゆたっていた。

「君が扇情的だからだ」

 ディアルトは甘やかに微笑み、リリアンナを遠慮なく抱き締めてきた。
 開いた脚の中にリリアンナの体がすっぽりと収まり、顔がディアルトの胸板に押しつけられる。

「…………っ」

 ドキドキと胸が高鳴り、呼吸が震える。
 お腹の辺りに硬いモノがぐっと当たっている。リリアンナが性的なことに疎くても、そこに男性器があることぐらい分かっていた。

(マッサージをしていただけなのに、こんな硬くなっているんですか? 殿下の変態)

 恥ずかしくてその場から遁走したくなるが、リリアンナは努めて平静を保つ。

「……びしょ濡れじゃないですか」
「どうせ、今日は泊まるんだろ? 一緒に風呂に入ったと思えばいいよ」
「私はそのようなつもりではなかったのですが」

 リリアンナはもう、と内心頬を膨らませる。
 けれどまじまじとディアルトの顔を見て、別の感情が沸き起こった。

「……殿下もやつれられましたね。頬もこけてしまっています。目の下も、クマが酷いです」

 ディアルトの頬に手を当て、言葉にした場所を指でたどってゆく。

「もう元気になったよ」

 表情を和らげたディアルトが、リリアンナの額に唇を押しつけてきた。
 柔らかなしるしを額に与えられ、リリアンナは微かな吐息を漏らす。濡れた薄布越しに背中を撫でられ、ディアルトの手が臀部を撫でる。

「リリィ。会いたかったよ」

 ちゅ、ちゅと顔にディアルトの唇が押し当てられ、彼の手がリリアンナの体をまさぐる。

「…………っ」

 ――私も、お会いしたかったんです。

 こみ上げた気持ちを必死に抑え、リリアンナは俯いてされるがままになっていた。

「おや? リリィは会いたくなかったのか? 君の口から色んな言葉を聞きたいな」

 耳心地のいい声が耳朶をくすぐり、リリアンナはヒクッと肩を跳ねさせる。

「わ、……私、も……」

 唇がわななく。
 自分の気持ちを素直に吐露していいのか、分からなくなる。

 本当なら気兼ねなくディアルトに気持ちを伝え、寂しかった、心配していたと言いたい。けれどそれを言ってしまえば、リリアンナが護衛としてではなく、一人の女性としてディアルトを求めていることになる。

(殿下に『なんて意地っ張りなんだ』と思われているのは分かっている。けど……)

 ――私は殿下に相応しくない。

 それを分かっているからこそ、リリアンナは自らの気持ちを素直に口にすることができないでいた。

「リリィ? またゴチャゴチャ考えているな? 難しい気持ちは置いておいて、寂しかった? それとも情けない主がいなくて仕事が楽だった?」
「っそんな……!」

 わざとディアルトが自身を貶める言い方をし、リリアンナはカッとなって顔を上げる。

(私の殿下を貶めるようなことは、たとえ殿下でも許さない)

 顔を上げればそこにはどこか試すような、人を食ったようなディアルトの微笑みがある。つい乗せられて反応してしまったが、もう遅い。

「……お会い、したかったです。心配しておりました」
「うん、俺もだ」

 ニッコリと微笑んだディアルトに抱き寄せられ、リリアンナは唇を奪われていた。

「……ん」

 ちゅ、ちゅ……とついばむキスを受け、頭の芯がとろけてゆく。「護衛なのだからしっかりしないと」といういつもの緊張が、ディアルトに包み込まれ柔らかくほぐれていった。
 そのうちチュプ……と舌が入り込み、リリアンナの下肢に疼きが走る。

「ん……、ふ、……ン」

 滑らかな舌に口内を舐められ、ゾクゾクと腰が震えた。怯えているリリアンナの小さな舌を、ディアルトの舌が探り当てヌルヌルと舐めてくる。

(あぁ……、あ……)

 知らずとリリアンナは腰を揺らし、自らも拙く舌を動かしてディアルトに応えていた。
 その行為は互いの体の奥まで、気持ちを伝えるように思えて――。

 気が付けばリリアンナはディアルトの首に両腕をまわし、懸命に彼への想いを舌に乗せて伝えていた。
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