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3章 地蔵してんじゃねぇよ!

3-7 ガリ解説【⑧連れ出しに至るまでのポイント】

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「さすがですね。お見それしました」
「慣れてるだけやで。今、いくつかポイントがあったんやけど、言うてごらん」
 一仕事終えた後の一服とばかりに胸ポケットから早速タバコを取り出した。ジッポーを見ると、絵柄はこけしだった。
「えーと、まず、直接法ではなく間接法で入りましたね」
「せや。間接法は、声をかけた後にスムーズに世間話に入っていかなあかんねん」
「と言うと?」
「おう。『場所き』『道き』は、おなごが考え始めたときに隙ができんねん。そこを逃さず、その無防備の瞬間に飛び込み、『おなごって甘いものが好きやん』のように話をスライドさせて自然に世間話に移行すればええねん。あとは直説法と同じなんやで。他に何か気づいたことはあるか?」
「会話のテンポがすごく良かったと思います」
「せやな。最初の入りは当然内容も大事だけど、それ以上に気をつけなあかんことはリズムや。面白くなくても失敗したとしても、小気味良いリズムでポンポン続けていくことが肝心やねん。ほんで、次にやらなあかんことは疑念を解くことなんや」
 俺は親指と人差し指で顎をいじりながら聞き入った。
「街中で知らない人に声をかけられれば、怖がられるし怪しまれる。話してる途中で疑念が濃くなったから、単刀直入に『タイプなんやけど』と言うたんや。キャッチではないことを暗に伝える必要性があったし、何よりおなごが一番気になっていることは、『なんで声をかけてきたのか?』ってことやからね」
「確かに、ちょっと怪しまれてましたもんね」
「まあな。相手から『怪しい』と言われたときは、否定するのではなくて肯定して流しちゃえばええねん。肯定しちゃえば、笑ってくれるから結果的に疑念を薄めることにも繋がるんやで。他に気づくことはあったやろか」
「ジッポーを買いにきたとか言ってましたけど、関係ありますか?」
「あるで。いつも街中でおなごに声をかけている軽い男だと思われちゃあかんから、『渋谷には買い物に来た』とか、なんで今日ここにいるのかという理由が必要なんや。ほんで、疑念を薄めるために、もう一つポイントがあるんやけどわかるか」
「わかりました。自己紹介ですね」
「正解。なんでここにいて、なんで声をかけてきたのか、そこまでは明らかにされた。では、その人物がどういう人物なのか。つまり、身分や職業をはじめとする自己紹介が必要になってくんねん。そこまで開示すれば、疑念はより薄くなっていくんやで」
「なるほど」
「ほんでついでに言っとくと、最初の方で、相手がこれからどのような用事があり、それはどこの場所で何時に誰となのか、さりげなく尋ねて頭に入れておかなあかんねん。そこから逆算した上で話の選択や展開をしないと、突然友達のいる待ち合わせ場所に到着したりして強制終了することがあるんやから。まだまだあるで。他には?」
「あっ、YES誘導法と融合したフット・イン・ザ・ドアと……、あとドア・イン・ザ・フェイスも取り入れてましたよね」
「せやな。どちらもうまくいったわけではないけど、トークや展開の補助的役割をになってくれたね。見てたからわかると思うんやけど、YES誘導法を行うためには、当然YESを言わせる質問をせなあかん」
「ですね」
「そのためにはクローズドクエスチョンが効果的といえんねん」
「何ですかそれは?」
「答えがYESかNOかに絞られる質問のことをいうねん。それとは反対にオープンクエスチョンというのは、答えの幅が相手に委ねられている質問のことをいう。クローズドクエスチョンは質問がしやすく返答もしやすいのでスピーディーなやり取りになるからメトロノームのようなリズムのある会話になるんやで。それと、それらのテクニックと共に『あえて』意識してやってたことがあるんやけど気づかなかったか?」
「え……、全然わかりません」
「そっか。ちょっと、あれ見てみ」
  ガリさんと話しながら歩いていたらセンター街に辿り着いていた。制服を着た女子高生や地方からの修学旅行生など未成年の割合が多くなっている。
「えっ、どれですか、ガリさん」
 人が多すぎてわからない。  
「あれや。あのチャラ男が声をかけるところやから」
 ガリさんの示す方向を見ると、肌が真っ黒に焼けた金髪の男が女に声をかけていた。その女を見るとこれまた肌が黒く、露出の激しい服を纏ってゴールドのアクセサリーが眩しい、いかにも一昔前のギャルという風貌をしていた。
「今では廃れてしまい、絶滅危惧種に指定されている平成時代のギャルとギャル男ですね」
「せやな……って、そんなことはどうでもええ。いわゆる、『類は友を呼ぶ』や。つまり、価値観が近いと繋がりやすいし和みやすいっちゅうわけや」
「今さら、昔のギャル男の格好はしたくないのですが……」
「アホんだら。別にそんなことは言うてない。せやけど、昔のギャルを狙いたいなら昔のギャル男になるのも一つの方法や。別に、外見だけの話をしているわけじゃないんやで」
「と言うと?」
「うん。ナンパっちゅうのは全く繋がりがない関係性から出会いをつくるツールだからこそ、共通点を素早く見つけることが大事なんや。共通点が見つかれば、警戒心が薄れると同時に安心感が生まれるからうまくいきやすい」
「共通点ですかぁ。トークで探っていくしかないんですかねぇ」
「せやなー。住んでる場所が同じだったり、趣味が同じだったり、価値観が同じだったり、職種が近かったり、なんだってええんやで」
 確かに、先ほどのガリさんは、共通点を探りながら展開していたなと思った。
「ほんで、ここまでにおける注意点なんやけど、いつまでもダラダラと世間話を続けたってしゃーない。ナンパなんて、相手の気持ちがいつ変わるかわからへん。せやから、どのようにして素早くおなごとの共通点を探し出し、そのネタで盛りあがり一つになれるか。この点が、声かけから連れ出しに至るまでのポイントなんやで」
「なるほど」
「共通点を見つけただけで安心してはダメやで。すぐにそれを掘り下げて、一気に距離を縮めないとあかんねんぞ」
「わかりました。まずは、共通点を探るトークを心掛けます」
「おう。ほんで、さっき説明したYES誘導法なんやけど、YESの返答に対して必ず共感したりされたりすることが肝心なんやで。好感度がグングン上がるんやから。互いの共感性を高め合うんや。共感が共感を呼ぶんやで」
 乳ローがまたもや突然割り込んできた。
「で、それを続けると、いつの間にかエッチすることにも共感しているってことだろ?」
 と言うと、俺を見るなり親指を立ててニヤっと笑った。
 あ、ハイ……。
「せやから、さっき違うって言うたやろ。それは、」
「『今度まとめて話す』って言うんだろ。なんか、おかしいぜ、ガリ」
「おかしくない」
「ま、そんなのどうでもいいわ。ガリ教祖の説教はそこまででいいんじゃないか。眠くなってきたわぁ。そろそろ俺に指名させろよ」
「わかったわかった。ほな、指名のプロ、頼むわ」
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