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42.トミタカとゆかいな仲間たち

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「主よ、申し訳なかった。まんまとレベッカの挑発に乗せられて……」
「はあ、はあ、大丈夫だよ。張遼ちゃんに悪気が無いのは分かっているからね」

 張遼ちゃんの面前で、お姫様抱っこをされながら私にキスをしたレベッカ。それを見た張遼ちゃんは大激怒である。青龍偃月刀を振り回しながら、レベッカを抱えたままの私を追いかけ回したのである。ト●とジェリーを彷彿させる追いかけっこが長らく続いたが、ようやく我に返ったようである。

「理由はどうであろうと、主を巻き込むなんてもっての外です。主よ! どんな罰でも甘んじて受けますから……」
「いやいや、あの程度の事で張遼ちゃんを罰する事なんて出来ないよ。それに原因は私にもある訳だからね」 
「それでは他の者に対しての示しがつきません。何卒罰を……」

 張遼ちゃんは生真面目で頑固な面もあるので、この件をなあなあで済ませるわけにはいかないようだ。しかしながら、私は張遼ちゃんを本気で罰する気は無いのである。考え抜いた末、私の灰色の脳細胞は素晴らしい答えを導き出すのであった。

「はわわわわわっ、主よ――これは一体……」
「んっ?! これが張遼ちゃんへの罰だよ。とても恥ずかしいだろ?」

 張遼ちゃんを抱きかかえてお姫様抱っこをすると、彼女の顔が湯気が出そうなほどに真っ赤に染まっていく。

「恥ずかしいですが、これは罰ではなくて御褒美です。こ、これでは示しが……」
「何を言ってるのかな張遼ちゃん。勿論、これで終わりじゃないよ。このまま張遼ちゃんを抱きかかえて、建屋の中を歩き回るんだからね」
「大勢の人目がある場所で、主に抱かれたまま歩き回る……。こ、これはもしや、罰にかこつけた主の恋人宣言??? 皆に見せつけて、俺の女に手を出すなゴルァ! ――みたいなシチュエーション? きゅっ、きゅ~~~~~っ♡ 」

 恍惚の笑みを浮かべながら、張遼ちゃんが妄想を大暴走させているようだ。初心な張遼ちゃんに対して、少々刺激が強すぎたようである。

「張遼ちゃん、本当に大丈夫かい? そんなに恥ずかしいなら中止するけど」
「これを中止するなんてとんでもない! しかし主よ――これでは罰が足りません。で、ですから、私にもっと恥ずかしい事を……」

 張遼ちゃんがゆっくりと目を閉じる。如何やらキスをして欲しいようである。しかし騒ぎを聞きつけて、アドニス商会の護衛やメイドたちも集まり始めており、ちょっとした茶目っ気がとんでもない事態に発展しそうである。

「クソ! あのオッサン――人前で美女とイチャイチャしやがって!」
「さっきまでレベッカさんと戯れていたのに、今度は別の女だと! ぐおぉぉぉっ、てめえの血はなに色だーっ!!」
「キッス♪ キッス♪」

 むさい男たちは血の涙を流し、女の子たちは黄色い歓声を上げている。もはや引くに引けなくなった私は、張遼ちゃんの可憐な唇に静かに唇を重ねるのであった。

「きゃ~~~~~~~っ♪」
「てめーはおれを怒らせた!」
「貴様には地獄すらなまぬるい!」
「駆逐してやる!」

 女の子たちは大喜びであるが、嫉妬に駆られた男たちは武器を携えてジリジリと距離を縮めてくる。凄い殺気だ。一難去ってまた一難である。

「こ、これは非常にマズい展開だな。張遼ちゃん、逃げるからしっかり掴まっているんだよ」
「はわわわわわっ、キスの後は、主と愛の逃避行??? きゅっ、きゅ~~~~~っ♡ 」

 ポンコツと化してしまった張遼ちゃんはもはや役に立たず、私は彼女を抱きかかえたまま建屋の中を再び逃げ回るのであった。


「はあぁ~~っ、酷い目に遭った。この商会に来てからろくでもない事ばかりだよ」

 何とか客間に逃げ込んだ私は、未だ夢見心地の張遼ちゃんをソファーに下ろすと大きな溜め息をついた。そんな疲労困憊の私を、ニコニコ顔のリルルが出迎えてくれた。如何やら希望通りの奴隷を購入できたようである。

「アハッ! ご主人様、お疲れ様ですぅ~。でもその苦労は報われると思いますよぉ~。何せ、有望な人材が大勢いましたからねぇ~。今からご主人様に紹介してもいいですかぁ~」
「ああ、頼むよ。リルルの目に留まった人たちなら期待できそうだ」
「ウフフ、大いに期待してくださいねぇ~♪ それじゃあ、先ずはライラちゃんからこっちに来てぇ~」

 リルルに呼ばれて隣の部屋から姿を現したのは、ライラという名の人間の女性であった。流線型の見事なボディラインと長身が特徴のキリっとした美人であった。しかし何処かで見たような雰囲気と顔つきである。

「う~ん、確かに美人さんだけど、何処かで見たような……。ああっ、レイラだ! 張遼ちゃんラブのレイラにそっくりだよ」
「クスクス、正解ですぅ~♪」
「なるほどね、リルルの考えている事が大体分かったよ。イメージプレイで、リアルくっころの騎士にするつもりだね」
「アハッ! さすがご主人様ぁ~。エロい事になると、とんでもない頭の回転の速さだねぇ~」
「それって褒めてるの?」
「クスクス、勿論ですよぉ~」

 レイラは辺境伯様の配下で、張遼ちゃんをお姉さま――と呼んで慕っている女騎士である。しかし男には嫌悪感を露にしており、特に張遼ちゃんの主である私は、もはや仇敵扱いであった。そして街中でも男に横柄な態度で接しており、ほとんどの男たちが彼女を恨んでいるのであった。そんなレイラにそっくりの女性が娼館に居たら、どうなるかは火を見るよりも明らかである。

「う~ん、街の男たちは憂さ晴らしに殺到するだろうけど、それだとエスカレートして危害を加えるバカな連中が現れるかもしれないよ。彼女の身の安全が保障できないなら、それは許可できないな」
「勿論、くっころの騎士のイメージプレイだって事は周知させるよ。私だって、女の子を傷つけたり酷い扱いをするような男は許せないですからねぇ~。その為に強力な用心棒も雇ったんですよぉ~。クスクス、その者たちも紹介しますねぇ~。君たち、中に入ってご主人様に挨拶をしなさい」

「サブで~す♪」「アドンで~す♪」「バラゾークでございます♪」 

 レ●ゴー三匹のようなノリで筋肉質の暑苦しいオッサン三人が姿を現した。私に熱い視線が注がれているのは気になるが、リルルは男の奴隷も購入したようである。

「意外だね。リルルは男の従業員は使わないと思っていたよ」 
「アハッ! 従業員が女ばかりだと、付け上がって絡んでくるバカな男が出てくるからねぇ~。そんな連中をこの三人にお仕置きして貰おうと思っているんですよぉ~。あっ! 勿論、性的なお仕置きだよぉ~」
「ウホッ! 悪い子たちにはガン掘り祭り開催ね♡」
「合法的にヤレるなんて楽しみね♡ 良い人に買われてよかったわ~」
「うふっ、私の聖剣が火を噴きそうね♪ それにしてもご主人様はエキゾチックないい男ね♡」
「アハッ! 御覧の通り――この三人は腕も立つし男にしか興味が無いから、従業員の女の子たちも安心して働けると思うよぉ~。でもご主人様だけは、お尻に気を付けた方がいいかもねぇ~。クスクス」
「ちょっとリルル――変な事を言わないでくれよ!」

 絡みつくような熱視線に当てられ、思わずお尻を両手で隠してしまった。男のは勘弁して貰いたいものである。

「それじゃあ他の子たちも紹介するね。みんな逸材ばかりですよぉ~」

 リルルに呼ばれて、可愛い女の子や色っぽい美女たちが次々と姿を現した。リルルの説明によるとハーフエルフや獣人等の亜人が多く、人間の女性は少ないようである。しかしどの女性も、元世界のアイドルやモデルに匹敵するほどの可愛らしさや美貌を誇っていた。

「いやはや、さすがリルルだね。みんな魅力的でステキな女性だよ」
「アハッ! ありがとうございますぅ~。あっ! それからご主人様ぁ~、このマリスちゃんが私の一推しですよぉ~。ほら、マリスちゃん――ご主人様に挨拶してぇ~」
「マ、マリスです。田舎者で世間知らずですが、よ、よろしくお願いします」

 リルルに呼ばれて一人の女の子があたふたと前に出てくる。ペコペコと頭を下げる女の子は、少しオドオドしている純朴な少女であった。しかし下地は良く、化粧して着飾れば相当に栄えそうな美少女であった。

「マリスちゃんは絶世の美女に化けると思うけど、それだけじゃないですよぉ~。それより私は、彼女の秘められた能力に期待しているんですよぉ~。ご主人様ぁ~、もったいぶらないで例のアイテム――エロスカウターで彼女の能力を確認してみてくださいよぉ~」
「リルル! な、何故その事を……」
「アハッ! 私はご主人様の事なら何でも知ってますよぉ~。ケダモノチ●ポの太さや長さとかぁ~、アネット様とエリス様の親子丼を狙って……ムギュ~」
「はいはい、リルル君は少し黙ろうね!」
 
 とんでもない事を口走るリルルの口を慌てて塞ぐのであった。

「まったく油断も隙もあったもんじゃないな!」

 リルルに促された私は、渋々と無限収納ボックスからエロスカウターを取り出して装着する。このアイテムは女神であるテュケー様から授かった物で、エロスの数値換算による個体エロパワーの可視化や、性癖、性的指向を看破できる耳当て式のオーバーテクノロジーメカである。当然、某アニメで有名なアイテムのパチモンであるが、プライバシーだだ漏れの危険な代物である。勿論、悪用も出来るので、周りにバレないように人前での使用は控えていたのである。しかしマリスの能力を分析した瞬間に、私は顎が外れる程の衝撃を受けるのであった。

名前    マリス

職業    奴隷

エロパワー 530000

性癖    どS 緊縛好き(する方) 淫乱 加虐

性的指向  オヤジ好き 女王様 M男殺し

意中の人  無し

仇敵    無し

加虐度         E/SSS
被虐度         E/E
エロテクニック D/SS
色香      C/SS

「見た目からは想像がつかないけど、とんでもない天賦の才だな。磨けば光る、特大のダイヤの原石ってところか……。う~ん、リルルは人を見る目に秀でているね。これからも良い人材の確保を頼むよ」
「アハッ! ありがとうございますぅ~。でも人材の確保だけでなく、育成の方にも力を尽くしますよぉ~。あっ! いい事を思いつきましたぁ~。マリスちゃんの育成が終わったら、真っ先にご主人様にテクニックを味わってもらいますからぁ~♪ クスクス、楽しみにしていてくださいねぇ~♡ 」
「う~ん、気持ちは嬉しいけど、新しい性癖に目覚めそうでちょっと怖いなぁ……」
「え~っ、私のご主人様なんですからぁ~、SもMも極めた性技超人になってくださいょ~。クスクス、人呼んで――たたかえ!!ザーメンマン……いったぁ~い」

 とんでもない下ネタをぶっ放すリルルにチョップをお見舞いしてやった。このアホサキュバスは、Boiled eggさんから苦情が来たらどうするつもりなのだろか? まったくとんでもない奴である。

「ふ~っ、何はともあれ、リルルの方は従業員の頭数が揃ったようだね。後は私の護衛の増強だけど、レベッカに匹敵するような人材はいたのかな? おーい、張遼ちゃん! そろそろ正気に戻ってよ」
「うふふ、主と愛の逃避行……ジュルルッ。はっ! 主よ、いかがなさいましたか?」
 
 惚けていた張遼ちゃんであったが、私の呼びかけで我に返ったようである。慌てて口元の涎を拭い取ると駆け寄って来た。

「張遼ちゃん、私の護衛の件だけど、良い人材は見つかったのかな?」
「は、はい。レベッカ程ではありませんが、武勇に優れた人材を見つけました。紹介しますので、暫くお待ちください」

 あたふたしながら張遼ちゃんが部屋を後にする。そして待つ事数十秒――体格の良い大柄の女性が、張遼ちゃんに率いられて入室して来た。如何やら牛の獣人のようで、胸も大きく頭には見事な角もある。きっと得意技は、ハ●ケーンミキサーに違いないだろう。

「ふ~ん、旦那がチョウリョウさんのご主人様なのかい。あたいの名はスバルっていうんだ。よろしくな」
「こ、こらっ! 主に対して失礼だぞ。そんな気安く話しかけてはいけないぞ」
「ははっ、すまないね。なにしろ物心が付いた頃から戦場で暴れていたからね、礼儀作法なんてサッパリ分かんないんだよ」
「いいよいいよ張遼ちゃん――礼儀作法なんて二の次だよ。人柄に問題がなく、腕達者ならそれで充分だよ」
「へ~、旦那は中々話が分かるね。まっ、これからよろしく頼むよ」
「ああ、こちらこそよろしく」

 手を差し出したスバルとガッチリと握手をする。手は私よりも大きく、節くれだった武骨な感触が伝わってくる。これは幾多の戦場の死線を潜り抜け、生き残った戦士の証なのであろう。

「ははっ、旦那は、あたいと握手しても顔色一つ変えないんだね。大抵の男は、あたいを見ると恐れるか見下していたからね。旦那みたいな人は初めてさ」
「スバルを恐れる? こんな美人さんなのに? はあ~、世の男は見る目がないんだな」
「び、び、美人? あたいがかい? 旦那、からかうのも大概にしてくれよ」
「からかう? 私は、思った事を口にしただけなんだが……」

 スバルの手を握りながら会話をしていると、彼女の顔が徐々に赤色に染まっていく。そんなスバルを可愛いな――と思っていると、バタンと扉が開き不機嫌顔のレベッカが乗り込んできた。

「さっきまで私と肌を合わせていたのに、もう新しい女を口説いているのか? トミタカは、いくら何でも節操が無さすぎだな」
「そ、それは違うよ。私は本音を語っただけで……」
「ふんっ、その女が優秀なのは確かだ。護衛にすることは反対しない。しかしその口説き文句――私も似たようなことを言われた気がするのだがな」

 ジロリと私を睨むレベッカ。如何やら嫉妬しているようだ。嫉妬してくれるのは嬉しいが、そのうち後ろからブスリと刃物で刺されるんじゃないか? ――そんな事を考えてると、冷たい汗が滲み出てくる。

「はは~ん、旦那は、レベッカさんも口説き落としたのかい? こいつは驚いたね。そこいらの男では歯牙にもかけなかった、あの気高いレベッカさんをね~。……ところで旦那は、レベッカさんを妻に迎えるつもりなのかい? あたいの目から見ても、お似合いの二人と思うんだけどね~」

 ニヤニヤとスバルが悪い笑みを浮かべているが、このやり取りは大ポカであった。レベッカは必死に喜びを隠しているが、血相を変えた張遼ちゃんがスバルにズカズカと迫っていった。

「スバルさん! レベッカより、私の方が主に相応しいですよね?!」
「いやそれは……は、はい……」

 張遼ちゃんの凄まじい剣幕に、猛者であるスバルも気圧されている。凄い迫力だ。自業自得とはいえ、余りのカオスに頭を抱えていると、悪ノリしたリルルも参入してきた。

「アハッ! 初めましてスバルちゃん。私はご主人様の妻で、性奴隷のリルルですぅ~。末永くよろしくねぇ~」
「これまた凄い美人だが……妻で性奴隷? 理解が追い付かないが、こんなに沢山の美女を侍らせているなんて、旦那は一体、何者なんだい?」
「クスクス、ご主人様はやり手の商人だよぉ~。でもとんでもないスケコマシでぇ~、獣人の女の子たちや辺境伯様の奥方や娘さんにも好意を持たれているからねぇ~。別の意味でもやり手だねぇ~」
「人間でやり手の商人なのに、獣人も好きなのかい? 好みの範囲が広いのは分かったけど、まさかあたいも……」
「ご主人様は魅力的な女性に目が無いからねぇ~。勿論、スバルちゃんも狙われてるよぉ~」
「あたいが魅力的な女性で狙われているって? 女としてそれは嬉しいけど、それってあたいもアレに巻き込まれるって事かい?」

 スバルが指差した先で、張遼ちゃんとレベッカが再び苛烈な闘いを繰り広げていた。

「報讐雪恨!」
「ははっ、トミタカに抱かれてパワーアップしたからな。先ほどの私と同じ――と、思ったら大怪我をするぞ」

 張遼ちゃんの青龍偃月刀と、レベッカのシミターが激しくぶつかり合う。金属同士が火花を散らし、目にも止まらぬ打ち合いが何合と続いていく。このまま闘い続けたら、両人ともただでは済まないだろう。私は大事な二人を止めるべく、最終奥義を使用する事にした。

「私のために争わないで!」 

 一昔前の少女漫画のような決めセリフが、アドニス商会の客間に虚しく響き渡るのであった。 

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