上 下
83 / 107
8章 性欲ジャーナリスト

8-11 性欲ジャーナリスト6・悲しいセックス

しおりを挟む
 少し酔いを醒ますような風に身を委ねていると歌舞伎町の歓楽街が広がり、そのまま歩き続けるとあらゆる淫靡なネオンを発しているホテル街が見えてきた。カラフルな外観に惹かれたのでここにしようかと思ったが満室で入れなかった。すぐ向かいのホテルを見ると空室だったので訊いてみた。
「ここにしよっか」
「うん、いいんじゃない。綺麗だし」
 狭いエレベーターを降り、お香の匂いを割きながら部屋に向かった。鍵を差し込みドアを開けるとマッサージチェアーが見え、その奥には天蓋てんがい付きの大きなベッドがあった。
「うわぁ。天蓋のベットってすごぉい」
 はしゃぎながら飛んでいった。布団が波打つのを眺めながら「先、入るね」と言い残し浴室に向かった。シャワーを浴びながら、「素人童貞の俺が上手にセックスできるのだろうか……」という一抹の不安が過ったが、すぐに「ガリさんから教えてもらった通りにやれば何とかなるさ」と自分に言い聞かせるような独り言を呟いていた。
 あとにシャワーを浴びたかりんがバスローブに身を包んで戻ってくると、俺のいる天蓋ベットに向かってきた。女の目を見つめると、一瞬、俺の知らないどこか遠くを眺めているように見えた。飲み過ぎたからか、目はうっすらと充血している。俺の方に来ようとしてフラッと崩れてしまう。
「大丈夫かよ」
 と言いながら、一歩近づいて腰に手をやり肌を合わせて座った。
 指を絡めて手を握り、優しくキスをした。舌を絡めると、すぐさま横にした。髪に触れる。流れに逆らうことなく指を通していく。目を閉じながらじっとしていたのでいつの間にか頭を優しく撫でていた。
 熱を帯びているほんのりと赤くなった耳にかぶりつき、甘噛みするように愛撫すると、「はぁっ」という喘ぎ声が聞こえた。その声が耳に届くと乳房に手をやった。乳首には一切触れず欲望のままに揉み続けた。乳房に唇を近づけるとあえてまたもや少し立たせている薄桃色の乳首には触れず、頂きの周りの乳輪に唾液をたっぷり蓄えた舌を這わせ、焦らしながらもいやらしいだけじゃなくねちっこく舐め続けた。
「はうっ。はぁ」
 吐息を漏らして抱きついてきたのでそこで初めて頂点にある乳首を口の中に含み、優しくねぶりながら転がしてやった。すると、喘ぎ声を響かせながらもちょっとくすぐったそうに見えた。だから俺は、優しく含んでいた乳首を甘噛みしていたぶった後に激しく吸い込んだ。
「ひゃあっ。はぁ」
 今まで聞いたことのない突き抜けた喘ぎ声がこだました。顔を見ると、瞼は先ほどからずっと閉じられたままだった。気にせず続けて下腹部の周りをまたもや焦らすように攻めていった。
 興奮はしているが、なぜだか勃たない……。
「こうすけ」
 太ももやお尻を愛撫すると仰け反るような動きを見せた。かりんの指先は小刻みに震え、その先っぽにある爪が俺の後頭部に微かに食い込んでいった。その食い込みにはチクリとした痛みが伴い、いつの間にか心の芯を突き抜けていた。その痛みに身を委ねると、心の中では彼女の苦悩の表情がとぎれとぎれ浮かんできた。
「こうすけぇ」
 今度はこの名前を無視できなかった。俺の名前はこうすけじゃない。彼の名前なのだろう。途端に途方もない虚しさが込み上げてきた……。かりんの陰部に指を忍び込ませると熱い液体に覆われたので、彼女の性感帯を探りながら動かした。性感帯を把握するとそこを攻めた。爪は背中に食い込ませながら声にならぬ喘ぎ声を漏らしている。俺は筋肉が吊っても虚しさが消えないのでずっと攻め続けた。
「あ、そこっ……。もう、ダメ」
 ……。ダメだ、勃たない……。
 どうすれば、どうすれば……。
 ヤバイ、本当に無理かもしれない……。                  
 尊敬? 尊敬……。
 尊敬、尊敬、尊敬……。

――男は女を尊敬してしまうと、刺激が乏しく性欲を感じにくくなる傾向があるんやが、それとは反対の、刺激的である支配や侮辱や暴力によって性的興奮を覚える傾向があるんやで。

 イヤだイヤだイヤだ……、やっぱりイヤなんだ!
 でも……。
 だ、だから、だから……、だから男は嫌いなんだよ……。
 醜い、男は醜い、男は醜すぎる……。だから、男は大嫌いなんだよ!
 男は醜い、醜い、醜い……。
 でも……、このままだと相手を傷つけてしまう……。恥をかかせてはいけない……。今の状態を考えるとしょうがない……。
 女を尊敬するな。支配しろ侮辱しろ暴力を振るえ……。
 男は醜い、醜い、醜い……。
 もう、いい! うるさいんだよ。黙れ。
 俺は醜いんだよ。男だから醜いんだよ。男なんだから、醜くて当たり前なんだよ!
 女を尊敬するな、尊敬するな、尊敬するな!
 支配しろ侮辱しろ暴力を振るえ!
 そう思いたくないジレンマに駆られながらも、無理矢理スイッチを入れて、妄想の世界で陵辱し始めた。そうだ、その調子だ。その調子。
 もっと凌辱しろ! もっともっともっと!
 尊敬するな、尊敬するな、尊敬するな!
 全身も心も震わせながら、死に物狂いで、かりんと同じ昂ぶりを手に入れることに成功した。素早くコンドームを装着して股を大きく開かせると、すぐさま身体を近づけて自分のものを挿入する。そのまま太腿に手を添えながら奥まで入れていく。
 すると、閉じられているかりんの瞼には涙があふれ、すぐに心を潤すような一滴の雫が頬をつたってゆっくりと落ちていった。それを見つめながら欲望のおもむくままに腰を振り続けると、瞼に溜められていた雫が散らばりまつや頬をうっすらと濡らした。
「好きだよ。こうすけ」
 俺は散らばる雫を微かに浴びた。
 背中に爪の食い込みが増すのを感じた。
 かりんとは異なる虚しさを伴った自分の雫を拭った。
 一秒でも早く果てるよう無我夢中で腰を動かし続けた。







☆8章の参考文献
・セックスレス亡国論 鹿島茂 朝日新書
・セックスレスの精神医学 阿部輝夫   ちくま新書
・セックスレス・カウンセリング 阿部輝夫 小学館
・10歳からネットで〝エロ〟に触れる現代、ポルノ依存症の恐ろしい実態とは? ログミー http://logmi.jp/22759
・日本性分化疾患患者家族会連絡会 ネクスDSDジャパン https://www.nexdsd.com/  
・境界を生きる―性と生のはざまで― 毎日新聞「境界を生きる」取材班
・LGBTと性的少数者の違い、日本人の誤解とは? 当事者で対立の歴史も (2016年5月1日) 原田朱美 withnews 
https://withnews.jp/article/f0160501001qq000000000000000G00110101qq000013362A
・LGBTQIAP...キリがない!多様な性を示す、「LGBT」以外の表現まとめ 2CHOPO(パリ発!虹色まきむぅのNEWSサテライト)第81回(2015年1月23日) 牧村朝子 http://www.2chopo.com/topics/6662/
・【ジェクス】ジャパン・セックスサーベイ2020 北村邦夫 杉村由香理
  https://www.jfpa.or.jp/sexsurvey2020/index.html
・実践イラスト版 スローセックス 完全マニュアル アダム徳永 講談社
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:127,481pt お気に入り:2,374

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:203,698pt お気に入り:12,111

恋心を利用されている夫をそろそろ返してもらいます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:69,160pt お気に入り:1,310

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,888pt お気に入り:847

ネタバレなしの感想BOX【本】

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:0

貴方が側妃を望んだのです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,896pt お気に入り:7,111

処理中です...