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神の寵愛 ☆
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その頃、ルーカスはいつも通りの顔で書類に目を通していた。
結婚をしても王子には仕事がある。
王子とあまり関わりのない身分の低い貴族からは、「毎日贅沢三昧で楽しいでしょう」と訳の分からない世辞を言われたが、そうでもない。
確かに生活に困ってはいないが、諸侯との付き合いや諸国との付き合い、そして国を治めることが王族の第一の仕事だ。
傘下となっている貴族たちが反乱を起こさないように、意見を聞いたりなだめたり。周辺諸国とも会食などをして親睦を重ね、国境のいざこざや貿易など難しい話も進めなければならない。
加えて美男で有名なルーカスには、かねてより想いを寄せていた姫君もいない訳ではない。
結婚をしてもなお手紙を送ってくる彼女たちに、ルーカスは国際問題にならないよう慎重に、手紙の返事をしたためなければならない。
「……面倒だな」
正直、アリア以外の女性に興味はまったくない。
興味のない人間に向けて手紙を書くのも、心にない言葉ばかりでつい気持ちが入らない。
「問題にならなければいいだけの話なんだが」
ハァ、と溜息をついてその手紙は保留にして脇に置いた。同じ場所には、何通か同様の手紙が重なっている。
「ザール公爵の問題を先にするか」
自ら軍事的な権力を持ちたいと言っている面倒な貴族の顔を浮かべ、ルーカスはまた溜息をつく。
「あぁ……。アリアに会いたい」
こんなとき、妻が側にいてくれれば。
側にあの美貌があるだけで目が休まるし、あの声を聞くだけで耳が休まる。手を握るだけでも、気力が回復する気がする。
ほんのちょっとだけでも……、せめて抱きしめられれば、もっと元気になる気がする。
けれど彼女は昨日に続いて友人のところへ行くと言っていた。
思えば式を挙げてから彼女を離宮に閉じ込めっぱなしだ。自分と一緒なのが彼女にとっての幸せだと思うが、同じ場所にずっといるのも飽きるだろう。
フォーサイス伯爵領から王宮に移ったばかりで、侍女たちなどともあまり馴染みがない。だからルーカスはアリアの気が少しでも紛れるのなら、と思って快く送り出したのだ。
「今頃楽しく茶会でもしているのかな。王都で買い物でもしているんだろうか? 帰ったら彼女の話を聞こう」
アリアのことを思い浮かべるだけで、ルーカスの口元には微笑みが浮かぶ。
相変わらず周囲の女性は、自分には人形のようにしか思えない。
しかし愛しいアリアだけが、美しい妻として自分に認識できているのなら問題はない。
「……心配なのは、美しい彼女が他の男に目をつけられないかだが……」
そう呟くと、ガラスペンの後ろを自分の顎につけて考え込む。
「……少し早めに、迎えをよこすか」
過保護かもしれないと思いつつ、新婚なのだからいいだろうとルーカスは自分に言い訳をした。
**
「着いた……」
アリアはあの祠の前に立っていた。
マグノリアの神木は、その木だけ花を咲かせている。
「マグノリアさま、お元気でしたか?」
誰もいないのにアリアはそう語りかけ、祠の掃除を始めた。
「お陰さまで、すてきな方と出会えました。劇的な出会いからあっという間に旦那さまになっていて……。本当に魔法にかかったようです」
無人の祠だが、確かにそこには温かな『何か』の気配がある。
「私の親友たちも、あやかろうとここを目指したようですが……。どうだったのでしょうね? きっと、マグノリアさまも多くの想いを抱えたら、お元気になるんじゃないかしら?」
ひと月ほど前に掃除をしたばかりなので、前回のように酷い苔がついているという訳でもない。
布で丁寧に祠を拭いたあと、アリアは持ってきた白ワインと果物を祠の前に置く。
「この白ワイン、お礼の印です。旦那さまが懇意にされているワイナリーの物です。どうぞお飲みくださいね。果物も旬のものを持ってきました」
少し離れたところに白い人影がまた姿を揺らめかせていたが、アリアは目の前の祠に気がいっていた。
「ご神木のほうも、少し手を入れますね」
そう言って、アリアはマグノリアの木の根本にある雑草を抜き始める。
それから剪定鋏を手に、マグノリアを整えてゆく。
「この根本から生えているの、ヤゴと言うのですって。この若い枝があると本体に上手に養分がいかないみたいですから、切ってしまいますね」
庭師から教えてもらった知識のとおり、アリアは慎重に枝を剪定してゆく。
「これは切り枝ですって。幹から外に向かって、真っ直ぐではなく曲がって伸びてしまっているの。痛いかもしれませんが、マグノリアさまのご神木が上手に伸びるよう、切ってゆきますからね」
フォーサイスの屋敷の庭で、アリアはよく木登りをしていた。
それがいま生かされるとは思わず、アリアはドレス姿のまま器用に木登りをし、可能な限りマグノリアの手入れをしてゆく。
逆さ枝と呼ばれる、不自然に生えている下向きの枝を切り、胴吹きと呼ばれる幹から直接生えている小枝も、本数を選んで切る。
「にわかに叩き込んだ知識ですが、紙にメモをして一生懸命覚えましたから、きっと大丈夫です」
白い花に囲まれ、幹の根元に白い人影が立っているのも気付かないようだ。
「本当は今日、別のお願いをしに来たのです。ルーカスさまがあまりに……その、体をお求めになるので、私も少し体を休めたくて。でも、嫌という訳ではないのです。ただもう少し……、体を交えずともルーカスさまの愛を感じたいなと思ったり……。私の我が儘なのですけれどね」
剪定鋏で枝を切り、アリアは独白する。
「ルーカスさまもあの金色の目に、妖精の魔法がかかっているのだと聞きました。次に一緒に来たら、ルーカスさまの目の魔法も解けるのかしら? ……でも、ルーカスさまの目に私以外の女性が映るのは、どこか微妙な気持ちです」
王太子妃とは思えない動きでアリアは剪定し、余計な枝がなくなってスッキリしたところで笑顔を見せた。
「きっとこれで、来年も綺麗な花を咲かせられると思います」
枝の股に座ったまま汗だくになっていると、フワッと目の前に白い人影が現れる。
「ひゃっ……」
悲鳴をあげかけ、危うくバランスを崩そうとしたところを、その人影が支えた。
「え……っ?」
人ではない――、実体がない儚い存在だと思っていたのに、アリアを支える感触は力強い。
『大丈夫か……?』
目の前には、美しい男性の顔がある。
アリアの願望が見せたからか、どことなくその顔はルーカスに似ているような気がする。
「は……、はい……。ありがとうございます……」
呆然として礼を言うと、白い手がアリアを撫でる。
『愛しい乙女……。お陰で力が蘇ってきた……』
空気を震わせるような優しい声には、慈愛が込められている。
神の愛を受け、その手の感触にアリアがうっとりとしていた時だった――。
「……あれ?」
枝を跨いでいる太腿の中心で、ズン……と甘い疼きを感じる。
まるで、ルーカスに愛されている最中のようだ。
「あ……っ」
呼吸を乱し、アリアは落ちないようにと太い幹にすがりつく。
けれど跨いでいる枝にまるで屹立が生えているかのように、アリアの下肢は切なくうずき続ける。
「あっ……、あ、……ぁ、はぁ……っ」
涙で潤んだ目で少し振り向けば、ルーカスそっくりのマグノリアの神が、自分を抱きしめている。
芳しい香りに包まれ、下肢は女として反応を見せ、アリアはすっかり下着を濡らしていた。
「いい匂い……。気持ちいい……。けど、だめ……っ」
神に愛されているのは、この上ない誉だと思う。
けれど、夫以外にこうして反応しているのは、きっと罪深いことだ。
そう思いながらも、アリアはルーカスに深く穿たれているような感覚に陥り、体をビクビクと痙攣させる。
下着は役目を果たさないほどに濡れ、アリアの蜜がマグノリアの枝に染みてしまっているような気がする。
服の中で両の胸の先端が、痛いほどに尖っているのも分かった。
「だめです……っ。だめ、……だめ。私、ルーカスさまが……っ」
『愛しい乙女、もっと我に愛を注いでくれ』
耳元で風が震え、神の愛がアリアの耳朶を打つ。
「あぁっ!」
とたん、アリアは渾身の力でマグノリアの幹にしがみつき、達してしまった。
涙でかすむ視界のなか、一面の白い花がアリアを包む。
上品で、高潔な香りのはずなのに、それはいまアリアの鼻腔から入り込み匂いすら快楽に変えてゆく。
「だ……め」
唇はそう呟きつつ、アリアは本能で刺激を求め、自ら胸に手を這わせていた。
結婚をしても王子には仕事がある。
王子とあまり関わりのない身分の低い貴族からは、「毎日贅沢三昧で楽しいでしょう」と訳の分からない世辞を言われたが、そうでもない。
確かに生活に困ってはいないが、諸侯との付き合いや諸国との付き合い、そして国を治めることが王族の第一の仕事だ。
傘下となっている貴族たちが反乱を起こさないように、意見を聞いたりなだめたり。周辺諸国とも会食などをして親睦を重ね、国境のいざこざや貿易など難しい話も進めなければならない。
加えて美男で有名なルーカスには、かねてより想いを寄せていた姫君もいない訳ではない。
結婚をしてもなお手紙を送ってくる彼女たちに、ルーカスは国際問題にならないよう慎重に、手紙の返事をしたためなければならない。
「……面倒だな」
正直、アリア以外の女性に興味はまったくない。
興味のない人間に向けて手紙を書くのも、心にない言葉ばかりでつい気持ちが入らない。
「問題にならなければいいだけの話なんだが」
ハァ、と溜息をついてその手紙は保留にして脇に置いた。同じ場所には、何通か同様の手紙が重なっている。
「ザール公爵の問題を先にするか」
自ら軍事的な権力を持ちたいと言っている面倒な貴族の顔を浮かべ、ルーカスはまた溜息をつく。
「あぁ……。アリアに会いたい」
こんなとき、妻が側にいてくれれば。
側にあの美貌があるだけで目が休まるし、あの声を聞くだけで耳が休まる。手を握るだけでも、気力が回復する気がする。
ほんのちょっとだけでも……、せめて抱きしめられれば、もっと元気になる気がする。
けれど彼女は昨日に続いて友人のところへ行くと言っていた。
思えば式を挙げてから彼女を離宮に閉じ込めっぱなしだ。自分と一緒なのが彼女にとっての幸せだと思うが、同じ場所にずっといるのも飽きるだろう。
フォーサイス伯爵領から王宮に移ったばかりで、侍女たちなどともあまり馴染みがない。だからルーカスはアリアの気が少しでも紛れるのなら、と思って快く送り出したのだ。
「今頃楽しく茶会でもしているのかな。王都で買い物でもしているんだろうか? 帰ったら彼女の話を聞こう」
アリアのことを思い浮かべるだけで、ルーカスの口元には微笑みが浮かぶ。
相変わらず周囲の女性は、自分には人形のようにしか思えない。
しかし愛しいアリアだけが、美しい妻として自分に認識できているのなら問題はない。
「……心配なのは、美しい彼女が他の男に目をつけられないかだが……」
そう呟くと、ガラスペンの後ろを自分の顎につけて考え込む。
「……少し早めに、迎えをよこすか」
過保護かもしれないと思いつつ、新婚なのだからいいだろうとルーカスは自分に言い訳をした。
**
「着いた……」
アリアはあの祠の前に立っていた。
マグノリアの神木は、その木だけ花を咲かせている。
「マグノリアさま、お元気でしたか?」
誰もいないのにアリアはそう語りかけ、祠の掃除を始めた。
「お陰さまで、すてきな方と出会えました。劇的な出会いからあっという間に旦那さまになっていて……。本当に魔法にかかったようです」
無人の祠だが、確かにそこには温かな『何か』の気配がある。
「私の親友たちも、あやかろうとここを目指したようですが……。どうだったのでしょうね? きっと、マグノリアさまも多くの想いを抱えたら、お元気になるんじゃないかしら?」
ひと月ほど前に掃除をしたばかりなので、前回のように酷い苔がついているという訳でもない。
布で丁寧に祠を拭いたあと、アリアは持ってきた白ワインと果物を祠の前に置く。
「この白ワイン、お礼の印です。旦那さまが懇意にされているワイナリーの物です。どうぞお飲みくださいね。果物も旬のものを持ってきました」
少し離れたところに白い人影がまた姿を揺らめかせていたが、アリアは目の前の祠に気がいっていた。
「ご神木のほうも、少し手を入れますね」
そう言って、アリアはマグノリアの木の根本にある雑草を抜き始める。
それから剪定鋏を手に、マグノリアを整えてゆく。
「この根本から生えているの、ヤゴと言うのですって。この若い枝があると本体に上手に養分がいかないみたいですから、切ってしまいますね」
庭師から教えてもらった知識のとおり、アリアは慎重に枝を剪定してゆく。
「これは切り枝ですって。幹から外に向かって、真っ直ぐではなく曲がって伸びてしまっているの。痛いかもしれませんが、マグノリアさまのご神木が上手に伸びるよう、切ってゆきますからね」
フォーサイスの屋敷の庭で、アリアはよく木登りをしていた。
それがいま生かされるとは思わず、アリアはドレス姿のまま器用に木登りをし、可能な限りマグノリアの手入れをしてゆく。
逆さ枝と呼ばれる、不自然に生えている下向きの枝を切り、胴吹きと呼ばれる幹から直接生えている小枝も、本数を選んで切る。
「にわかに叩き込んだ知識ですが、紙にメモをして一生懸命覚えましたから、きっと大丈夫です」
白い花に囲まれ、幹の根元に白い人影が立っているのも気付かないようだ。
「本当は今日、別のお願いをしに来たのです。ルーカスさまがあまりに……その、体をお求めになるので、私も少し体を休めたくて。でも、嫌という訳ではないのです。ただもう少し……、体を交えずともルーカスさまの愛を感じたいなと思ったり……。私の我が儘なのですけれどね」
剪定鋏で枝を切り、アリアは独白する。
「ルーカスさまもあの金色の目に、妖精の魔法がかかっているのだと聞きました。次に一緒に来たら、ルーカスさまの目の魔法も解けるのかしら? ……でも、ルーカスさまの目に私以外の女性が映るのは、どこか微妙な気持ちです」
王太子妃とは思えない動きでアリアは剪定し、余計な枝がなくなってスッキリしたところで笑顔を見せた。
「きっとこれで、来年も綺麗な花を咲かせられると思います」
枝の股に座ったまま汗だくになっていると、フワッと目の前に白い人影が現れる。
「ひゃっ……」
悲鳴をあげかけ、危うくバランスを崩そうとしたところを、その人影が支えた。
「え……っ?」
人ではない――、実体がない儚い存在だと思っていたのに、アリアを支える感触は力強い。
『大丈夫か……?』
目の前には、美しい男性の顔がある。
アリアの願望が見せたからか、どことなくその顔はルーカスに似ているような気がする。
「は……、はい……。ありがとうございます……」
呆然として礼を言うと、白い手がアリアを撫でる。
『愛しい乙女……。お陰で力が蘇ってきた……』
空気を震わせるような優しい声には、慈愛が込められている。
神の愛を受け、その手の感触にアリアがうっとりとしていた時だった――。
「……あれ?」
枝を跨いでいる太腿の中心で、ズン……と甘い疼きを感じる。
まるで、ルーカスに愛されている最中のようだ。
「あ……っ」
呼吸を乱し、アリアは落ちないようにと太い幹にすがりつく。
けれど跨いでいる枝にまるで屹立が生えているかのように、アリアの下肢は切なくうずき続ける。
「あっ……、あ、……ぁ、はぁ……っ」
涙で潤んだ目で少し振り向けば、ルーカスそっくりのマグノリアの神が、自分を抱きしめている。
芳しい香りに包まれ、下肢は女として反応を見せ、アリアはすっかり下着を濡らしていた。
「いい匂い……。気持ちいい……。けど、だめ……っ」
神に愛されているのは、この上ない誉だと思う。
けれど、夫以外にこうして反応しているのは、きっと罪深いことだ。
そう思いながらも、アリアはルーカスに深く穿たれているような感覚に陥り、体をビクビクと痙攣させる。
下着は役目を果たさないほどに濡れ、アリアの蜜がマグノリアの枝に染みてしまっているような気がする。
服の中で両の胸の先端が、痛いほどに尖っているのも分かった。
「だめです……っ。だめ、……だめ。私、ルーカスさまが……っ」
『愛しい乙女、もっと我に愛を注いでくれ』
耳元で風が震え、神の愛がアリアの耳朶を打つ。
「あぁっ!」
とたん、アリアは渾身の力でマグノリアの幹にしがみつき、達してしまった。
涙でかすむ視界のなか、一面の白い花がアリアを包む。
上品で、高潔な香りのはずなのに、それはいまアリアの鼻腔から入り込み匂いすら快楽に変えてゆく。
「だ……め」
唇はそう呟きつつ、アリアは本能で刺激を求め、自ら胸に手を這わせていた。
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