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貴族用の牢屋にリィカルナを寝かせて、しっかり暖めてやる。
服は、女性兵士に着せてもらった。

おそらく牢を出たことなど覚えていないだろうから、リィカルナが目を覚ましたら知らせるように牢番に伝えて、俺は父の元に戻った。

二晩寝ていないのだ。
しばらく寝ているだろう、と思ったが、一時間ほどで知らせが来た。

「出してくれと、公爵閣下の元に戻らなきゃ、と仰っておりまして」

牢番の困り切った報告に、俺は足を速めた。


※ ※ ※


牢にたどり着けば、リィカルナは牢の柵にしがみついていた。

「リィカルナ」

声をかけると、視線が向けられる。
目が僅かに見開かれたように感じた。

「アレクシス殿下……? お願いします、わたしをここから出して下さい。なんで、わたし、ここに……。お願いします、公爵閣下に謝らないと、お母さんが……!」

やはり、牢から出たことはまるで記憶にない。

それに、公爵閣下、という呼び方に違和感を覚える。
普通にベネット公爵のことはお父様と呼んでいたはずだ。
それが、今リィカルナは自然に公爵閣下と呼んだ。

つまり、普段リィカルナはベネット公爵をそう呼んでいたんだろう。父と呼ばせてもらえなかったのだ。

リィカルナの顔色は、ほんの少し戻っているが、元々が悪すぎたのだ。
戻ったと言っても、良くなったと言えるレベルじゃない。
まだ休んでもらう必要があった。

牢番に鍵を開けてもらい、中に入る。

まともに体が動かないのだろうが、それでも懸命に開いた扉から外に出ようと動こうとしたのを、留めて抱き上げる。

そのままベッドに寝せるが、リィカルナから出た言葉は悲鳴だった。

「いや……! 離して……! お母さんが、死んじゃうの……!」

動かない体を必死に動かそうとする。
その眦から涙が零れて、俺はたまらなくなって抱き締めた。

「大丈夫だ、死なない。お前の母親は、保護に向かっている。だから心配するな。もうベネット公爵の言うことを聞く必要はないんだ」

「…………………ぇ……?」

動こうとしていた体の動きが止まった。
俺はリィカルナの顔をのぞき込む。

「大丈夫だ。母親は心配いらない。だから、今はお前は自分の心配をしろ」

大きく見開いた目から、涙が落ちる。

――ゾクッとした。
ゾクッとするくらいに、綺麗だった。

リィカルナの顔に見入って、動けなくなった。

そのまま、どのくらい時間が経ったのか。
ふいに、その目が閉じた。体から力が抜けたのを感じて、我に返った。崩れ落ちそうになるのを支える。

ほう、と息を吐く。
どうやら、また眠りに入ったらしい。

「今度は、ゆっくり休めよ」

ベッドに横たえると、短く刈り込まれた頭に触れて、撫でた。

兄たちが、無事母親を保護して戻ってきた、と報告を聞いたのは、それからもう少し後のことだった。


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次回より、主人公視点に戻ります。

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